第39話 私のものになりなさい(R18)

 ★18歳未満閲覧禁止★

 ※この話は二人の愛情の重さを補足するためのものですので、飛ばしても問題ありません。






 妖族の街で「夜に鳴く鶏亭」に踏み入れないことも初めてなら、日をまたぐことも初めてだった。

 魔族の司令官、人族の参謀としてそうそう「お泊まり」などできるものではないし、敵同士である以前にハルとしてはアルノを男だと思い込まされていのだから当然と言える。

 だから知らなかったのだが、この街は宿泊施設も整っておりもちろんそれらは観光用のしっかりしたものだ。間違っても大隊長だった頃のハルが足を運んだ連れ込み宿のようなものではない。

 部屋は清潔で広く、余裕のあるキングサイズベッドはスプリングの軋みもない。お湯の使えるバスルームも設置されているし、どのような客層であっても問題ないよう室内の防音も完全になっている。


 人族も魔族も到達できていない技術の境地に、初めて入った二人は始め興味津々であちこち眺めたりいじったりしていたが、

「な、なんかちょっと恥ずかしいわね」

「だ、だな」

 いくらアルコール度数が低くて酔わないと言え、入っていると入っていないでだいぶ違う。

 普段なら酒の勢いもあってバンバン会話を飛ばす二人だが、今日はその酒すら一滴も入っていないのだ。アルノはもちろんこういった経験が皆無だし、ハルも経験はあっても娼館でのものだ。性欲の発散をしたことはあっても、愛情の着地点としての性交経験はないと言って良い。

 とは言え、いつまでもお見合いをしていたも仕方ないし、この場合は少なくとも経験のあるハルから動くべきだった。

 バスローブだけを纏い、ベッドの上にペタンと座って両腕で体を抱えるアルノを正面に見据え、ふうっと大きく呼吸して口を開く。

「アルノ、怖いかも知れないが」

 顔を上げたアルノに、

「俺はお前の全てを自分のものにしたい。だから止めるつもりはない」

 アルノの全てに自分を刻みつけて、初めて自分のものに出来る。

 だからここでアルノを気遣って引く、などという選択肢は存在しない。

 それが彼のアルノへの愛情であり永遠を共に過ごす決意だった。それを感じ取ったアルノも、ハルの気持ちが浸透するに従い落ち着いて来る。

 自分だって同じだ。

 どうしたら良いのかわからずまごまごしてしまったが、決意だけならハルに負けている気はしない。

 だからハルを正面に見据え、こくりと頷いた。


 剣だこなのかペンだこなのか、わからなくなったくらいに時間を刻んだハルの手がアルノにかかり、するりとバスローブを脱がす。

 カーテンの隙間から差し掛かる落ちかけた太陽の橙が、白い肌を滑り思わず息を飲むほどの肢体が顕にされる。

 一流の娼館に行ったこともあるが、これほどの体を目にすることはなかった。成長しかけ、というのが相応しい程度だからくびれも少ないし、胸も小ぶりと言うことすら躊躇うほどしかない。

 けれど、上気した体は紛うことなく女を主張しているし、それを見たハルのオスが強く反応してしまう。

 まどろっこしく感じながら自分もバスローブを脱ぎ捨てると、ベッドに押し倒して口付ける。優しくしようなどと言う気持ちは、小さく柔らかい唇に触れた途端に吹き飛んだ。


 荒々しく唇を舌で押し広げ、捩じ込む。

 指を絡ませた手をベッドに押し付け、動きを封じたまま驚きに思わず目を見開いたアルノに構わず、唇も歯も舌も、全てに触れ舐めとっていく。淫猥な水音が響き、それを耳にしたアルノもまた本能のままに舌を動かして行った。




 ややあってようやく顔を離したハルが、覆いかぶさったままでその顔を横にずらす。

 え、と思う間もなく耳のすぐからぴちゃり、と音がし耳たぶから裏まで至るところにハルの舌が這っていく感触に襲われた。

 思わずびくりとした体が更に興奮を煽ったのか、舌を這わせたまま喉、鎖骨、胸、臍と降りて行く。何がハルのお気に入りなのか、所々で止まってはねぶり尽くし、その度にアルノの指は強くハルの指を絡め取る。

