第22話ツィーグの祭り
「こおんな畑しかないような田舎の楽しみって、これくらいしかないのよねー」
マチルダはそう不満を吐露する
しかしながら楽しみと言うだけあって、それなりには好きなのだ、この田舎が、この街が
そもそも人混みの都会よりも、畑だらけの田舎に愛着がある
実はそんな純粋なマチルダなのだが最近できた都会の友達に影響されてこんな言い方をしていたりする
そこの庭園にはステージが設置してあり、その上では楽器を奏でる集団が楽器を弾いて音楽を奏でている
今日の宴は簡単なものとのことだったが、それでもこういった楽団を呼ぶのはツィーグの仕事だ
「そうですね、王都でもこの手の催しはありますがミオマ領のツィーグ様の呼ばれる楽団は毎回素晴らしいですからね」
そうトーマスが言った
この催しの初日には主に近隣の貴族らが呼ばれる
2日目は近所の領民が来ることが許されていた
とは言っても、本当にささやかなもので初日に呼ばれる貴族もわずか2.30人に過ぎない
「さあて、ブタさん探さなきゃね。黒髪のブタさんを」
そう言ってキョロキョロと見回す
視界の隅に、見覚えのある男が見えた
「あら、ランスロット様も来てたのね。珍しい事もあるのね」
そして1人の女性と話をしている
髪のやや長い、ランスロットと同じ髪色の女性だ
「あー、アレ、妹の確か…マリアとか言う」
タラントが思い出したように言った
「急にこんな田舎に来るとか何事かと思ったけど、そうか、妹と会うためだったのかな」
「ふうん、妹ね…」
「確か妹も相当強いと聞いたな、どうなんだタラント」
「あー、やんなるくらい強い。あの家の奴らは全員ヤバい…まあ、俺もランスロット様はともかく妹にゃ負ける気はしないけどね」
「なかなか言うわね。でもまあ、タラントは本当に頑張っているものね」
そう言われると、顔を赤くして照れるタラント
それにしてもアエリアは何処にいるのかと見回すが、それらしき人物は見当たらない
もしかして、来ていないのだろうかと思い始めてマチルダは用意されていたテーブルに座る
そこには一人先客が居た
「こちら、良いかしら?」
「構わんよ、ここは音楽がよく聞けていい席だ」
変わった話し方をする
そう思って見れば、それはマチルダでさえドキリとするほど美しい人だった
少しぼうっ、として
「あ、あのどちらから来られた方なんでしょうか?」
こんな人を見た覚えがないとマチルダは慌てる
本来顔見知りだらけのこの田舎で知らない人間が居るなど不思議だったからだ
「ん?私か?ああ、なんだマチルダじゃないか。久しぶりだな」
「はえ?お、お会いした事がある?んですの?」
マチルダが戸惑っていると
「アエリア様、何故か兄が居ました」
そう言ってマリアがやってきたのだが
「はああああああああ!?」
「うわ!な、何!?」
奇声を上げるマチルダに驚くマリア
しかし予想していたかのようなアエリアは
「なんだ、ランスロット殿も来ていたのか」
そう言って立ち上がると遠目に見えたランスロットの方へと歩いて行く
「ちょ、ちょ、ちょっと待ちなさい!あ、いえ、待って下さいますか!?」
慌ててアエリアを引き止める
「あ、貴方がアエリアさまなの、ですか?」
「いつもの話し方でかまわんよ。マチルダも大きくなったな、女らしくなった」
「ふあ」
そうアエリアが笑顔で言うと、マチルダは慌てる
これは、破壊力がやばい
マチルダは意識をもっていかれそうになる
アエリアの方が身長も高く、そして年上でもあるから
マチルダの頭をぽんぽんと撫でると
「うきゅ…」
マチルダの顔がほんのりと赤くなる
それを見ていたトーマスとタラントは
「あれ、落ちましたね……」
「マジかぁ…確かにあの人、ヤバいくらい美人になってるな…姿勢もキマッてるし」
「嫌がらせするどころじゃなくなりましたね」
「公爵家令嬢に嫌がらせとか、あの頃のアエリア様じゃねぇと無理だからなぁ。ふつーは結構やばいぜ?」
「そうですね。以前のアエリア様はそこまで頭の回る方ではなかったですし、そもそも侮辱されたらキレておしまいでしたから」
その当時から、親に言いつけるとかそういったことはしていないアエリアだった
だからみんなで安心してからかっていたりしたのだが
「ありゃ、相当頭の回転も良くなってると思うぞ」
アエリアの去っていった方を顔を赤くして眺めるマチルダにはもう関係のない事ではあった
それならば、純粋に祭りを楽しむだけだとトーマスとタラントは音楽に意識を向けた
◇
時間は少しばかり巻き戻り、場所も変わる
ここはウェスコー公国のとある屋敷の中
「ああぁ?休戦しただと?」
薄暗い部屋で、何故か室内だというのに鎧を着こんだ、ガラの悪そうな男が吐くように言った
「そのようです。また何が起きたんでしょうね…」
「それを調べるのがお前の仕事だろうが、セシル」
「そうですけど…こうも思惑通りにいかないと流石にキツイものがありますよ」
セシルと呼ばれた男は白い僧服を着ている美男子と言えるだろう
優しそうなその目には暗い何かが棲んでいるようだった
「そもそも、大地の大精霊の祝福からしておかしいんですよ…もはやエルフなど。いえ、居るのかもしれないですね」
「もうよ、めんどくせぇから俺がノーチェス軍に気合い入れてきてやろうか」
「やめて下さい、貴方は今はそれでもこの国の王なんですからね、ビーツ。それにまだ我が国の関与がノーチェスにもバレてはいないのですから」
「最初はうちの兵力を温存できるからいい案だと思ったんだけどよお、こうも、進まないまま一年近く経っちまうとな」
「それは、本当に申し訳ないですが…それでもあと半年は耐えましょう。複製聖石が出来れば奇襲も簡単なので」
「ちっ、仕方ねえな。もし次も失敗したら」
「その時は貴方が出たらいいでしょう…」
しかし、本当に何が起こっているのか分からないまま彼らの時はすぎて行くのだった
そして、祭りに時は戻るーー
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