第52話ノーチェスのナターシャ

メイフルはエルフの父と人間の母を持つエルフハーフだ。

齢は500歳を数える

母はもう遠く昔に亡くなったが、思い出は今でも心の中にある


そして彼…いや、彼女は主に人間の居る街で暮らしている

用事があれば、エルフの街へと入ることも許されている


そして外の世界で400年、彼女はただ国の為に生きて居た


ハーフエルフだからといって差別されていたわけではない、むしろまわりのエルフも人間も優しかった


だから、エルフの国の為に何かしようと思っただけだ




「外の世界は厳しいんですよ、僕なんかがやっていけているのも一重に守ってくれている人間がいるからです」



だから人間にも感謝していた



仲間が攫われるまで



ノーチェスに来たマトラがエルフ国を発見した時、様子見だけしていたメイフルは自ら交渉役を買って出た


そして国交がはじまって、しばらくするとそこに見知らぬ「冒険者」の姿が見えた


嫌な予感がした


精霊に愛されていない「冒険者」達



数か月は大人しくしていた。そうでなく調査していたのだろうか?


エルフの国に侵入された


弱い女子供が攫われた


メイフルはハーフだ


その昔、この大陸にまだ精霊に愛されていた人間が居た頃に、エルフの父と人間の母から生まれた


今の人間がどんなものなのかは知っていた、だから国に近づかないようにさせていたというのに…


ノーチェスを恨む気はない。彼らも被害者だ

その後の対応も完璧で、冒険者を弾き出した


だから、攫われたエルフの捜索も、自分がやらなければならないと、やり遂げないとと思っている







アエリアがエルフを探しに出て10か月、攫われたエルフは一人を残して全員助け出せた

リストには10名の名前があったのだが、アエリアとメイフルは人間の7つある国の小さな街に至るまで全てを探して9名を見つけ出した


当然、酷い扱いをしていた人間はもうこの世には居ない。場合によっては街ごと消えた


しかし、残す1名が見つからないまますでに3か月を経過している



そしてアエリアとメイフルが一度も帰らないまま3か月すぎたその日のこと



「おらぁ!おめぇらが弱ぇぇのは知ってんだ!」


ギィン!


「魔法叩き込め!火魔法だ!」


ドォォォン!!


数名の冒険者たちが、ノーチェスに攻め込もうとしていた

だが現状は悪くない、マトラの聖石結界の効果が効いているからだ


しかしながら、この状況は迷惑しかないのだが


「はぁ、今日も来てますね、あの人たち」


ラライラがため息をつきながら言った


「アエリア様が結構外で暴れてたみたいだからね…メイフルから聞いたんだけど、街が2つ滅んだらしいわ…」


「滅ぶって…何なんでしょうね」


「まぁアエリア様だからね。なんていうか、若返ってからかな、好戦的に見えるのよね…」


そういうマトラは笑っている

そんなアエリアが好きなのだろう


「ああ、あれはあの頃のアエリアそのものよ?」


そういうナターシャは以前の様ないかにもお嬢様、と言う感じでは無くなっている

以前にもまして美しい容姿をしているが、比べて良い体格をしているし、その身にまとう魔力は暴力的な気がする

それなのに、喋り方は以前のままなのでなんだかそれはそれで違和感があるのだが


「そろそろあの冒険者、って人たち、お仕置きかしらね、もう3日も五月蠅いし」


ぞくり、とする


しかしながらこの大陸の人間ははっきりいって、強い


マトラも聖石がなければ耐えることなどできなかったろうとも思っている

なぜならばマトラが運用する戦略系の魔法、それを彼らは無効化せしめた

しかも同程度の威力を持った魔法でだ


そしてラライラの旦那ー、ノーチェスに最強の騎士長ですら、わずか1分もたたずに叩きのめされた


それほどにこの大陸の人間とは実力の差というものがあったのだ


闘争が続いていた大陸ならではこそ、この大陸の人間は強かったのだ



しかし



ナターシャは違う


かつて400年前の戦乱を行き抜き、そしてあの大陸でしかなかった聖剣魔法を扱う


故にこの大陸の冒険者に対抗できるだけの力がある



「どこまで通用するか、試してみたいと思ってたの」


そう言いながら白いドレスのままナターシャはゆっくりと歩き始める


「ほら、りぃちゃん、ナターシャさんがいくよ。がんばってーって」


ラライラの腕に抱かれた、ラライラの子供、リィシェがちいさな手を振る


それをみたナターシャはふんすっと気合を入れる


「りぃちゃんの為にいいとこ見せないとね」


ナターシャは結界に向け歩きながら魔法を唱える


「聖剣開放・華々」


ナターシャのを中心にして、両横にずらりと盾が生み出されていく


それはあの時、アエリアと戦った時の枚数の比ではない

およそ10倍の枚数、500枚が生み出される


「神甲・両手」


両手に魔力で顕現した、聖剣である手甲を装着したナターシャはそれをガンシャンと突き合わせる


ドンっ


そこを中心に衝撃波が生みだされる



ビリリッと空気が震える


それに、そこに居た冒険者が反応する


背を埋め尽くす程の盾を背に、白いドレスに神々しくうっすらと輝く手甲をはめた金髪の女性がゆっくりと歩いてくる姿は異様である


それから目を離せないまま、ナターシャは結界から踏み出して、言った


「さあ冒険者くん、遊びましょうか?」


その一言に、リーダーであろう男が反応する


「は、はは、聞いたか?この女、俺たちをどうにかできると思ってるぜ?最強の騎士団長ってのも雑魚だった国の女が…」


「ふふ、怯えているの?でも容赦してあげない」


そういってナターシャはその男との間にアーチのように盾を並べる

魔力により操作される盾は音もなくナターシャの思い通りに動いた


「さて、各個撃破させてもらいます」


ずんっと白いスカートをはためかせ突撃する

男はそれに反応し、盾を構える

それなりの冒険者だろう男の盾は、ナターシャの拳を軽々と受け止める

しかしながら盾にはヒビがビシリとはしるが、割れないのは男の技量が高いからであろう


「はんっ、やっぱ軽いな!」


これは強がりだった


内心、わずか一撃で盾が破壊されそうになる、それに焦らないわけがない

(馬鹿な!オーガの一撃でもビクともしない盾だぞ!?)




「私ね、乙女だから、力は弱いのよ」


シュッ…


それは柔らかく、静かな一撃だった


ナターシャの一撃は男の胴体に鎧ごと、丸く風穴を開けた


どさりと勢いなく倒れる



「ごめんなさい、詠唱を忘れていたのよ。追加詠唱、グングニル。これでいい?」


男は僅か一撃、その身に受けただけで絶命していた


あとの残りの数名も、逃げる事が許される訳もなくナターシャに蹂躙されてその命を落としたのだった















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