 執拗に身体中へのキスを繰り返すのに、アルノが最も触れて欲しい、けれど最も怖い部分には一切手を触れて来ない。

 内腿を擦り合わせて無意識のうちにアピールすると、それに気づいたのかハルが体を両脚に割り込ませて邪魔をする。

 浅い息の感覚が徐々に短くなり、荒く小さな呼吸を繰り返す。

 腰を浮かせると逆にハルが腰を引く。胸を突き出そうにも両手を押さえ込まれていて上半身を少しも動かせない。

 それなのにハルの蹂躙は続き、もう何分経ったのかわからなくなるほど嬲られたアルノの体も意識も、限界を迎えそうになっていた。


「ハル……」

「ん?」

「もう、無理……ねえ、もう焦らさないで」

「だから愛しているだろう?」

「そうじゃなくて、ねえ、わかってるんでしょう」

 桜色の乳首は痛いほど勃起し、閉じさせて貰えない股間からは愛液が垂れているのがわかる。


 思い切り握りしめたアルノの指がハルの手の甲に食い込むが、それを気にする余裕はないしハルも全く感じていなかった。

 ただ黙って、今まで見たことのない微笑みを浮かべると耳元に口を近づけ、


「まだダメだ」


 絶望的な宣言に、息を飲む。

 もう限界なのだ。

 体の内側に熱が篭って、発散しようにない欲情が暴れまわっているのがわかる。これ以上焦らされては事を成し遂げる前に狂っていまいそうだ。

 それをたどたどしく伝えようとしたアルノの耳に、更に言葉がかかる。


「だが」


 え、と思う間もなく左の胸に電撃が走ったような気がした。

 咥えられている、そう認識する間もなくアルノの小柄な体が跳ね上がり、ぎゅっと引き結んだ口から押し殺した悲鳴が上がる。

 右手からハルの指が離れ、そう認識した瞬間に右胸からも刺激が伝わる。真っ白になりそうな意識の中で、左の乳首を口の中で転がされ、右の乳首は指でそっとなぞられ摘まれる。

 仰け反った体のまま声にならない声を上げ、必死に意識を保っていると急に刺激が止み、何事かと思う間もなく足の間から水音がした。


「ぃぎっ!……ハ……ル、そこだ……めっ!」

 離された両手でシーツを掴む。

 誰にも見せたことがない、触れさせてはならない場所にハルの頭があり、ひっきりなしに水音が響く。

 その音に恥ずかしいと思う以上に、信じられない快感が脳を突き抜け、足を閉じて妨げようにもハルの頭で邪魔されてどうにもならない。防ぎたいのに、なぜか自分は腰を突き上げ、ハルに押し付けようとしている。

 自分の行動が理解できない。

 皮を剥かれ、初めて外気に晒されたクリトリスを空気より先にハルの唾液が包み込む。根元を舌先で突かれ、勃起した先端を上下左右から責められる。唇で優しく根元を挟まれたかと思うと、逃げようのないクリトリスを舌で激しく転がす。

