第13話弾ける鼓動
老獪なジジイ…
祖父達の策略に見事ハマってしまったアエリア
しかしながら腹が立つとかそう言った事はなかった
むしろ彼らはその立場で当たり前の事をしているだけなのだから、それを分かっている
祖父たちと別れた後、茶会の前にアエリアは着替えている
流石にあのドレスは豪華すぎると思って着替えると言ったのだけれど、それを先読みされていてさらに豪華にされる事になった
さすがのアエリアも涙目である
一方そのジジイ達は
「おい、ありゃほんとに俺らの孫かぁ?」
「信じられないですね…あの威圧感、将軍とかうちの国王ですらアレの足元に及ばないよ」
「俺ァ、いとこのカネイラ婆さんを思い出したよ…」
「ああ、女傑でしたね、あの人も」
「今日呼んだ奴らじゃ多分ダメだろうな。あの威圧感で近づくこともできないんじゃないのか?」
「見た目は相当いいんですけどね。そういえば忘れてません?ランスロット・トライエルドも呼んで居たはずですよね」
「あー、アイツなあ。一応呼んでるが、確かにアエリアの威圧感にも負けねぇだろうさ。でもな、そもそも女に興味あんのか?確か王女の結婚相手にも推挙されてたが断っていただろ?女性に興味がねえんじゃねえかアイツ。あと地位とか名誉にもさほど興味なさそうだからな」
美しすぎる、それも問題だと二人は思った
それが威圧感を放っているのだ、あれでは冷徹な雰囲気で近づくこともままならないだろうと
アシュフォード家のシグルド、シャル家のアインは幼馴染だった
いわゆる子供が出来たら結婚させるぞ、的なやつである
幸運なことに子供同士がお互い一目ぼれするという奇跡が起きてその時はうまくいった
で、今度は孫の番だと張り切っている
残念な事にアシュフォード家の娘、アエリアの母は早々に病に倒れ亡くなってしまったが
2人の友情になんら問題はなかったどころかさらなる結束を与えてしまった
母のを失った孫たちに不自由させまいと、長兄カインやエリーシュに婚約者を探し出してきた
エリーシュにおいては回復魔法が使えると言う事で年のころがおなじで将来有望であろうライを即座に抑えたのだ
長兄カインは来年の騎士団卒業を持って、第三王女との結婚が予定されている
だが、アエリアは過去の状態からどうするか決めかねていた
温厚な父であるシルバが、今までに無いほどに激昂していたこともあり、居なかったとして扱われていた事も大きい
当然シグルドもアインも何度か会った事があるのだが、アエリアはすぐに逃げていたのを思い出す
しかも嫌いとかめんどくさいとか叫んでいたとメイドから聞かされた時は落ち込みまくったりもしていた
それが成長し、性格や趣向にやや問題があるが素晴らしく美しく育っているとエミーシュから聞かされた時には小躍りしていたのだけれども
「実際会ってみるまでわからんもんだが、問題がある程度ではないなぁ」
「シグ、正直なところあれはうちに収まる程度の器ではないよ」
「だろうなぁ…今まで色々な人間を見て来たつもりだが、あそこまでの人間には会った事がないな」
やや問題がある程度なら良かった。その容姿から婿を得るのは容易いと思っていたからだ
だが、アエリアが持っていたものは問題ではなく
「王とか、そういう器じゃないのかな?しかも覇王とかいう」
「わかる。だって俺、跪こうかと思ったし」
「君もか」
と言う事である。だからこそ、午後に呼んだ者では役不足ではと思うのも無理は無かった
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さて、そういった事もあり午後の茶会でアエリアに挨拶以外が出来たものは殆ど居なかった
二人の予想通りである
遠巻きに眺めるだけで、挨拶以上のことが出来ないでいる様なのだ
そしてアエリア側はというと、優秀な者を集めた、それは間違いないと思っていた
「うん、お爺様方が本気だと言う事は良くわかった」
アエリアの目に叶う者もいないのが事実
イライラとしている不満、それににじみでる威圧感に近寄れる者はいない
ただ近寄れない理由はそれこそ祖父二人の予想通りのようで
「美しすぎる」
「気品がありすぎて・・・」
そこには男女の貴族、そしてメイドたちが近寄れずにいた
そのアエリアの立ち姿に見惚れている者ばかりだったりする
だけれども、知り合いとなればその姿をみても声を掛ける事はできる
そう、マリアだ
「うわぁ…アエリア様、凄いですね…そのドレス…」
「おお、マリア!来ていたのか!」
どうやらマリアにも招待状が届いていたらしく王宮で行われている試験の合間を縫って参加しにきていたらしい
まさかアエリアから様々な愚痴が出てくるとは思いもしなかったが
