【5巻9/15発売】悪役令嬢と悪役令息が、出逢って恋に落ちたなら ~名無しの精霊と契約して追い出された令嬢は、今日も令息と競い合っているようです~【コミック4巻同日発売!】
番外編5.ぴーちゃんとかくれんぼ (ノベル4巻発売決定&電子コミック大賞2024エントリー記念)
番外編5.ぴーちゃんとかくれんぼ (ノベル4巻発売決定&電子コミック大賞2024エントリー記念)
「いーち、にー、さーん……」
四阿にしゃがみ込み、両目に手を当てたブリジットは数字を数えていた。
もはやここを訪れるのは、ブリジットにとって恒例なのだが……今日はユーリと会っているわけではない。今日のブリジットは、自身の契約精霊との真剣勝負に臨んでいるのだった。
数字を三十まで数え終えたところでブリジットは目を開き、緑豊かな景色に向かって呼びかける。
「ぴーちゃん、もういいー?」
もちろん、呼びかけてみても返事はない。
それを確認してから、すっくとブリジットは立ち上がる。
(よし……! 腕が鳴るわね!)
四阿を出たブリジットは首を動かして、地面や生い茂る植物、四阿の裏や階段の隅など、あらゆるところを細かく見て回る。
何をしているのかというと――そう。かくれんぼである。
ブリジットの契約精霊であるフェニックスのぴーちゃんは、人の言葉を使うことができない。しかしその仕草や表情から、なんとなく、ブリジットは彼(彼女?)の言いたいことを読み取ることができる。
その解釈は、ブリジットが思っているよりも外れているのだが――今回は偶然、当たっていた。お尻を落ち着きなくふりふりさせるぴーちゃんは、かくれんぼを所望していたのだ。
どうやら数日前、ユーリの契約精霊であるブルーとかくれんぼに挑戦したのが楽しかったらしい。契約精霊からのおねだりを、精霊好きのブリジットが断るはずもなかった。
「さぁて、どこにいるのかしら?」
あちこちをしらみつぶしに見て回り、ブリジットは顎に手を当てる。
なんせ、ぴーちゃんは小さい。ちょっとした地面の凹みとかでも、あっさりと隠れてしまうだろう。注意深く確認しないと見逃してしまいそうだ。
(たった三十秒しかないもの、そんなに遠くには行ってないはずだけど)
そのときだった。ブリジットの耳が異音を拾った。
振り返れば、四阿近くの茂みががさがさ、と動いているのだ。
ふふ、とブリジットは思わずほくそ笑む。ぴーちゃんには悪いが、そんなに動いてはバレバレだ。
(間違いなく、ぴーちゃんはあそこにいるわね)
ご機嫌のブリジットだったが、これはそぅっと近づいて驚かせたい。
息を潜め、足音を殺して、ゆっくりと茂みに近づいていく。手の届く距離になった瞬間、ブリジットは両手で茂みをがさっと掻き分けた。
「そこね! 見つけたわ、ぴーちゃ――」
しかしブリジットは、その名前を言い終えることができなかった。
当たり前である。そこに待ち受けていたのは、ぴーちゃんではなく――。
「ユッッ……」
ブリジットの唇のすぐ先に、整ったユーリの鼻先があった。
というのも彼は彼で、なぜだか膝を折り、茂みのなかにしゃがみ込んでいたのである。
目を見開くユーリの胸元に飛び込みかねないブリジットだったが、そこは片足に力を込めて無理やり後退る。
なんとか尻餅もつかず、体勢を整えるブリジット。
はー、と全身で安堵の息を吐くブリジットの眼前では、両手を広げた格好になっていたユーリが、少し慌てたように立ち上がっていた。
彼はブリジットを一瞥するなり、呆れたようにため息をつく。
「何をやっているんだ、こんなところで」
「そっ、れはこちらのセリフですわ!」
ブリジットは目を三角につり上げた。
ぴーちゃんだと思っていたらユーリが出てくるなんて、想定外すぎる。
(も、もう少し勢い余っていたら、大変なことになってたわ!)
あのままブリジットが倒れ込んでいたら、おそらくユーリの鼻か、あるいは――もっととんでもないところに、触れてしまっていたかもしれない。
想像するだけで真っ赤になってしまうブリジットに、腕を組んだユーリが言う。
「僕はただ、ぴーが茂みに入っていくのが遠目に見えたから……何かあったのかと思って追いかけてきたんだが」
『ぴー』
その言葉を裏づけるように、ユーリの頭からひょっこりとぴーちゃんが顔を出す。
「そ、そうだったのですね。ぴーちゃんを心配してくださってありがとうございます」
「…………」
頭を下げるブリジットだが、ユーリは少し機嫌が悪そうだ。
ええと、と言い淀んだブリジットは提案してみる。
「せっかくなので……ユーリ様も一緒にやります? かくれんぼ」
誘ってみてから、はたとブリジットは気がつく。
(さ、さすがに子どもっぽかったかしら?)
そわそわしていると、ユーリが何か言おうと口を開く。
「僕は――」
『ボクも! ボクもやる、ますたー!』
そのときだった。空間が歪んだかと思えば、そこからぴょんっと飛びだしてきたのはフェンリルのブルーである。
ブリジットは少しほっとする。ブルーがユーリの回答をうやむやにしてくれたからだ。
「いいわね、ブルーもやりましょう」
『ふふん、覚悟しろよブリ。こてんぱんにとっちめてやるからな!』
(かくれんぼって、そういう遊びじゃないんだけど……)
ブルーは何やら勘違いしているようだが、頭数が揃ったほうが楽しいのは事実だ。
するとブルーが素早く地面に伏せるようにする。そんなブルーの頭に、ぴょんっとぴーちゃんが飛び乗った。
『ぴっぴー』
『うん。ぴーとボクは同じチームだな。そっちはますたーとブリね』
「え? チーム戦なの?」
初耳である。しかしブルーに譲るつもりはないようだ。
困惑しながら、ブリジットはユーリのほうを見やる。彼はまだ参加するとは言っていないのだ。
そんな不安を見透かしたのだろうか。
薄く微笑んだユーリが、ブリジットに向かって小首を傾げる。
「これは負けられないな?」
「!」
その言葉に、ブリジットは喜色を浮かべる。
勝負事となれば、誰より燃えるのがブリジットとユーリである。それがたとえかくれんぼという子どもの遊びだったとしても、やるからには本気で挑むのが二人の流儀だ。
それにユーリとチームを組む、というのは滅多にない経験で、知らずブリジットの胸は躍っていた。
「ええ! 勝ちますわよ、ユーリ様!」
四阿へと戻った二人は一緒に目を閉じて、さっそく数字を数えるのだった。
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