第9話エズラとアリエッタ

アエリア住んでいる離の屋敷には古い馬車1台しか置かれていない

使用人の買い出し用であるから故に荷台は大きいものの人が乗るスペースは全面しかない


元々この離れの屋敷は

あのアエリアを閉じ込めておくために利用していたので普通の貴族の子が乗るための馬車は置かれていないのだ


ちなみに主立った食料品や雑貨品などは、6日に一度商人の馬車が来てそこで補充している


「そう言えば、馬車があれでは……とても南の森までは行けそうにありませんよアエリア様」


あの馬車には長期間旅する耐久性はもとより、荷台しかないので座るところもないからだ


「ん?マリアは馬車で行くつもりだったのか?それはまた、色々と手遅れになるな」


「え?」


「そもそもだ、宣戦布告から1週間だ。そろそろお互いの軍は進軍しているか集まりつつある頃合だよ、馬車で探しにいったのでは到底間に合わん」


アエリアの言う南の森とは、この屋敷から馬車にすればゆうに2週間はかかるだろう場所にある


行って1日で見つけたとしても、往復して1ヶ月、さらには戦場までまた半月かかってしまうだろう


流石に何がなんでも手遅れになる


ではどうするのか?その秘策はアエリアではなく、アリエッタならば持っている



「すまないがマリア、耳を塞いでいてくれるかな?」


「え?あ、はい」



そう言うなり素直にアエリアに従うマリア。

今ではマリアもまた、ライと同じくアエリアを師匠と思っているので素直なのだ


マリアが両耳に手をやり塞ぐ

耳を塞いだのを確認するとアエリアは呟いた



「さて、お前は……覚えているよな?」


アエリアが想いを込めて魔力を高める


「我が契約の神獣よ、呼びかけに応えろ」


「アリエッタが名において召喚する…銀狼スケルよ、来い」



そう唱えるなり地面が輝き始め、そこから現れたのは大きな白い毛の狼だ


無事に召喚出来たのを見てほっとする

銀色の毛がきらきらと輝き魔力の風に揺れている


「久しぶりだなスケル。覚えていてくれたか」


懐かしそうに、その巨大な狼の頭を撫でるアエリア

それに応える様に、狼は目を細めアエリアに擦り寄った


「な、な、な、なんですかこれー!?」


それを見たマリアは今まで出したことがないほどの大きな声で叫んでいた


「うるさいぞマリア……スケルが驚いてるだろうが」


事実ビクンとしていた

狼の聴覚はかなり良い。神獣となればなおさらだ


「いや、いえいえ、そ、それ何ですか?狼……にしては大きすぎませんか?」


「マリアは召喚魔法、知らないのか?」


「えええ?召喚魔法って、あれですよね、鳥を出して伝令とばしたり、ウサギを出して偵察させたりとかの」


「まあそうだな。そういうのも居るが、こういう狼だっているぞ」


「でもこれ…は…」


余りにも巨体では無いだろうかと


「さて、スケル、久々に背に乗せて駆けてくれ」


ウォン!


