第7話宣戦布告?
その男はシルバによく似た風貌をしている。
それもそのはずで
「カイン!?どうしてここに!」
シルバが怪訝な顔をする
それは、アエリアの兄であるカインだ。歳はアエリアより2つ上の22歳である
カインは王国騎士団に所属していて
時が来れば、故郷であるここに帰ってシルバの後を次ぐ予定になっている
そういった貴族の子らが、騎士団には多く務めている
だがまだ任期は残って居るはずなのに、帰ってきていることがおかしい
それにカインが答える
「先日、ノーチェスからこのサウセスに対して宣戦布告がありました。その伝令役として一次帰宅したのです」
それにシルバは目を見開く
サウセスに宣戦布告など、シルバの記憶にはない…その昔には戦場もあったと聞くが
「なんだと!?なぜだ!」
「分かりません……詳しくはまだ説明されてなく」
細かな内容、それは主立った貴族が集まるまでは機密と言う事のようだった
「こうしてはおれん、帰らなければ…本当ならばすぐに王からの迎えが来る」
慌て始めるシルバとは対照的に落ち着いているアエリアは食後の紅茶を飲むとカチャリとカップを置いて口を開く
「おおかた、食料が足りんのであろうな……ここ数年の冷夏で、北のノーチェスでは作物が育ちにくかっただろう」
アエリアがそう言うと、シルバとカインがアエリアの方を向いた
「50年前も似たような事があったが、その時は各国が食料支援を申し出て事なきを得たはず」
アエリアは図書館で読んだ本を思い返して言う
だが、それに関心する前にカインの目が潤んだ
「お……お母様……生きて、居られたのですか?」
ふと見るとカインが両目に溜めた涙を零し、震えていた
それを見てアエリアは笑顔で答える
「私は母上ではないよ、あなたの妹のアエリアだ。まったく、カイン兄様は未だに涙脆いのだな?」
カインは小さい頃はよく泣く子だったと思い出す
その発言に一瞬、アエリアの言っている事が理解できなかったカイン
「な、お母様では……ない?」
「ふむ、お父様の反応からも思っていたが本当に、よほど私は母上に似ているのだな……」
それにはシルバが答える
「はぁ、そうだアエリア。お前はよく似ている…成長した今ならばまるで双子のようだと思う」
「はは、それは変な気分だ。しかし、悪くない。私にも母上から受け継いだものがあると言うその証拠が私自身というのは、うん、良いものだ」
アエリアはうんうんと頷いた
母から受け継いだのは黒髪もある
だからアエリアは昔から髪だけは大切に手入れしていた
「そんな!あれがアエリアだって言うのか!?まさか!わがままで、肥えていて、常におどおどしていたアエリアか!?」
信じられないと言った口調でまくしあげるカイン
「そうとも、そのアエリアが私だよ、兄上」
それを聞いて、どさっ、と膝を着くカイン
「そんな、バカな……いや、しかしあの黒髪はアエリアがお母様から受け継いでいたのは確かだ…」
そうブツブツと言い出した
なんだか残念な兄上だなと思う
「それよりもだ、父上、兄上、我が国は宣戦布告を受けたのだろう?問題が発生したのだろう?そしてそれに対処する役目が我が家にはある」
「その通りだ。カインがここに来たという事は私を呼びに来たのだろう?」
「え、あ、はい。そうです」
「しかしアエリアよ、先程の話は私も思い出したが、今回もその食料支援でどうにか治まるのではないのか?」
そう、シルバもその歴史は知っている。丁度シルバが生まれた頃の話だ
「いいえ、無理でしょう、今年は各国にもそれだけの余裕はないはず」
いつの間にか、アエリアは普段の話し方に戻っている
それに違和感を覚えたのはアエリアの後ろに控えるメイドのメアリ位のものだった
「いいですか、50年前とは状況が違いすぎる。あの時は作物に流行る病でノーチェスだけが不作だったのだ。だが今回は冷夏によるものでその影響は大陸全土に及んでいる」
