第37話アレイス
アレイスにある城、そこは領主であるディーン・セランの城だ
そこまで贅沢をせず、真面目に治めてきた自負がある
だがそれも数か月前までの話だ。ノーチェスの首都が重鎮共々消えた
その当時、各街の領主も集まっていたがために一緒に消えてしまった
ただ、ディーンは体調を崩しており、王都への招集を断念していた
そこは城の執務室
室内にはディーンとその部下であるチーノが居た
「ふふん、これは運が向いてきたと思えるよ」
「そうですね、王都が無くなったときはどうなる事かと思いましたが」
「ああ、その後の処理が大変だったがな」
王どころか各領主までもが消えた結果、残ったのはその嫡男だとか幼い子が多かった
しかし民を不安にさせるわけにはいかないと、ディーンは奔走した
その結果、各街を収める人間をなんとか選定し、そして連絡網の再構築を行う
国を治めるとかそう言った事は一切考えなかったと言えば噓になる
だが、それすらあまり考えられない程に彼は忙しかった
ある程度めどが立った所で飛んできたのはノーチェスからの霊鳥である
ようやく届いた吉報と思いきや、その手紙の日付に驚愕する
90日もかかって、ようやく届いていたのだ
しかもである、届けた霊鳥はそのまま消えてしまったために返信することすら叶わなかった
どうすべきか、という議論が行われた
引退していた、年老いた元領主すら招いて、その会議は行われる
実際、首都の人間が生きていた事はよかったと思う
だが二度と会えないほどの距離に驚きは隠せない
「ディーン様、王国軍が少数とはいえ健在だったのは僥倖ですよ。しかもラライラ様も偶然無事で居られる。あとはディーン様がラライラ様を娶れば、第二のノーチェス国王として…」
「おいおい、そこまで言うな。期待してしまうだろう?彼女には一応婚約者もいたのだ、いきなりそういう気分にもならぬだろう?」
「お優しい事は結構ですが、民はそれを望んでおります」
「そうか、まあそうであろうな」
ディーンは歳こそ29で、結婚はまだである。ようやくこの人と見つけた婚約者もいたのだが首都にいたため離れ離れになってしまった
「エランには申し訳ないが……」
そう言って、彼女を思い出す
20になる時に結構しようと思っていた、あと数ヶ月といったところだったのに
そうすれば、今頃はと思わざるを得ない
「チーノ、やはりラライラ様と婚姻せねばならぬか?」
「正直、王家の血筋は必要です。この国はあの王家があればこそ繁栄してきた歴史がありますから」
「そうだな…ラライラ様も納得してくれよう……」
ディーンは物憂げな顔で窓から空を見上げた
◇
そこはアレイスの街の宿屋である
下から数えた方が早そうなほど老朽化した宿、しかしながら室内は清潔で布団なども柔らかく良いものが使用されていた
「ふふん、私はこう言う勘は昔から働くんだよ」
「凄いですね……まさか、ですよ。見た目からは分からないけどすごく居心地がいい宿です」
そう言うアエリアにマトラは関心する
この宿はアエリアが見つけた、ここにすると言って決めた宿屋だった
マトラとラライラはこの宿で大丈夫かと不安になった、だがお忍び同然なのでちょうど良いと納得したのだ
ちなみにガレットは先んじて城に渡りをつけに行っている
アエリア達は首都なき今、ここが首都になりうる街という事で統治の具合を下見しているのだった
「なかなか良い男の様だな、ディーン・セランは」
「そうですね、能力は高いです。何せこの街の領主になったのはたしか17の時だったと聞いていますが、その当時から評価は高かったです」
「ふうむ。ラライラは会った事があるのか?」
「んと……多分、何度か?」
「あるでしょ……あの人、あんたの婚約者候補だった事もあるんだから…」
「ほう、それは本当に優秀だったようだな」
「ええ、王も認めていましたしね。でも清廉な人間で、誠実。どうやら自分が見初めた人間と結婚したかった様ですね」
