第8話え?これ現実ですか?そうですか、覚醒ですか、そうですね

全てを話す、私はシロンちゃんにあった事を全部話した


ところがですよ


「ええ!?私、死んでないよ!?襲われてもないし」


てなもんですわ


そう言えば、死んだにしてはここは余りにも現実くさい

私はポケットの中身を確認する


するとそこには、ポケットから出したはずの財布が入っていた


まだある先程のナイフだ


あれも寝る時には邪魔だから外していたはずの物だ


あの夜は慌てて出たから持ち出してなんか居ない


つまるところ、ここはあの夜が来ていない


正確に言えば、その夜の前ではないだろうか?……




ん?時間戻ったのかな?


いやいやいや、死んだ気はする、うん。


足の痛みとかまだ覚えてるもん

あの悲しみも全て


で、あれば…んんん?やり直してる?



スキルの力かも知れない…


「うーん…まあ、原因調べる程の元気はないし……気にしないでおこう」



私とシロンちゃんがその後も襲い来る人達を迎撃していると、流石に街の人々も一体何をしているのか察してくれ始めた


まあ、あの人ら


「亜人共のくせにふざけんな!」


とかまあ敵意むき出しで来てたからねえ。


ちゅか亜人が何したってゆーのよ。もしかしたら国同士でなんかあるのかもしんないけど、民間人を虐殺なんてするのは普通じゃなさすぎる


くう、ポメラとか言うやつ、燃やすんじゃ無かったのかも。捕まえて話聞き出せば……無理か


人族はスキルとか色々あるみたいだからなー

転移とかされたら敵わないし


ま、あれはあれで良かったとしておきますか



それからその日は一日街中で彼らが設置したと思われる発火装置の発見とか、まだ潜んでた人族とかを捕らえたりと忙しかった



そして、私は翌日何事もなく寝ることが出来た


本当に良かったと思う




疲れた……おやすみなさい……



カチン








街からほんの少しだけ離れた場所に、そいつは潜んでいた


その日は曇りで、月明かりさえない暗い夜だった

だからこそ、ポメラは今日を実行日に選んでいたのだから


全身を火傷で覆い、瀕死の状況である



黒く焦げた体を休めてはいるが、回復しているとは言い難い



そう、ポメラである


彼は閉じ込められた寸前で転移していたのだ


しかしながら、その黒棺に一瞬でも囚われた代償は大きすぎた


転移が発動するまでのほんの1秒未満の間にボロボロにされてしまった



そして彼の心は


ころすころすころすころすころすころす

ぶっころすぶっころすぶっころすぶっころす



凄まじいまでの怨念と、その執念で生き延びようとしている



「おいおい、お前がこんなになるなんてな……油断し過ぎだぜ」


そこに一人の金髪の男が現れた

ポメラに、パシャリと液体をかける


ポーションである

しかしながら、それは効き目が無いように見えた



「回復薬だけじゃなおんなさそうだ」


そう言うと、ポメラに魔法をかける


ポメラの体が輝くと、ほんの少しだけ改善したように見えた


ふっと、ポメラは意識を失う

男がスリープの魔法も掛けたからだ


「まったく、これ計画の遅れが出ちまうなぁ」


そう言いながらポメラを担ごうとした時だった




「はー、こうやって見るとほんと、よく生きてたもんだねー」


男はビクリとして臨戦態勢に入る


「何者だ?」


「うん?私?まあ気にしない方が良いよ。君らの味方って訳じゃないしさ」


ギィンとかん高い音を立てて魔法が砕け散る


「ばかな!俺の魔法を弾いただと!?」


「そりゃねえ、散々見て来たからね……ガルさんの魔法」


男はゴクリと唾を飲む


「なぜ、俺の名前を知ってる…」


「いやー、苦労したもん。裏切り者の狐族のアンタを突き止めるのをさ」



ぼっ ぼっ


火魔法が、辺りを照らしガルとポメラを映し出す


そして当然、声の主の姿も


「狐族だと……?誰だ?」


「はあ、まあいいよ。教えてあげる。私の名前はハル……」


「ハル?たしか……族長の息子の嫁の……妹?」


「そ、せーかーい。これからアンタを放置してるとさあ、問題しか起きないのよねーいやぁ、まさか身内の狐族に裏切り者が居るなんてさあ、思わないじゃん」



ガルと呼ばれた男は、ゆっくりとポメラを降ろして腰の剣を抜く


「あ、無駄無駄。もう拘束してるし、ポメラは燃やして置かないとね」


「なっ!?」


ポメラを見ると黒い棺に包まれていた

そしてそれがグスグスと音を立てて崩れ去る


「これからアンタを始末する訳だけど、まだなーんも知らないだろうから、死ぬ前に教えてあげるよ」



「ほう…」


再びゴクリと唾を飲み込む

対峙しているだけでとんでもない使い手だとわかるからだ。

普通に戦えば命はない。ガルは今、いかにして逃げようかと考えを巡らせている



それに時間が稼げれば、他の仲間も来るはずだとガルは思っている



「あ、そうだ。シン、ヴェク、ライオ、タヌカン……もう全員始末済みだからね。助けは来ないよ」


「なっ!?」


「本来はね、ポメラは死なないんだ。生き残ってた。ほんで復讐の為に狐族の里を襲い、皆殺しにする。そりゃもう残虐な殺し方で。そのあと、この国の王を殺して、傀儡の王を操ってたんだよね」


ガルには心当たりはあった。なぜならば既に傀儡となる王子を既に手に入れていたからだ


「そりゃあ酷い圧政だったみたいだよ。わずか二度年でこの国、人族に乗っ取られてほとんどの弱い亜人は奴隷として売られて行ったからねー」


「まるで見て、来たように言うんだな」


そのガルの問にハルは、くすすと笑いながら答える



「そー、見てきたよお?ねーちゃんと、甥っ子が串刺しにして生きたまま焼かれた跡とか、父ちゃんの手足が切断されて死なないようにして見世物にされてる姿とか、街の皆を人族がなぶるように殺したり扱ったりとかね……私も奴隷として売られたしね」


ハルのその目は、まるで死んだ幽鬼の様だとガルは思った


「奴隷として5年過ごしてたけど、シロンちゃんが助けてくれなかったら私はここにいなかったかもねー。まだ奴隷してたかも?」


「お前には未来が見えるのか?」



「未来なんて見えないよ……分かりやすく言うなら……私は未来から来たって事かな」


そうハルは笑う


「ふん、それが本当であれば大概だな、歴史など如何様にも改ざん出来てしまうではないか」



「そうでも無いと思うよ。今までの経験から考えるとね。でもこれでようやく一つカタが着くと思う」



ハルのしっぽが淡い光を放ちはじめて……増える


ぼっ ぼっ ぼぼぼぼっ


「なん、だ……その尾は……」


「九尾……知らない?100年生きた狐族は能力覚醒して九尾に成るんだ…ま、知らなくて結構。あんたは何も出来ずこの場で私に殺されてくれるだけでいい」



パン!


破裂音がして、ガルの足元から燃え始める


「バカ、な……俺が……燃えるだと?」



「燃える。魔法無効スキル、だよね。でも九尾に成った私の魔法に燃やせないものはないよ……」


悲しそうに言った



「お前はこれから何をする、何を望む」


ガルは死を覚悟した

そして最後にこれだけ教えてほしいと思ったのだ



「シロンちゃんを魔王にさせない為に、私は動くよ。なんだかんだ繰り返し繰り返し生きて、こんな力まで手にしたんだ……だから彼女をもう二度と魔王になんて覚醒させない」



「はっ!意味、分かんねえな……なんだそりゃ」



そう言ってガルは燃え尽きた


それを見て、ハルはようやく終わったとため息をついた



「涙はもう出ないか…嬉しくて泣くかとも思ったけど。まあ100年分繰り返しタイムリープみたいなことしてたからなあ……心は疲弊してる、ってね!さぁて、と、今度こそ帰って寝るぞお!」




にこりと笑ってハルはふわりと浮いて、自宅へと転移した



もうやり直しなんてしたくないと、枯れた心で想いながら

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