「どういう事だ?それでも備蓄があるだろう」
「父上、備蓄を全て回してもノーチェスの国民全てを食わせるだけの食料が用意出来ないかもしれないと言う事ですよ。全て回せば可能かもしれませんが、この不作の冷夏が来年も続くとなればどの国も出し惜しみするはずだ」
それに対して、さすがシルバ、アエリアの言わんとしている事がわかったようだった
アエリアは続ける
「そしてこれの解決に必要とされているのは植物を促成栽培できる精霊使いだ。幸いにして我が国にはその精霊使いがいる。そうですね、父上」
「ああ、そうだ……まさか」
「そう、そのまさかです。しかし精霊使いが育てられる作物量には限界がある。それ故に、他の国への精霊使いの貸出などは出来るものでは無い」
「狙いは食料の先に見える精霊使い……か」
アエリアはにこりと笑い、頷いた
「それともう1つ。50年前の食料支援の見返りです。あの時各国はここぞとばかりにノーチェスから様々なものをむしり取った。宝石、武器、人材、ありとあらゆるものを奪ったのだ。命こそ助かったもののノーチェスは大変辛い思いをしたと、記されている」
それは当然の事だった
支援の見返り、どの国も当たり前の様に要求し、ノーチェスはそれに従った。
当時の宣戦布告はノーチェスがギリギリの状態で行ったものだった
たいした武力もないが、どうせ死ぬのなら餓死と戦死と天秤にかけていたにすぎない
しかし此度は違う
「ノーチェスは10年前から戦力を蓄え、鍛えていましたよ。父上」
心当たりはあった
10年前からノーチェスは国をあげて武力大会を開いていた
成績の良かったものはノーチェスの騎士団に採用されるとあって、各国から猛者が集まっていたのだ
それに50年前の事があるからか、ノーチェスの備蓄は他の国以上にある
おそらくはまだまだ余裕で耐えれるはずだ
その上で、この先を見据えた宣戦布告ー
「なんて事だ……」
アエリアによる説明、それはこの宣戦布告が取り下げられる可能性が低い事がわかる
「さて、ここでこれ以上の話は無駄でしょう。父上、兄上は早くお帰りください。他の貴族から遅れを取ってしまいますよ」
ハッとした状態で、使用人を含めドタバタと帰る支度を始めた
騒がしい一団は嵐のようにその日には引き上げて行く
落ち着いたらまた来る、そう言い残してシルバとカインは馬車を飛ばしたのだった
それをアエリア見送ったところで、隣にいる女性に話しかける
「ところで」
「はい?」
「マリアは行かなくて良いのか?」
そこには何故かマリアが残っていた
「ああ、構いませんよ。どの道、女である私に出番はありません。戦場には立てませんから」
「なるほど。マリアほどの腕でもか」
「ええ。戦場に立った女など後にも先にも、きっとあの皇帝アリエッタだけですよ」
そうマリアは笑って言った
アエリアは少し考えて、マリアに言う
「うん、それは違うな。知らないのかマリア、アリエッタと共に戦っていた女達を」
「え?そんなお話ありましたか?」
マリアもアリエッタの話は好きだ。あれは幼い女の子が読めばみな憧れるおとぎ話だ
「知らぬなら、話してあげようか。剣神と呼ばれた女カーネリア。おっと、そう言えばそなたと同じ名前の女も居たな、全てを癒す聖女マリア」
アエリアから知らされた、剣神、全てを癒す聖女、その2つ名だけで何故かワクワクするマリア
「そして、最後は破壊の魔神と呼ばれた女……エズラ」
「なんだか面白そうな、おとぎ話ーですね」
「おとぎ話?さあて、それはどうだろう?案外本当の事かもしれないぞ?」
そうイタズラが成功したような笑顔で笑うアエリアだった
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