「ふふ、なんだ、ラライラはフラれたのか」
「まあこの通りですからね……ラライラは」
「ふーんだ」
少しばかり笑い合う
そして夕食に舌鼓をうつ
豊穣の祝福の効果はよく出ているようで、この北の地でも満足出来る料理が出てきていた
街でもかなり食材などの値段は落ちてきていて、ずいぶんと暮らしやすくなって来ているようだった
そして夜、ラライラが寝た後のこと
「マトラ、明日は城に行くぞ」
「はい」
「恐らくだが、ラライラを呼び寄せた理由…ガレットは気づいてなかったがな、おそらくは王家の血筋を取り込もうとしているぞ?」
「ですよねぇ…ラライラがこの大陸に残る王家の血筋、その直系ですから」
「まぁラライラがそれでいいならいいんだが、そうじゃなさそうだしな」
「ええ、まぁ。まだそういう気もないです」
「であれば大人である我々の出番だろう?」
「どうするおつもりですか?」
「至極簡単だ。ラライラを一度王に据える。そしてその後継人が私だ。それが嫌なら私が王になってもいいぞ?ラライラの推薦でな」
それはと思わず口から出そうになり、マトラは口をつぐむ
この人が言い出したら聞かないのはこの数か月であるが共に暮らしてわかっているからだ
「それがラライラの幸せに繋がるのであれば、私は反対もしないがな……望んでおらん婚姻は認める訳にいかん」
この人は本当に公爵令嬢なのかと言いたくなる
政略結婚しか出来ないような家柄に産まれておきながら、その考え方は正直どうかしていると言わざるを得ない
だけれど、それが出来ればどれだけ幸せか、という事を簡単に言って実行するだけの力がこの人にはある
だからマトラとラライラはこの人に、アエリアに頼らざるを得ないのだ
さて、その頃
アエリアの屋敷に残された兵士達はと言うと
マリアとランスロットを左右に置いた一人の女性が高い台の上に立って兵士に演説をかまされていた
「さぁ、あなた方は優秀な兵士・騎士と聞きました。本当ですか?で、あるならば私の教える剣術程度、軽く修めてくれると思うんです」
そういうナターシャは嗤っていた
美しい女性がそう言うものだから、兵士たちも舐めてかかっている
この場に整列しているのはマトラ様に仕える兵士で、彼女の命令でナターシャに従えと言われているからに過ぎない
この場に居るのはおよそ80名
しかしながらこの場にその人数が寝泊まりできる施設などない
だったらどうするか?
「あなた方の宿舎の為に、街から大工という大工様を集めてまいりました。しかしながら、完成までは時間がかかります。なので、朝4時から8時が剣術訓練で、9時から17時までを建設作業手伝い。夜は18時から22時までを訓練とします」
そういうナターシャの目は本当に嗤っている
「ねえ…ランス兄さん…」
「なんだ妹マリア」
「これ、私たちもするのかな…」
「‥‥俺はまた明日から王都だ。がんばれよ」
そういうランスロットにマリアは
「わかった、私強くなるよ…ランス兄さんをボコボコにする為に」
「お前…その目、お母さんにそっくりだぞ…」
そして、ナターシャを舐めて居た者たちは彼女自身の手によって矯正される
死にはしない、怪我も殆どしない
だが、死を恐怖するほどの殺気におおわれながらする訓練は
なるほど、彼らは本当に優秀な様だった
脱落者を出すことなく訓練は進んでいった
宿舎も200名は寝泊まりできるほどのものが1週間ほどで完成する
その近くに全員で大穴を3日も寝ずに、休憩は食事だけで掘らされた
そこは自分たちで使用するための溜池だった
そしてさらには川まで整備させられるとは彼らはまだ知る由はなかった
ただ、それらが終わったとき彼らの筋力は軽く三倍になっていたという
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