第46話 船と魔法陣

大陸歴9年-


大陸中の技術者が集まって、ようやく船の建造と、研究が始まった


目的は15年、そう魔導船研究所のドワーフのドエルゴは言ったという


それが一番難しいという事は当の本人がよく分かっていた


しかしながら、そこに修行したマトラが帰還、合流する

そうすると一気に道筋が見えてきた


「加速したいならこの魔法、その風からの衝撃を護るにはこの魔法ね…まさか精霊魔法の汎用性がこんなに高いなんて学んでる時は想像してなかったわ……道筋は見えてる、けどこれは」


「まあ、道筋が見えるだけでありがてえよ。魔法動力に置けるその中枢はどうするかって問題は起こるけれどな……賢者の石でも使うかあ?」


「いいえ、賢者の石は人がつかうものよ。だからこれを使って」


そうして差し出された小さな石は白く輝いている。小さいながらもそれは聖なる力に満ち溢れている


「お、おい、コイツはまさか…作れるのか?聖石が!」


「ええ、作れます。聖石……ほんとの名前は精霊石って言うのよ」


精霊石、それは魔法ともまた違う力が込められ、様々な奇跡的な効果を付与する事ができる

ただし、製造法は不明

400年前の遺物であるが、その存在は皆が知っていてその恩恵をうけていた


大きな力としては既に失われつつあるとされる、しかしながら結界として作用しているのは確かで、凶悪な獣であるとか、人間であれば軍隊であるとかが侵入できない

判別方法は不明なのだが、聖石だから…で、皆納得していた



「隠れ里での修行中にね、作り方を教わった。誰にでも作れるわけじゃないけど、それは一人二人でって意味。製造法さえわかれば…そうね、普通の魔法使いなら20人もいれば再現できる」


「こいつを燃料源にできりゃ、そりゃあとはガワさえなんとかできりゃいい」


「そうね…、まずは小型から始めましょう。一人乗りから二人乗り、少しづつ乗れる人間を増やして最終的な目標は1000人あたりってとこね」


「そうさな、徐々にデカくして問題点がどこに出るか…たかが船だが、動力がコイツになるんなら今までの常識は通用しねぇ」


「やりましょう」



そうして、アエリアの言う「速い船」はようやくその製造へと歩き出したのだ




場所は変わって王宮庭園


そこではアエリアが三つ子の世話をしつつ、紅茶を飲んでいた


「いやなに、ラライラも随分と雰囲気が変わったな」


「そりゃそうですよ。何年あの中に居たと思ってます?マトラ様はほんと、天才だと思い知らされましたよ、それに比べて私の凡人具合ってばもう。まぁ修行のおかげで精霊とはかなりな良くなれましたけどね」


「それは重畳、普通の人間にはできない事じゃないか」


「てゆーかです。アルちゃん、アレマジですか」


アルちゃんとは、アルネリアの事だ

久方ぶりに会ったラライラはその姿に驚いている


「ああ、4歳で見様見真似だけで聖剣顕現だ。私やマトラを天才と呼ぼうものならあれはもう、神の子か何かだ」


「生まれたときは普通にかわいい子だったのになぁ」


「あはは、今でも可愛いだろう?」


「そりゃそうです。アエリア様がちっこくなった感じですねーなんというか、雰囲気も似てます」


「それは嬉しいな」


「というか、これ…なんでマリアさんとほぼ対等に戦えてるのか…マリアさんも大概強くなってますよね?」


今、庭園の横に設けられた練習場ではマリアとアルネリアが戦っている

そこには聖石による結界があり、内部の衝撃や音は外に漏れ出ていない


だというのに


ズズズズズッ


「地響き…」


「まったく、いつもながらやりすぎだな。あとで叱っておかねば」


「そ、そんくらいの事なんですね」


「ああ、そうだ、ラライラも三つ子に挨拶してやってくれ、と言ってもまだようやく立てる位だがな」


「ああ、さっき会いましたよ!なんですかアレ!ていうか、人間て三人も同時に子供が産めたのが驚きですよ!」


「なんだか酷い言い方された気がするな」


「しかもあんな三人とも可愛いとか!一人ください!」


「いややらんよ。ラライラも結婚して産めばいいだろ?」


「あー、でもまぁ、まだ会った事ない婚約者いますもんで…」


「そうだったな」




そんな日常が、淡々と過ぎていく日々が続いていた




大陸歴12年


船はついに、500人を満足に移動させれる程度にはなった

しかしながら、その航行速度ではまだ5年はかかるとの試算も出ている

だからこそまだまだ研究は続行されている


マトラは多方面に研究の食指を伸ばしていてついに転移魔法を一部であるが完成させていたー


そこは緻密な魔法陣が描かれた地下室ー


四方を明かりで照らして薄暗くはあるが、視界は確保出来ている


その上に立つ、マトラとラライラは多くの荷物を持っていた

魔法の袋に入りきらない程の物を


「では、アエリア様ランスロット様。お先に行かせていただきます」


マトラが真剣な眼差しでそう言った

横ではラライラが涙ぐんでいる


「ああ、達者でな。近く私も行かせていただこう」


「はい、お待ちしております」


ぺこりと頭を下げる


「マトラ姉さん、ラライラ姉ちゃん…また、会えるよね?」


10歳になったアルネリアも、この場所に居た


「うん、またねぇ…」


ラライラは号泣してしまった

それにハンカチを差し出すアルネリア


「ほら、アル。こっちに来なさい。そろそろ行かせてあげよう」


「はい…ぐすっ」


アエリアとランスロットの元に戻るアルネリア


「では、便りはこの通信石にて出します。時差は殆どないはずです」


「ああ、日に1度可能という事だったな」


「はい、魔力充填をいくらしようとも日に1度、それがその聖石が起こせる奇跡です」


「何もない事を祈るよ。ノーチェスとの通信が途絶えて半年、王になにかあったと見るべきだが、何も無いに限るからな」


「はいそれでは、お世話になりました」



地面に描かれた緻密な魔法陣が光り始める

そして、二人の姿は消えた



「行ってしまったな…」


「アエリア、行くんだろう?」


「ランスロット…」


「分かっているさ、そうさな再来年以降は忙しくなりそうだ」


「すまないな、子供たちは…出来るだけ傍に居ようと思っている」


「そうしてやってくれ。特にアルはアエリアが居ないと手に負えない」


「ひどい言い方だ…マリアも先日、似たようなことを言っていたが」


「ははは、兄妹そろってというところか。まぁアエリア、君の自由にするといい」


「ありがとう、ランスロット」



マトラの開発した転移魔法は一方通行である

そして送れる人員はおよそ2名のみ

基礎となったこの部屋と魔法陣だが、それにかかった予算はすさまじいもので、それこそこの大陸が一つの国でなければ得られなかった程の金額がかかっている


さらにはそれに使用される魔力だ。

魔力効率まで突き詰めることが出来なかったが、連絡の途絶えたノーチェスに急ぐために早くあの二人は行きたかった


それまでに貯めてあった魔力はおよそマトラの魔力2年分

つまりは普通の魔法使いであれば10年分と言ったところであろうか


そして、アエリアとマトラの魔力量はほぼ同等…つまり、アエリアが2年魔力を貯めれば再びノーチェスに転移できるという事になる

同行者として名乗りを上げているのはナターシャだったりする



そして、アエリアは二年後…ついに新大陸に旅立つのである




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作者より


ワクチン二回目の副反応、舐めてました…3日目ですがまだ夜になると微熱でちゃう

明日からの展開は少し飛ばなくなると思います








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