第34話Lancelot vol.2 Sword magic
それは聖剣魔法と呼ばれる、魔力の物質化を行う魔法
召喚魔法とは違い、己の魔力のみで行なう魔力の物質変換はその者の願いが形に現れる
「聖剣顕現」
ランスロットが全身鎧に身を包む
白く輝く鎧は彼の精神性の表れで、神々しいとさえ言える
そしてそのまま、続けて
「聖剣開放」
ランスロットの聖剣能力の開放だ。
これはその願いが形になっている聖剣が得ている能力を開放する
彼の鎧がさらに薄く輝く
ここでランスロットのその速力は音を超える
ギィルと戦った時に使用できる時間はおよそ10秒程度だった
それが今は三分は使えるようになったのだが
「甘い。あと遅いな」
ズシャァ!
わけもわからずランスロットが吹き飛ばされる
「いいか、まだ速度上昇に体がついてきてないんだ。もっと強化を強くしろ、そうすればもっと速力が上がるはずだ」
悔しそうな表情をしているが、兜でその顔は見えない
「すこしばかり気が散漫だな…あの女のせいか…邪魔だな」
「なっ!邪魔などと」
「いいや、邪魔だ、お前がそんなに悩んでいるのを知るとだな、うん、私がなんとかしてやろう、間をとりもつとかな?」
ランスロットは一瞬背筋が凍ったように寒くなった
そしてその人を止めるだけの力はランスロットにはない
◇
アエリアは出来うるならば戦争を回避する方向で動いていた
それは今から動乱の世になると予測しての事である
その為の準備と称してツィーグから持ち帰った酒をマトラとラライラに預けたのだから
二人はその荷物と共にそして、一枚の手紙を手に携えてドワーフの里を尋ねる
そこでその手紙と、鉱石と酒をドワーフの長に手渡した
「マジッスか……盟約に従いって、マジッスか」
手紙を読んだドワーフの長はそんな事を言って、奥から箱を持ってきてその中にある一つの腕輪をマトラに託す
「本人以外使えない様になってるッス。だから破軍の腕輪はちゃんと届けるッスよ?」
本人以外、とドワーフの長は言うがいつアエリアがコレを依頼したのだろうと不思議に思う
「言われなくても届けるわよ。それよりもホントなの?武器も含めた鍛冶仕事をしてくれるって」
渡した鉱石は武具を制作するのに使用されると言う、マトラはノーチェスに居る時に今さんざん交渉してきたのに作って貰えなかった。それがアエリアの手紙一枚で作ると言うのだから不安なのは確かだ
「間違いないッス。盟約は絶対ッスから」
「ほんとその盟約の内容知りたいわ…アエリア様ってほんと何者なのよ」
「あはは、マトラさま、そんなの考えるだけ無駄ですよー」
だってアエリア様ですから、とラライラは言った
「ラライラはほんと幸せね…」
そして、二人は帰還する
アエリアの元へと
「なるほど、ご苦労だったなマトラ」
アエリアは紅茶のカップをカチャリと置いた
二人の苦労を労うように、優しく笑う
「ほんとにドワーフが協力してくれるとは思いませんでしたよ」
マトラはテーブルに置かれたクッキーを一枚、ぱくりと口に入れた
その横ではマリアが魔力強化に精を出す
両手で掴んだその剣に集中して
「聖剣顕現」
魔法を唱えるー
元々マリアの剣は少し大きめの剣だった
それに魔力がまとわりつき、細く、しなやかな剣へと変わる
突きに特化したその剣をひゅんひゅんと音を立てて振り抜く
何度も、何度も
そして集中するー
だが、その力は、パリンと音を立てて魔力は霧散する
「ふむ、まだ強化が足りんな」
「はああ…、顕現まではなんとかいける様になりましたけど、開放しようとするとまだ無理みたいです」
マリアはあの日見た聖剣魔法を練習していた
もちろんアエリアに教わりながらである
その習得速度は目を見張るものがあったが、それ以上が居た。マトラとラライラの二人である
元が魔法使いの二人、魔力操作はお手の物だった
それゆえ、強化はわずか3日で終えて今では聖剣顕現は元より開放まで至っている
マトラは杖タイプの聖剣で
ラライラはマントだった
特にラライラのマントは物凄く珍しいらしいが、攻撃力にその能力は一切加算されない。ただ、空を飛ぶ事だけは凄まじい速度を見せた
これは心の底からノーチェスの国へ行きたいと願う心からであろう
精霊に好まれた者は変わった顕現をするとアエリアは言っていたが、まさにその通りである
マトラはオーソドックスな杖、魔法使い故にそうなるのは必然だったとも言える
聖剣顕現時は魔力操作がさらに向上、魔力探知の向上もすごかった
もともと聖剣魔法は知っていたが、使用すると必ず剣になるものしか使えなかったのでさほど興味がなかったのだが、杖だとかマントだとか所持していないものでも顕現するこの魔法の使い勝手は非常に良かった
