家から少し行った山の中に小さな池があった。澄んだ水に魚、白い白樺の幹と青々とした葉は子供ながらに綺麗だと思っていた。


そんな池の中から死体が出たらしい。


その話を聞いて、昔の事を思い出した。


子供用の釣り道具を使ってその池で釣りをしていた。たくさん釣れるわけでは無かったけれど、自然を感じながらゆっくりと釣りをするには丁度よく、あまり人も来ないので静かでお気に入りの場所だった。


そんな場所に知らない男の人が居た。あまり来ないといっても自分専用の場所という訳でもないので、礼儀程度に挨拶をして定位置で釣りを始めた。その人からは返答が無かったので、大人なのにとちょっとむっとしたのを覚えている。


「いいなぁ」


昼近くなって、やっとその人が声を出した。気になって盗み見たその人は木々の向こうに見える空を、そこに立ち上る煙を眺めていた。


「いいなぁ」


穏やかに繰り返されるその言葉は、本当にいいものだと思っているようだった。ただ、自分には立ち上る煙の何がいいのかはさっぱり分からなかった。


怪訝に思ってもう一度その人を見ると目が合ってしまい、今度は少し恥ずかしがるように微笑まれた。


「いや、本当に羨ましいと思ってね」

「そうですか」


話しかけられてしまったので、そう短く返す。それ以上は会話が続くわけもなく、昼時だったのでそのまま片づけをして、逃げるように返って来てしまった。


そのあと、その煙は火葬場の煙だったのだと知った。あの人は誰かに弔われる事を羨ましいと思ったのだろうか。

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