アエリアはスケルの背中に多くの木箱を括りつけていく

エルフに頼み事をするのに必要な物資だ

ちょうどシルバ達が大量に置いていったものが残っていたので有効活用できるなと思う


それらと共に、間を置かずスケルの背に乗って走り出す

かなりの重量を背負っているのだが


とんっと軽い足取りでスケルは駆けだした









「ひぎゃああああ!はやいあああ?!」


「騒がしいぞマリア…いい加減慣れろ」


足音も無く風を切る音だけが聴こえてくる

スケルの疾走は静かだ


あれから小一時間ほど背に乗り駆けた


その間ずっとマリアは悲鳴をあげていた


ただ、流石に慣れたか疲れたか分からないが静かになった


「ほら、もう着くぞ」



馬車ならば2週間かかる道程であるのだがそれを1時間足らずで走り抜けたスケルの移動速度は相当なものと言える


スケルの背に乗っている間に見ていた、流れ、溶けるような風景は懐かしかったとアエリアは思っていた


森に着いたアエリア達は、そのままスケルの背に乗ったままゆっくりと森の中へと進む




深い、森の中へと




濃い濃度の空気が肺に流れこんで咳き込みそうになる

ここは人が暮らすには自然が多すぎてきつい場所だ


ある一定のところに来ると、大樹ばかりが生えている場所にたどり着く

そこで足を止めると、アエリアはここだなとうなづいてから


「エズラ、居るんだろう?入れてくれないか?」



そう言うと、目の前の大樹に音もなく大きな穴が空いた

静かになってからずっと無言になっているマリアと共にウロの中にはいってゆく


空からはまばらな光線のように陽の光が漏れている

そして広く、澄み切った空気の流れに、綺麗な水の小川が流れていた


その空間はまるで絵本の中のように幻想的な場所



すると一人の美しく背の高い、長い金色の髪やや耳のとんがった女性が立っていた

その後ろに控えるエルフの美貌も相当なものだ



これもまた、絵のようだとマリアは思った



『なんだ、誰かと思えばアリエッタ?久しぶりね』


エズラはすぐに気づく

それがかつての仲間だと

エズラから見れば例え姿が変わっていても友人は間違えないものだ



『そうだな、久しぶりだ』


『てゆうか、その姿…どうしたの?なんか姿は違うし、若くみえるわよ』


『あれから何年経ってると思ってるんだ?そうだな、おそらく転生したんだよ。しかしエズラは変わらんな』


『はあ?転生ってアンタ…禁術使ったんじゃないでしょうね!』


『違う、自然に、だ。たまたま記憶を思い出しただけだ』


『ならいいけど。ところで。マリアやカーネリアは一緒じゃないの?アシュトーは?フランリッタも居ないの?』


『皆もう死んだと思うよ。人は君らエルフのように長生きではないんだ』


『そう、寂しいわね。あら、その子は?誰かの子供?見た感じアシュトーとカーネリアの子供かしら?』


エズラはにこにこと笑いながらマリアを見る


『ああ!言われてみれば、アシュトーに似ているな!今度聞いてみるとしよう』


懐かしき知己と話すのは楽しい。思わず長話をしてしまっていたところでマリアから


「あの……すみません、言葉が分からなくて……何を話されてるんですか?」


『あ…しまった、マリアが言葉がわからんと言っている』


『あ、そうなの?……言語がわかんないか、であればあれの出番ね』


エズラが他のエルフに、あるものを持ってこさせる

イヤリングだ


青い石のイヤリングでこれがあればエルフ語分からなくても話が分かる様になる


「私も当時はお世話になったものだ」


「あんたは3日で全部覚えたじゃない」


「それでもなければ習得は遅れただろう?」


マリアはくちをあんぐりとあけた

先程エルフに付けられたイヤリング、その途端に会話が分かったのだから


しかし、分かるだけでマリアの言葉は通じない

お互いに付ければ会話は可能と気づいたがアエリアは付けていない


なればアエリア様は一体どうやって会話をしているのかと思ったが、言葉を覚えたと当たり前の結論にもう一度驚いた


「そうなの…外は不作なんだ」


「ああ、ここ3年ほど涼しい夏が続いていてな北はかなり寒かったようだ」


「ん、分かったわ!大地に祝福をするわ。それでいい?」


「ああ、ありがたい。礼はパンとチーズとワイン、他にも色々と持ってきている」


「十分ね、久々に良いものが食べれるのは楽しみよ」


それだけ言うとエズラは


「さあ皆、久々に大きな祭りよ!大陸全土にお祈りをするの!準備して!」


するとどこからが、数十人のエルフが現れた

皆が皆、美しい容姿をしている


持ってきていた荷物を降ろすと再びスケルにまたがる


「じゃあ、またなエズラ」


「ええ、また来なさいよ?今度はそうね、またなんでもいいからお土産よろしくね」


「分かった」


そして、エルフの隠れ里を出る

マリアは気になり振り向くが、今出てきた場所かもう分からなくなっていた


「あ、いけない!イヤリングを返すのを忘れていました」


「ああ、貰っておけば良いんじゃないか?」


マリアの耳に付けられたままのイヤリングがきらりと光る


「これ、ほんとに良いんですか?」


「知らない言語でも勝手に翻訳してくれるからな、便利だぞ?上手く使えば言葉を覚える手助けになる」


アエリアは簡単に言うが、それはとんでもない物ではと思った


そして、スケルは風よりも速く走り出す


先程で慣れたのか、マリアはアエリアと話す余裕があった


「それで、これからどうするんです?」


「まあ、見ていろ。このまま日が暮ればわかる」


アエリアの言葉通り、その日の夕方から不思議な事が起き始めた





目の前に広がる大地が、いや、大陸全土の植物が淡く緑に光り始めたのだ

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