第14話夢のあと

ランスロットと出会ったアエリアが気を失って、茶会と夕食は中止になった


ベッドに寝かされていたアエリアは右手で額を抑えながらつぶやいた


「原因は不明、か。まったく、どういうことだ」


当の本人はまったく理由に心当たりなどない

初めて会ったはずのランスロットになにかされたなどとは思えないしな


などと、簡単に考えている


「アエリア様、大丈夫ですか?」


声のほうを向けば、メイドのメアリがそこにいた


「ああ、メアリ。帰っていたのか」


「はい、お水飲まれますか?」


「すまない、頂こう」


メアリがコップに水を注ぎ、アエリアにコップを渡す


ごくりと飲み干す、どうやらものすごくのどが渇いていたようだ


「ふう、落ち着いた。ありがとう」


「いえいえ、帰ったらアエリア様が倒れたと聞かされまして、びっくりしましたよ」


「心配かけたな。旅の疲れみたいなものがあったのかもしれん」



そろそろ夕方は過ぎ、夜になっているようだ


ドアがガチャリと開いて、マリアとランスロットが入ってくるのが見えた

すると


再びアエリアの胸が高鳴る


「あ、アエリア様!良かったぁ。目を覚まされたのですね」


「・・・・」


静まれ、私の体!精神集中、心臓よ、おとなしくなれ

平常心、平常心だ


「大丈夫か?」


再びドキリと胸が跳ねる


「ちょっと兄さん、言葉遣いちゃんとしなよ。大丈夫ですかーとか」


「あ、ああ。大丈夫ですか?」


くっ、なかなか収まらんな

いやしかし、これも試練だ。乗り越えなければ明日にいけないと思え


「心配していただき感謝する。マリア、ランスロ…ト殿」


何とか言えた。まさかランスロットの名前が言えないとは。ふむ、これはランスロットに何かあるようだな…


そう思ってランスロットの方を凝視する

うん、だんだん体温も上がってきた気がする


原因は判明か…


であれば、そうだな…気合を入れておこう


そのままぼーっとしてしまったようで、アエリアはただランスロットを見続けるだけになってしまった







「いや、まさかまさかでしょ」


「そうなんですかね!やっぱりそうなんですかね!」


マリアとメアリの二人は別室にてきゃあきゃあと言っている


ちなみにフリーズしたアエリアの所にはランスロットを置いてきている

メアリとマリアが部屋を出たのにも全く気付いてなかったようだった



「いやぁ、信じられないけど、あれは一目惚れってやつね。ランス兄もなんか似たような感じになってるし」


「恋煩いでしたかぁ…ここ最近のアエリア様から最も遠いお話と思ってましたよ」


「だね…なんでか、ってのは分からないけどあれは完璧に落ちてるよ」



二人はいとも簡単に答えにたどり着いていた

そしてそれを爺二人は喜々として受け入れて、すでに婚約の準備へと動いている


ランスロットの気持ち?そんなものは確認する必要はないとの勢いで進められる婚約話



アエリアが拒否すれば話は別なのだが、それまではこの話が止まることはないのだ



再びアエリアの部屋に戻ってみれば、アエリアとランスロットは微動だにせず見つめあっていたと言う



そして、二日後



マリアが城で行っている試験を見にアエリアが訪れていた


その横にはランスロットが立っている

彼は筆頭騎士であり、この試験では1番立場が上だ


今目の前では二人の騎士が戦っている


「うん、めぼしいのはだいたい抑えたみたいだな」


「しかしこれではまだ敵を倒しきれんぞ?」



先日のあの恋煩いが原因で気絶までした、とは思えないほど落ち着いているアエリアがランスロットと会話していた


「そう言えばアエリア様も剣を嗜まれるとか」


「そうだな、マリアにも手ほどきをしてやっている」


「手ほどき?それ程の腕前ですか」


「なあに、今の世には必要ない技術だがな」


それはアエリアがその剣で戦うと考えていないから、必要ないと言っているだけだ


目の前の騎士二人の戦いはどうやら決着がついたようだ


怪我をした方が、担架に乗せられて医務室へ連れていかれる


そこで騎士団の回復魔法使いが癒してくれるのだ



「さて、じゃあ僕は彼を審査してくる」


そう言うとランスロットは闘技場の中央へと進んでいく


「アエリア様、なんか随分とランス兄に慣れましたね?」


「ん?ああ、原因は分からずじまいだが慣れたよ。そういう物だと考えてしまえば自然とな」