 今度こそ真っ白になった頭では、自分がどんな悲鳴をあげているのかわからない。

 食いしばった口端から涎が垂れるのも構わず、腰を押さえつけられて悶えるアルノは襲いかかる未知の快楽に震えていた。




 橙の夕陽も差し込まなくなった部屋に、アルノの小さい嗚咽だけが流れる。

 嵐のように襲いかかる快楽に耐え、かろうじて意識を戻したアルノに体をもたげたハルが覆いかぶさった。

 うっすらを目を開けると、真剣な表情のハルが見える。

 やりすぎたか、という後悔の色を見取ったアルノは何とか繋いだ意識の下で笑った。

「な……によハル」

「いや、さすがにやり過ぎたかと思ってな。すまん、お前が愛しくて仕方なかった」

「ふふ、なら良いわ。許す」

 まだ息の整わないアルノを待っているのだろう、両肘をつけた手でアルノの栗色の髪を撫でながら、

「アルノ」

「なに」

「王国が欲しいならくれてやる。世界が欲しいなら俺が絶対に獲ってやる。女神だろうと魔王だろうと、相手が誰であれお前が望むならどんなことをしても叶えてやる」

 だから、と。

「俺のものになってくれ」

 真剣な表情でバカなことを言うハルが、あまりにおかしかった。

「く、ふふふ」

「なんだよ、笑うなよアルノ。俺は真剣なんだが」

「わかってるわよバカ。ただ、そんなチンケなものを私が欲しがるとでも思ってるのかなと考えたら、おかしくなっただけ」

「いや、実のところ思ってないな。お前の欲しいものは、俺だろ」

「ナルシスト」

「何とでも言え。俺はもう何も我慢しないし諦めない。お前を手に入れられるなら何でもやる」

「ほんと、バカだわ……んっ、こら」

 ふわりと乳首を撫でたハルの手をはたく。

「だめ。今ハルに触れるとまたイっちゃう」

「くっそ……お前は本当にいい女だな」

「それこそ今更ね」

 ふう、と大きくため息をつく。

 だいぶ呼吸も整った。

 体の表面が、それこそシーツに触れた背中すらも感じるほど敏感になっているが、会話も問題ない。


「ねぇハル」

「なんだ、アルノ」

「この世界が果てるまで。永遠よ?」

 言葉は足りない。

 けれども、女神と魔王、種族は違えど永遠という最悪な制限をかけられた二人には足りなくとも理解できる。


「いや、この世界が果てた後までの永遠だ」

「飽きないかしら」

「あり得ないな。女神の眷属である俺が、魔王に誓ってもいい」

「ふふふふ、あんたは本当に面白いわね」

 軽く笑って、ふと下を見る。

 アルノの視線を追ったハルが、何を見ているかに気づいて顔を真っ赤にし、

「や、これはその、あれだ、しょ、しょうがないだろ」

 慌てるハルに、

「ハル、今までこんなに大きくなったことは?」

 アルノの問いかけに、黙って考え込む。

 なにせ五十年分だ、思い出すのも時間がかかるのだろう。とは言え嘘でもいいから「ない」と答えれば良いのに、とアルノは思うが嘘も誤魔化しも自分に対してしないようにしていると思うと、ほんの少し嬉しさもある。


「ないな。ていうか、自分でもびっくりしてるわ」

「あはははは、何よそれ。そこまで真剣に考えなくても良いのに」

「いやダメだ。アルノに嘘はつかない」

「まったく、何なのよあんたは。今までの雑な態度はどこ行ったのかしら」

「そりゃお前……いやいや、お前が俺に精神魔法かけてたからだろ。大体、魔法効果が消える前でもお前が気になっていたしな」

「それは光栄ね。ね、ハル」

 赤い目が光る。


「私をめちゃくちゃにしなさい。絶対に気を遣わないで」

「……いや、それは……」

 思わず自分の男根を見下ろして不安げに黒い瞳が動く。

 そもそも彼が下にしている体は小さく、人によっては幼女と表現しそうなくらいだ。さすがに好き勝手にはできない。

「ダメよ。好きなようにしなさい。あんた私を誰だと思ってるのよ」

「魔王の眷属、単体種の吸血鬼」

「最強、をつけなさいよ」

「いや、だがな」

「あんた程度に蹂躙されたくらいで壊れたりはしないわ。それよりも、感情の全てをぶつけられた方が、その……ハルの愛情を感じられそうだし、って、きゃっ!」

 く、と小さく呻いたハルを不審げに見たアルノが視線を下げると、更に怒張した男根が目に入る。

「す、すまん、アルノが可愛すぎて漲った」

「ふ、ふふふ、そう、それで良いのよ」

 いやさすがに怖い、と思いつつ覚悟を決める。

 五十年越しの思いは伊達ではない。


「劣情も何もかもを叩きつけなさい。それで私はあんたのものになる。そしてあんたも……私のものになりなさい」

「ああ、そうだなアルノ。俺はお前のものだ」






 夜の帳が完全に妖族の街を覆い尽くす頃にはアルノの悲鳴は喘ぎに変わり、あらゆる思いを精と共に吐き出したハルが力尽きたのは、朝焼けが街路を照らした頃だった。

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