「分かるんだよ、お爺様のお気持ちも。引きこもってばかりだった私には友とよべる者がおらん。さらに知人もおらんからな、社交界に出ておらんし」
先ほど祖父達は婚約者どうこう言っていたが、この場には有力かつ優秀な貴族などの子供が集められている
それは社交界に出なかったアエリアを知らしめる為もあろうし、友人でもできればと思っての事
しかし
一通り各人とあいさつを交わした後、アエリアの傍に再び寄るものはいなかった
これは想定外である
アエリアが着飾り、そもそも持つ気品とその美しさに威圧感。それが相まって人を遠ざけているのである
「しかしマリアが居てくれて良かったよ。話し相手もおらんのだぞ、この茶会」
「ずいぶんとご機嫌が悪かったようですし…アエリア様は」
「む?もしかして伝わっておるか?」
「それはもう、十分に伝わってましたよ。近づいちゃダメな雰囲気でしたからね」
マリアでさえ、声を掛けるのを少し悩んだと言う
さすがにそこまで不機嫌が前に出てるとは思わなかったが、それほどに余裕は無かったのだろう
いつもしない恰好に、茶会などと言うイベントに始まって間がないというのに疲れてしまっている
ゴトンッ
視界の隅で、物を落とす音がした
そしてそこには一人の男性が立っていた
黒い軍服に身を包み、清潔感ある短めの頭髪
そしてその髪の色は珍しく、銀髪だった
アエリアにはなんとなく見おぼえがあるような、男性
「兄さん!?なにやってるの!」
慌てて動くマリア、その男性が落としたとみられるプレゼントの箱を拾い上げると、その男性に渡す
「もう、どうしたのよ。あ、アエリア様、こちら我が兄のランスロットです」
ランスロットと紹介された彼はぺこりと頭を下げる
が、
アエリアはその顔を見るなり
ど、どういう事だ!?なぜ、なぜこんなにも動悸が!?
顔も熱い…耳も…
アエリアは狼狽える
そのランスロットを一目見てからどうにもおかしい
まず鼓動が早まる
体温が上がったにがする
顔が、耳が、頭のてっぺんが熱い
手から汗が吹き出す気がする
なぜか涙を溜めている
自己分析、今までにない症状だ
アリエッタとして戦っていた時ですら、こんな事は無かった
それを見たランスロットが、アエリアに近づいてきて
そっと手を出して
「大丈夫か?」
あ、目が合った
「きゅう……」
バタンとアエリアは倒れてしまう
周りで騒ぎになり、バタバタと色々な人が走り回っているのが分かる
しかし、アエリアの記憶はそこ迄だった
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アエリアはその昔、攫われかけた事がある
10歳になったか、ならなかったかの時の事だ
この頃まではたまにであるが買い物に出ていた
母を失い、その寂しさを紛らわすようにたまに出かけた時は大量の買い物をしていたように思う
ふとしたタイミングで、店内で知らない男に連れ去られた。声を出せない様に口に布を詰められて
そのまま誰にも気づかれず、騒ぎもできずに店の裏口から出た所で、袋に入れられた
縛られた手足では暴れる事も出来ず、どうしていいかわからないまま馬車に積まれそうになったと思う
「痛っ!くそ!てめぇ誰だ!」
男の声が聞こえた
バキバキと、音が響いてわたしは恐怖に震えていた
どさりと袋は落とされ、中に居たアエリアはその衝撃を体全体で受けた
痛い、死ぬの?
そんな思いが駆け巡る
しかし閉められて居た袋が開けられて、見えたのは一人の若い男性
きらきらと太陽の光に反射した髪の毛が綺麗だなと思った
そして口の布を取って、束縛から解放してくれると
「大丈夫かい?」
そう言われてようやく助かったと思った
「あり、が、と……」
ほっとしたのか私はそのまま気を失う
後日、助けてくれたのはランスロットと聞かされる
私はお礼がしたいと言ったのだが、彼は騎士の仕事があるとかで会うことは叶わなかった
アエリアは、あの拉致されて被せられた袋から助け出された時に
ランスロットに恋をしていたのだ
いかにもなシチュエーションだと思う。本で読んだ恋愛小説そのままの様な奇跡の出会いだと
その2年後、妹のエミーシュに婚約者が出来た
紹介されたライを見て、どことなく記憶ももう薄れていた彼に似た雰囲気に良いなと思って、妹に狡いと思った
だから、今日はアエリアの初恋で、その初恋の彼に再開した
すっかりと忘れていたはずの幼い時の恋心と、アリエッタにもそんな恋をしたなんて記憶はない
記憶の何処か、隅の方に残っていた恋心が目を覚ましただけの事だった
それに今のアエリアは気づけないだけのこと
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