第4話:家督継承
皇紀2210年・王歴214年・秋・教会ベリアル教団の自由都市
「国王陛下、エレンバラ男爵家の当主、ハリーでございます」
祖父が俺を国王に紹介するが、これは家督継承のための大切な儀式の一環なのだ。
まだ二歳に過ぎない俺が男爵を継ぐのだから、異例な継承式になる。
周囲にいる人間は、全員俺を傀儡だと思うだろう。
傀儡だと思われてもいい、生き延びられればそれで十分だ。
母の実家に行って殺されるのも、叔父に殺されるのも嫌だからな。
「ふむ、事前に色々と話しあったが、本当にいいのだな、宮中伯」
国王が祖父の事を宮中伯と呼んでいる。
祖父は前国王時代に国王の側近を務めていて、とても信頼されていたらしい。
だからこそ、二歳の俺を男爵家の当主にするような無理を通せた。
実際問題、俺が当主になる事に関しては色々ともめたらしい。
父には四人も弟がいて、全員が王家に仕えているのだ。
その誰が男爵を継いでも、国王にとっては側近が男爵家を支配することになる。
だからこんな暗に叔父の誰かに家督を交代させろという謎かけをしているのだ。
「はい、ハリーが当主となり私が後見する。
これが一番国王陛下のお力になれる方法でございます」
ありがたい事に、祖父が力強く断言してくれる。
若き国王もこれ以上は何も言えないようだが、まあ、それも当然だろう。
今年の夏頃に首都を占拠している有力地方騎士家と戦ったが、ぼろ糞に負けてしまい、今も首都を放り出してこの自由都市に逃げて来ている状態だ。
こんな状態で先代国王の忠臣の願いを退けて、敵に寝返られてしまったら、亡命先の近くに敵の手先を生み出してしまう事になるのだから。
「うむ、宮中伯がここまで断言するのだ、もうお前達も何も申すな。
ジャック達も納得している事に口出しして、大切な味方の家中を争わせるような事をするのではないぞ」
先祖や自分がやってきた事を棚に上げてよく言う。
兄弟や叔父甥の間で王位を争い国中に戦乱を広げたうえに、勝ち残るために貴族家に空約束を連発する。
ようやく勝ち残って王家の内輪もめを終わらせたと思ったら、味方につけるために与えた特権で強くなった有力貴族家の家督継承に口出しをする。
その所為で有力貴族内でも家督を争う戦争が起こってしまう。
そんな事を延々と二百年以上繰り返すから、この国から戦いが無くならないのだ。
今回も本当はお前がエレンバラ男爵家の家督継承に口出ししたのだろうが、糞王!
「「「「「はっ」」」」」
国王に側近達が一斉に礼をとるが、叔父達は苦々しい表情をしている。
やはり国王が家督継承に嘴を入れてきたのだな。
俺はこの事を絶対に忘れないからな。
俺は受けた恩も忘れないが、やられた事も忘れない性格なのだ。
いつか必ず報復してやるから、覚悟しておけよ、糞王。
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