「魔法による身体強化さえクリアできればこれほど強化される魔法が廃れたというのももったいない話ですよね」
「それはな、普通に魔力さえあれば使える新しい聖剣魔法の方が使い勝手はいいだろう?」
「それはまぁ、そうですけど」
「君ら二人は筋がいいんだ、良すぎる程にな。それに魔力操作に長けていたからすぐに出来たにすぎない、マリアも才能がある方だがそれなりに苦労している。これがすべての兵士でとなるとなかなか難しいのだよ」
とはいえ、400年前は当たり前に使えたものであるが
そうアエリアは思う
マトラ達の働きで少しづつ、アエリアの望む物は手に入りつつある
破軍の腕輪
それは英霊召喚の腕輪である
とはいえ、実在の人間ではない。物語にあるような軍団を呼び出す為の物だ
その数およそ1000人
そして無敵ではない、倒されるとそのまま数を減らしていくのである。回復させるには一度解除し、再び展開させなければならないがそれは戦場では悪手になる
しかしながら普通に聖剣魔法を使える人間よりは強いため、かなりの戦力ではあるのだ
魔力さえあれば、無限の戦力と言える
しかし普段の魔力では50名も呼び出せればいい方で、それが全力である
前世の、アリエッタは魂を魔力として使用していた事もありその1000人の召喚を数度行使した
その兵士の使う武器も、ドワーフが鍛えたものを使用することでさらに強くなる
しかしまだ、戦力としては弱い。だからどうにかして兵を集めねばと思っている
それと次は情報網か?それとも極度に特化した戦力?
ランスロットクラスが居ればそれだけでどうにかなりそうな世界ではあるがと思案する
マリアをあそこまでもっていくにはあと数年は必要だろうし…と、そう思案しているアエリアの前にまさかの本人が現れた
ぼろ雑巾になったランスロットが転がってきたのである
「え?ランス兄さん!?何でここに…ていうかボロボロ!?」
そこでマリアはアエリアを見るが、私じゃないと首を振る
「なんでそこで私を見るんだ‥」
「だってランス兄さんがこんな…ボロボロになるなんて考えられないですし」
さすがに駆け寄ったマリアはランスロットの体をよく見る
傷だらけであり、息も絶え絶えに呼吸していた
命に別状はなさそうだがそれにしてもここまでボロボロになっているのはあのギィル戦で見た時以上のダメージを負っているのがわかる
「回復は私は苦手なんだがな…マトラ、ラライラに頼めるか?」
そう言うとアエリアは数歩、ランスロットが飛ばされてきた方向へ歩き出す
その先から一人の女性が悠然と歩いてくる
白いスカートを履いた、短い金色の髪の女性だ
「まったく、いい加減諦めなさい。こんな所まできて邪魔しちゃだめじゃない」
アエリアは嘆息しつつ言った
「こんな所、とはまたいい表現ですね。とはいえ、ここは私の住む家なのですがね」
アエリアと、その女性が会話するーと、そこに驚きつつ混ざってくるマリア
「え・・・あ?お、お母さま!?」
「あら。マリアもここに居たの?あなたたち兄妹で何してるのよ」
「それはこちらのセリフです・・といいますか何故お母さまがここに?お体は大丈夫なんですか?」
「そういえば君らの母上は体が弱いんだったか?しかしあれはどう見ても…」
「元気そう、ですよねぇ…」
すたすたと歩いてきてランスロットの傍までいくと
「ほら、起きなさい!」
ガスっとランスロットが真上に蹴り上げられる
気を失っていたランスロットは、蹴り上げられた瞬間気づいた
そしてそのまま叫ぶ
「聖剣、開放!」
「それの連続使用は無茶しすぎね!それに遅い、それじゃ展開までに無力化されるわよ?」
いつの間にかランスロットの上にいた
再びその振り上げたままの足で蹴り落とされる
ドゴンと、ありえない音が響き渡る
「ぐはっ!」
そして気を失うランスロット
「お、お母さま?」
一体目の前で何が起きているのか理解できないマリアは戸惑いながら言った
「あら、ごめんなさい。ちょっと躾を、ね。自己紹介がまだだったわね、私の名前はナターシャ・トライエルド。そこで転がってるランスロットの母親よ。よろしくね」
そういって、スカートのはしをつまんでお辞儀する
「それは丁寧に。私の名前はアエリア・ル・シャルという…」
アエリアがそう言うと
「そう、貴方がねぇ…」
にやりと、品定めするように笑うナターシャにやれやれといった感じでアエリアは言い放つ
「相変らずだな、カーネリアは」
それを聞いたナターシャの顔が強ばった
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます