0と1の間

きょんきょん

挨拶

「自叙伝?」「自助伝?」

「恥の多い生涯を送ってきました」


 私の三十三年の人生を語る上で、これ以上相応しい言葉フレーズはないだろう。

 まるで俺の為に書かれたような一文だと、当時擦れていた中学生の私はそう感じたものだ。今思い返せば恥ずかしい限りだが。


 私のような小市民が引用するには畏れ多すぎる冒頭であることは重々承知しているし、物語を綴じた時点で読者に「あれは暴投だった」と切り捨てられる可能性もあるだろう。

 なんならこの冒頭で締め括ることも吝かではないのだが、それではせっかくこのページを開いていただいた奇特な読者に対し、無礼千万に当り申し訳が立たない。

 そこで、自らの恥を晒すようで、恥部をさらけ出すようで、ただでさえ恥だらけの人生に恥を上塗るようで汗顔の至りな訳なのだが、最後まで書ききることをここに約束する。


 しかし……自らの過去を語るということは、想像以上の苦労を強いられるものだ。いやはや難しいのなんの。

 覚束無い動作で、初めてマニュアル車のクラッチを繋いだ遠い過去よりも遥かに困難を極める。

 それもそうだ。人によって程度の差こそあれ、過去というのは大概醜いことが多い。私の場合はそれはそれは目を塞ぎたくなるような怪物の姿をしている。

 その牙にはこの身を蝕んでしまう毒を孕み、吐き出す吐息には唾棄すべき数々の過去と所業が絶えず霞んでみえる。

 そんな化物に立ち向かう私は、格好良く言えば勇者のようにーー実際はドン・キホーテかもしれないが、今一度真っ正面から過去バケモノと対峙して剣をペンに代え立ち向かう。




 この物語は、私の人生の少年期・青年期と二つに章立て進んでいくが、幼年期に関しての記憶は殆ど記憶の底の泥濘で微睡んでるか、一切を消失しているかのどちらかのようで申し訳ないが割愛させていただきたい。

 また厚生労働省の定義によると、私の年齢は「壮年期」に当たるようだが、まだ壮年期に突入したばかりの私が語るような出来事はあまりに少ないこともあり、どこかで軽く触れる程度に留めておくとする。

 決して、壮年期であることを認めたくない訳ではないことをどうかご理解頂きたいーー






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