そして幸せに暮らしましたとさ

高橋 凌

いわゆる転生者


 吾輩は転生者である。

 ……と、ユーリは自らをそう思ってはいるが、口に出したことは一度たりともない。

 だって考えてもみて欲しい。

 周囲の人間の誰かから、急に『自分は別世界で死んで、今のこの姿はその生まれ変わりなんだ』と言われたとしたら。

 どんなにその人と親しくしていても、信頼していても、冗談だと思うか、疲れているのかと心配するか……もし本気でそう考えているなら、そっと距離を取るのが精々。

 たとえ話をよく聞いてあげようと申し出ても、その気持ちに野次馬精神が入っていないと絶対に言い切れるだろうか。

 御託をこねてみたが、つまり、ユーリは周囲の誰からも『変わり者』という目で見られたくはなかったのだ。

 だって、既にもう十分だと思うのだ。


「……ねぇ、ユーリ様」

 おっとりと同意を求められて、ユーリははっと意識を戻した。

「ユーリ様?」

 優し気な風貌の女性が心配そうにそっと眉を下げた。

 が、彼女の隣に座っていた白百合のように凛と怜悧な美貌は、ユーリを見下ろして険を含んだ。

「まさか、聞いていらっしゃらなかったのですか」

「も、申し訳ございません、ジュリアさま、エリュシナさま……」

「お疲れでしょうけれど、貴女様も妃の一人。しっかりして頂かなくては帝国の威信に関わります」

「仕方のないことですわ、エリュシナ様。ユーリ様も慣れない事ばかりで大変なのですから、労わってさしあげなくては」

 エリュシナの圧に堪えられず俯いてしまったユーリの背を、ジュリアの温かな手が慰めるように撫でた。

「何しろ—―ユーリ様はまだ七歳。幼くていらっしゃるのですもの」


 そう、ユーリ・グレース・ノルディアは未だ七歳にして、恐れ多くも、ノヴィリス帝国の押しかけ側妃なのである。



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