嫌われ令嬢の前世は最強の女帝

ちょせ

第1話生まれ変わりのアリエッタ

「おにいさま、わたしありえったさまみたいになりたい」


絵本を読み終えて、兄に可愛らしい感想を述べるのは私


「お父様、ごめんなさい!でも、エミーシュがね、そう、私じゃないの!」


父に、言い訳をするのも私


「エミーシュ!いいから私に護衛騎士を譲りなさいよ!」


そう言って妹の護衛騎士を奪おうと、その頭を掴み髪を引きちぎったのも私



溜まりに溜まった不満


そこからの暴飲暴食と、その脂肪を蓄えた体から社交界にデビューずらさせて貰えずに


離れの屋敷に幽閉されるようになったのも、私


それに耐えられなくなって20歳の誕生日に毒を飲んで死んだのも、私



そのはず、だった



「何故生きてるの?確かに、毒を飲んで死んだはずなのに…いいえ、それは私じゃない」


意識が朦朧としている、記憶が混濁している


「あれ?」


体が重い?鈍いのか?なにか違和感がある


起き上がると、太い手足に胸よりも大きな腹


んんん?何だこれは……


そう言えば私の名前はなんだった?


「アエリア様、今日はお早いですね」


そう、アエリアだ…


「メアリか、おはよう」


そう、このメイドはメアリー。普段は伸ばすのが面倒くさく、メアリと呼んでいた


あーいやいやいや、まて


そうじゃない、ちがうぞ


私の名前はアリエッタだ……

記憶が色々と蘇ってきた


何の因果かわからないが、どうやら私は公爵家の嫌われ令嬢アエリアに転生してしまったようだ



「あのー、アエリア様?朝食のご用意ができてございます。お着換えなさいますか?」


あ、そうだメアリの事を忘れていたな


自身の姿を見ようと鏡を探すが、この部屋にはなかった


そうか、私、アエリアは鏡が大嫌いだったな


「メアリ、鏡を持ってきてくれないか?それと着替えは自分でできるから服を置いて行ってくれ」


「え?えええ!?鏡、ですか、でも、その…」


メアリは顔を青ざめさせる


「大丈夫だ、割ったりはしない」


「そ、そうですか、只今お持ちします」


そう言ってメアリは服を置いて鏡を取りに行った


私はその服、ドレスに着替えようとするのだが…


「いや……あれ?これどう着るのだ?」


ドレスとは無縁、ほぼ軍服しか着てこなかった私の前世の記憶の中にもアエリアの記憶の中にもこれをどう着るのかその記憶は無かった


「仕方ない、適当に着るか」


どうにかこうにか、よたよたとドレスを着る


「スカートが長いな…動きづらい。軍服の様なものはないのだろうか…」


そうこうしているとメアリが鏡を持ってくる


そして鏡をのぞき込むと…


アエリアは自分をぽっちゃりとおもっていたようだが


「これは…ぽっちゃりというよりも豚だな…しかも巨大豚だ」


長い髪は手入れはされているのでつややかできれいな黒髪


綺麗な青い瞳に、大きな顔と体


それは今の私、アエリアだった


「はぁ、まぁいい。体躯程度どうにでもなる」


「あの、アエリア様?」


私はペンを取ると、そこにあるレターセットの残りを使ってさらさらと書いていく

それをメアリに渡すと


「すまないがメアリ、ここに書いた事を頼む。それと、とりあえずは食事だな、用意されているのだろう?」


「うええ!?は、はい。出来ております!あれ?えっと、アエリア様、ですよね?」


「そうだが、何に見える?豚にでも見えたか?」


「いいえいいえ、なんというかその、しゃべり方が全然なんといいますか、違うと言いますか」


「ああ、そうか。んんっ、『メアリ、相変わらずグズね。私を餓死させる気なの?早く食事を持ってきて!』っとこう言えば良いか?」


「おお!間違いなくアエリア様…申し訳ございません、えっと、お食事用意致します」


「それと、そこに書いてあるものも頼むよメアリ」


「はい」


用意しに行くメアリは頭をかしげていた


「ふむ、この喋り方だと目立つか…まぁ関係ないだろう。別段アエリアが持っていた関係性などもう私には関係ないのだからな。それよりもそうか、うん、私は…また生きているのだな…」





皇帝アリエッタ


武に寄る大陸統一を成し遂げた、最初にして最後の皇帝


女でありながらその武力は大陸最強だったと言われる


昔話としても、数多くの絵本が存在するその武勲は数知れず


剣士とも、魔法使いとも取れるその昔話の内容からは作り話と言われていた


歴史研究家によれば、380年前の事であるが、血脈が不明な事と、次の皇帝は他人に譲っている事から直系子孫がいないこともあって実在すらが怪しい謎が多い皇帝であるとされている