「はい?」


マリアは意味がわからない


「まあつまりだ、耐性が付いたといえばいいか?」


やはりとんでもない人なのではとマリアは思った


慣れた、って事だけでここまで冷静になれるものかと



目先ではランスロットと、騎士が対戦を始めていた



まず騎士がランスロットに駆け寄り剣をゆっくりと横なぎに振る



これは騎士、彼の技でありその横なぎの剣を下がって避けても、盾で防いでも悪手となる次の技がある


そしてそれをここまで温存して勝っていた


しかしランスロットは


「遅すぎる」


その一言で相手の懐に入り、そのまま投げて勝ってしまった



「これは純粋に身体能力に差がありすぎないか?」


「あー、ランス兄は前からこんな感じなんです」


「今のマリアとならいい勝負だろうがな」


「ええ!?でも私、いい勝負なんて想像できないんですけど」


「であれば止めておけ。イメージがわないのであれば実力など発揮出来んからな」


「そうですね」



ランスロットが戻ってきた


「どうでしたか?」


にこやかに笑いながらアエリアに話しかける


「ああ、流石だな。しかしこれは試験なのだろう?あんなに簡単に倒してしまっていいのか?」


「あ」


どうやらまずかったらしい

ランスロットは頭を掻きながらため息をついて気絶している彼に謝りに行った


「珍しい、ランス兄が失敗してるよ。あとで笑ってやろうかなー」


「ふふ、ほどほどにな」




そんなこんなで、アエリアは落ち着いたかに見えた

そして無事にマリアの用事が終わってアエリアは一度帰る事にしたのだ



祖父二人は慌てた

まさかアエリアがあの離れの屋敷に帰ると言い出すと思っていなかったのだ

アエリアに黙ってこそこそと色んな計画を練っていたのが仇となった格好である




シャル公爵家の離れの屋敷は、さほど遠いわけではないが、それなりに距離がありかつ、森の中の様なところで周りにはさしてなにもない

それに引き換え王都となれば人は多く、珍しい店やおしゃれな店も多く立ち並ぶ


メアリと観光して大層喜んでいたと聞いていたし、同行していた執事や護衛代わりのランスロットからも素晴らしい態度であったと評価を得ていたので


そのまま滞在し続けると思われていた


そして祖父は知らなかった事がある



アエリアはそもそもがマリアの付き添いでこっそりと付いてきていたのである


実のところ、父と兄は来ていたことを帰るその日まで知らなかった


これはアエリアが黙っておいてくれと言っていたためである


今のアエリアは先日父と会った際にある程度謹慎処分が解かれた状態にはあった

それで今回の旅だったのだが、連絡するのがめんどくさいとばかりに黙ってきていたのだ


そして散々王都で遊んで、おうちに帰ろうとなった


マリアはそのまま王都に残って、しばらくのちにまたアエリアの所に修行に行くと言って別れた




帰りの馬車の中で



「ああ、楽しかったな」


「そうですね、アエリア様が思った以上にはしゃいでいて良かったです」


「ふふ、私も年相応なくらいには遊ぶさ」


「それにしても色々ありましたねぇ」


「そうさな、エミーシュとライにまさか1度しか会えんとは思わなかった。学園というのは忙しいのだな」


「そうそう、ライザッハ様がマリア様に全然敵わなくなったと大変痛めつけられていましたね」


「マリアは勘が良いからな。少しの指導で劇的に良くなる。それに引き換えライはまだ圧倒的に基礎が足らんのだ、才能はライの方が上だとおもうがまだ鍛錬が足りなさすぎる。学園では出来ることも限られるのだろう」


「ランスロット様はどうだったんですか?」


「ああ、あれは正真正銘、本物だ。私が教える必要もないくらいに完成していた。騎士筆頭、というにはまだ足りぬけれどな」


これだけ褒めても、あれで足りないとか言うアエリア様の理想ってどれだけ高いんだろうとメアリは思った。これではアエリア様がご自分の気持ちに気づくまで大変だろうなぁ…と


「さて、皆のお土産も買った事だ。喜んでくれるといいがな」


アエリア様は使用人の皆に色々お土産と買っていた


自分の為に買ったものと言えば帽子くらいのものだった


「そうですね、皆きっと喜びますよ」



アエリアはそう聞いて笑っていた



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