第45話クッキーとおもちゃ
大陸歴8年
かつて、その大陸には大小あわせて数十の国があった
大きな大国で言えば、4つ
その大陸にある国はついに一つになった
そしてその王としてアエリアを掲げる
大陸歴でいえば、2年
その時にマトラは修行に出ていたそこから実に6年の月日が経っていた
今やあの時産まれたアルネリアは6歳となっている
そして、アエリアといえば…
ついに、男児を産み落としたのだった
「なんというかなぁ…」
部屋の中に、赤子の鳴き声がこだましている
それはもう、大きく
「私の乳房だけで足りぬとは…乳母が居て本当に良かった…」
今、アエリアの腕の中に居る男児の名はランドルフ
髪の色と雰囲気からわかるように、ランスロットの子とわかる
乳母の手に居るのはカルナス、そしてもう一人の乳母の腕に抱かれるはセスロゼス
「まさか、三つ子とはね…あんた達頑張りすぎ」
「よかったな、おばあちゃん。孫が増えた気分はどうだ?」
「ええ、そりゃ嬉しいわ。男児が三人とはね…これ普通の王国なら色々問題になるわよ?」
跡継ぎの、という事である
今回アエリアが産み落とした男児三人、その三人共に王位継承権があったりするわけで場合によっては派閥に割れて大変なことになっていたかもしれない
だが、この王国は新生である
だからその心配はないのだが、この子らの子の代になると少しばかり心配だと思う
「ランス兄、ようやく跡継ぎ仕込めたと思ったらこれか。まぁ私はうれしいからいいけど。甥っ子って可愛いし、喜びも三倍」
「マリアは気楽でいいな、俺は心配なんだよ…」
「ランス兄は次の子の心配して。まだアエリア義姉さん産めると思う」
それはランスロットとマリアの会話である
思ったよりというよりも、物凄く子煩悩になったのが実はマリアだ
先に産まれたアルネリアの教育も、買って出た
それは十分に姪っ子の傍に居たいがための行動だったりする
ランスロットは36歳、アエリア29歳の夏の出来事であった
◇
その日は視察という事で、マリアは元イシェスの街へと来ている
かなり情勢は安定してきており、ゲリラなども沈静化しつつあった
それは一重に、サージェ、つまりイスカルテの手腕とその地道な努力によるものだった
「お疲れ様ですね、サージェ」
マリアが労うように言った
「ああ。ようやくだよ。奴らの根城と主犯格を捕らえる事が出来た」
実はこの二人、出来ていたりする。
サージェは独身で王に即位していた変わり者であった
そしてあの日、王では無くなった事によりその責務が薄れたと言える
だが暫くは反乱などがあった為に結婚などする暇もなく、そしてそれはマリアも同様であった
マトラが居なくなってからと言うもの、二人で行動する事が増えていた為に、その、まあそうなったわけである
「あとは残党の副リーダー位のものなんだが、こいつがリーダーよりも曲者だったみたいだな……まさかリーダーを切り捨てて逃げるとは」
「でも目処はついてるんでしょ?」
「ああ、ん?そう言えばアルネリア様はどこに?」
「え?あれ?城でも見て回っているのかしら?まあメアリもついてるから大丈夫でしょ」
今日はアルネリアも、社会見学がてら連れて来ていたのだ
メアリは離れの屋敷に居た頃からアエリアに仕えていたメイドだ。
今でも仕えていて、アルネリアの世話もしている
「アルネリア様ぁ、帰りましょうよぉ…」
道の往来、ど真ん中を堂々と歩くアルネリア
もうよちよち歩いている雰囲気はない、6歳になり随分としっかり歩くようになっている
「メアリもおいしいクッキー、食べたいって言ってたじゃない」
「それはそうですけど、またマリア様に怒られちゃいますよー?」
「うっ…い、いや、私は負けない…マリア姉さまに怒られておねしょなんてもうしないんだから!アルネリアもお姉ちゃんになったんだから!」
アルネリアは最近産まれた弟のため、おもちゃと美味しいと噂のクッキーを買いに街まで出ていたのだ
「あ、あった!メアリ、あそこあそこ!」
ちょっと町はずれにあるそのクッキーを売っている菓子店
だがここまで来て買う価値はあると皆は言っていた
その店では子供向けの玩具もあると聞いていたので一石二鳥とばかりにやってきたのだ。
アルネリアとマリアが手を繋いで走っていた時だった
