第2話:義親子喧嘩
皇紀2210年・王歴214年・秋・エレンバラ王国男爵領
最悪の状況を想定していたが、ロスリン伯爵は領内まで攻め込んでこなかった。
父が命懸けでロスリン伯爵に迫り、伯爵軍の主力百人を殺した事が大きかった。
父の立場なら、家や領地を守るために仕方がない決断だったのだろう。
だが、俺から見れば困った決断だった。
ロスリン伯爵側から経済封鎖されたとしても、山を越えたクレイヴェン伯爵側と交易する事ができるのだから、無理をする事などなかったのだ。
「オリビア、ハリーに大切な話がある、席を外してくれ」
祖父が真剣な表情をして母に話しかけている。
義理の父親とは言え、未亡人になった母とは二人きりにならないようにしている。
数人の侍女が同席する場所でなければ母と話さないのだ。
俺と母と祖父だけになってしまうと、悪い噂がたつのかもしれない。
母の侍女にも聞かせられない話なのだろう。
母が素直に祖父の言う事を聞いてくれればいいのだが。
「どのような話しをされるのか教えていただけないと、席は外せません」
普段は臆病な母が、震えながらとはいえ祖父に口答えした。
俺を護ろうとしてくれているのかもしれないが、困る、とても困る。
ここは素直に祖父に従って欲しい。
まだ二歳の、しかも異世界の状況が分からない俺には、祖父の知恵が必要だ。
生き残るためには色々な話しを聞かなければいけないのだ。
「ハリーの気持ちを聞きたいのだ。
男爵家に残りたいのか、それともオリビアの実家に帰りたいのか、母親であるオリビアの感情が入らない状態で、本心が聞きたい」
「まあ、私はハリーの母親です。
ハリーを護らなければいけないのです。
私のいない所で、男爵家の後継問題の話などさせられません」
「ふう、オリビアがハリーを護ろうとする気持ちはよく分かる。
母親として息子を護ろうとするのは当然の事だろう。
だが、儂もハリーを護らなければならん。
ハリーがオリビアの実家に戻ったら、厄介者扱いされかねない」
「まあ、お義父様は私がハリーを捨てると言われるのですか」
「オリビアはハリーを大切にしたいと思うだろう。
だが、ヴィンセント子爵家がハリーを大切にしてくれるとは限らない。
オリビアも実家の経済状況は分かっているだろう。
少しでも力のある王国貴族と縁を結び、支援をしてもらわなければならない。
オリビアを再婚させない訳がないのだ。
だが我が家がこんな状況になって、ハリーとともに実家に戻るのだ。
再婚する時は、我が家よりも家格も経済状況も悪い家に嫁ぐことになる。
それに、後継問題でもめるかもしれないハリーを連れていく事を、新しい嫁ぎ先が許してくれるとも思えん」
祖父と母の話で、どうしても分からない事がある。
我がエレンバラ家を王国貴族と言う事だ。
王国貴族以外にも貴族があるのだろうか。
王国が統制力を失い貴族が領地争いに明け暮れているのは分かっている。
そんな中で、新たに貴族家を任命するような強大な家が現れて王公国を名乗ったら、王国貴族以外の貴族があってもおかしくはない。
だがそんな勢いのある国の貴族なら、王国貴族よりも力を持っているはずだ。
祖父の話しでは、母の実家のヴィンセント子爵家は、王国貴族である我がエレンバラ男爵家よりも力がないという。
他に考えられるのは、王国以外にも国がある場合だ。
広い大陸の一部が王国領で、周囲に他の国があるのだろうか。
だがそれだと、こんなに内乱の激しい国を周辺の国が見過ごすはずがない。
併呑しようと攻め込んで来るのが普通だが、そんな話しは聞いた事がない。
そういう力関係を正確に知っておかなければ、俺の身の置き所を決められない。
今俺に必要なのは、知識、いや、情報と時間なのだ。
魔力を増強して魔術を覚えるまでは安全な場所が確保する事が一番大切なのだ。
そして安全と時間を確保するためには、情報が必要なのだ。
「ははうえ、じじさまのはなしがききたいです。
ははうえとはなればなれにならないほうほうをおしえてもらいます。
だから、じじさまとふたりにしてください」
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