朝食を終え、庭に出て紅茶を飲む

香りが良い


「うむ、良い茶葉だな」


「はい、今日は茶葉の有名な地方からの贈り物があったとのことです」


「では、叔父様だな」


アエリアの叔父は農業が好きで、わざわざ地方を治めるのを買って出た人だ

小さき頃何度か会った事がある程度ではあるが、人柄の良さそうな人物だったと思い出す


「さて、それではやるとするか。メアリ、準備は出来ているか?」


先ほどメアリに渡した紙には色々と用意して欲しいものを書き連ねておいた


「はい、出来てますけど‥こんなもの、なんに使うんですか?」


まずはこの一帯の地図


「メアリ、この屋敷の場所は?」


「はい、ええと、多分この辺りかと」


なるほど、という事はこの屋敷は…都合が良すぎるな

まあ有難いのだが


「で、近くに川はあるか?」


「はい、ご案内しますか?」


「たのむ、それと服もだ」


「はあ。男性用の執事服ですよね…お持ちしましたけど」


「よろしい」


メアリに案内され、近くの川につくとアエリアは服を全て脱ぎ川へと入っていく


まだ水は冷たいはずなのにアエリアはどんどんと進んでいく


「アエリア様!?い、いけません早まっては!」


慌てて飛び込んで来るメアリだったが


「メアリ、この浅瀬で身投げなどできぬぞ?」


「え、あ、あれ?」


勘違いで顔を赤くしたメアリ


「あと済まないが離れていてくれ。おそらく異臭がするだろうからな……」


「は、はい。異臭?」


メアリが離れ、川辺りに上がったのを見届けると


「さあて、この邪魔な服を脱ぐとするか」



まずは魔力を腹に集める


体中から、めいっぱいだ


「アエリア、なかなか多く魔力をもっているではないか。当時の私よりもかなり多いぞ?」


そこから、全身へと魔力を巡回させて行く


が、一点、心臓の辺りでどんづまる


「ん?これはこれは……だから淀んでこの体躯に、かな?」


アエリアの様な大量の魔力持ちがその体型を狂わせるなどおかしいと思っていた

しかしこの心臓周り……呪い、か?いや、そうでもないな……単に自らその呪いを仕掛けていたのだろう


「アエリア、お前の心はガラスのように脆かったのだな……」


その理由を記憶から呼び返しながら


右手で心臓を、どん、と叩く


するとスルスルと再び魔力が伸び始める


「うん、いいぞ……巡れ、巡れ……」


次第に右の足元から、ドス黒い泥のような何かがゆっくりとドロドロと流れ始める



「さて、ここからが勝負だな。耐えろよ、アエリア」


そのまま、数時間、昼も周り夕方になるまでそれは続いた……



最後の泥が、とぷんと浮いて流れた




「ふう、何とかなったな」


ばしゃんと、ふらりと背中から川に倒れる


「しかし流石に体力はもうない……どうするかな」


ぷかぷか浮いて、流されそうになるが



「あ、アエリアさまあっ!大丈夫ですか!」


バシャバシャと音を上げてメアリが寄ってきて


随分と軽くなったアエリアをその背に担ぎあげた

なかなか力強いではないか


「あ、アエリアさまぁ……」


「何を泣いてるんだ?」


「だって、だってぇ」


川から上がると体を拭いてもらい、男性用の執事服を着せてもらう


「これは、キツイな……」


「はぁ、アエリア様、胸が、大きすぎます……」


「まあ布を巻いておけば良かろう。その上から何か羽織れば良い」


何とか服を着て、少しばかり体力を回復したところでメアリに肩をかしてもらい、屋敷に向かって歩き出す


「あの、アエリア様、先程の何だったんですか?私驚いて、アエリア様が溶けて……それに凄い匂いで近づけなくって……」


「あれか、魔力操作による体の調整だな。余計なものが随分溜まっていたので全てでるまでかなりの時間を要してしまったが……」



「魔法で減量なさってたって事ですか?」


「違うが……まあ、似たような物だ」


「はあー、アエリア様、いつの間にそんな事が出来るように……それならばもっと早くにすれば良かったのに……だったら、こんなところに」


「まあ気にするな。とりあえず帰ったら寝させてくれ。それと、今日はもう食事はいい。寝て起きて明日の朝食べよう」


「はい」




こうして、アエリア=アリエッタは、第二の生を生きてゆく事になったのであった

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る