突然、数人の男たちに道をふさがれて取り囲まれる
「アエリアの娘、アルネリアとそのメイドだな…悪いようにはしない、此方に来てもらおうか」
「ちょ、ちょっと何ですか!ひ、人違いですよ!」
メアリが反応するがー
「大きな声を出すな、殺されたくなければな」
「ひっ!」
メアリの背中に、短剣が突きつけられているのが見えた
そしてそのまま、古い馬車に乗せられる
「こんなことをしたら、ただじゃすみませんよ・・・」
「そんなことは心配しなくていい・・それにしても、この娘全然喋らないな…」
アルネリアを見て、そう言った
「ねえ、おじさん。名前なんていうの?」
「俺か?ワイノールだ。お嬢ちゃんはアルネリアで良いんだよな?」
少し不安になったのか、ついぞそう聞いてしまうワイノール
「はぁ、二流、いえ、三流です。まさか自分の名前を言っちゃうとは」
「なんだ、この小娘!」
馬車が止まる、どうやら目的地に着いたようだ
そこは古い遺跡のようだった
崩れた像が点々とある
それにアルネリアは目を輝かせる
「へえ、古代遺跡…いつの時代の物なのかなぁ…」
「変なことに気を遣う小娘だな…」
すると、遺跡からも数人が出てきた
「おう、上手い事行ったようだな…情報が正確で何よりだ」
男たちはそう話していた
アルネリアは思った、という事はサージェに近しい者の中に裏切り者がいると
それがだれか、わかるまではおとなしく捕まって居ようと思っていたのだが
「きゃあ!」
「はっ、このメイドはいらねぇんだろ?俺たちで遊んでもいいよな?」
メアリが乱暴に扱われていたのをみて、アルネリアは
「ダメな大人です!正してやらねばなりません!」
そう静かに怒る
男たちの注目が、アルネリアに集まると
「聖剣解放…正義の鉄槌!」
アルネリアの目がギラリと輝く
それは聖剣魔法の詠唱破棄、顕現と解放を同時に行う
その小さな体に合わせたような、戦槌を両手に一本づつ持つ
さらには純白のマントを纏ったアルネリア
「ああ?」
男たちは何が行われているのかわからない
「アースクエイク」
アルネリアが地面をその戦槌で叩きつけた途端、ズズズズズと地響きがして
「地震だとぉ!」
「わたしの正義、受け取りなさーい!」
ぱんっ
と、大きな音がして男の半身が吹き飛んだ
さらに、二人、三人とアルネリアの振るう槌にて消されていく
「な、なんだこのガキぁ!」
ぱんっ!
「さて、残っている人間はあと何人ですか?」
「お嬢ちゃん、さすがあのアエリアの娘ってことか…だが、大人を舐めるなよ?それくらいは俺らもできるんだぜ?」
「聖剣開放!」
男たちは勘違いをしている
アルネリアの解放と、彼らの開放には天と地ほどの差があると知らない為に…
だからこの勝負は一瞬でついた
いや、それは勝負とは言えないだろう
ただの蹂躙だ
わずか6歳にして聖剣魔法を使いこなすアルネリアは間違いなく
本物
だったのだ
その後の処理はアエリアの聖獣、スケルを借り受けているアルネリアがマリアを呼んで来させた
マリアとサージェが来るまでの間に、アルネリアは疲れたのか寝てしまっていた
マリアが死体を検分していく中で、見覚えのある男が居た
「ちょっと…これ副リーダーよねぇ…」
「ああ、こっちは俺についてる執事だな…こいつから情報は漏れていたのか…」
「はぁ…色々解決しちゃって…怒るに怒れない…」
「それにしても…疲れて寝ていると本当に天使の様に可愛いのに、この年てもう聖剣魔法を使いこなすのか?」
「ええ、兄以上の天才よ、この子…だって四歳の頃に見様見真似だけで聖剣顕現させたんだもの…」
「それは本当に人か?」
「アエリア様の娘よ…まぁアエリア様もあの時はめちゃくちゃ驚いてたけどね」
「だろうな…ふふ、アリエッタが驚くか。それほどか…次世代は恐ろしい。あの三つ子もこうなってしまうんだろうか…」
「それはまだわからないわね…今のアルネリアを見たら、マトラとラライラちゃんも驚くだろうなぁ」
「驚くどころじゃないと思うがね。さて、後始末をして撤収だ」
そうして反乱の目は全て摘み取られてしまったのだった
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