やるせなき脱力神番外編 追放ざまぁ習作~勇者パーティーを追放されたがその後速攻で勇者パーティーが壊滅し唯一の生き残りの聖女はメデューサの姿となり追放され復讐を誓うが壮大に何も始まらず打ち切りEND

伊達サクット

追放

「アーノ、お前はクビだ。この勇者パーティーから追放だ」


 パーティーが休息を取っていた宿屋の一室。


 勇者ザマァは目の前のアーノに向かって、見下したように言い放った。


 ザマァの周囲にいるのは三人の美女。パーティーメンバーの聖騎士アルエリア、聖女ルシャナ、魔術士ベリーローズである。


 彼女らも、ザマァに倣うようにアーノを冷たい視線で見下していた。


「どうしたんだよ急に。何でそんな」


 アーノは当然、いきなりの追放宣言に戸惑った。


 確かに、この合計五人の勇者パーティーの中では間違いなく自分の立場が一番低いという自覚はあったが、サポート役として縁の下の力持ち的な存在にはなっているはずだ。


「自分の胸に聞いてみろ」


 勇者ザマァが突き放したように言う。


「分からない。俺は自分の役目果たして貢献してたと思うけど」


 自分以外のメンバー全員からの敵対的視線を浴びながらも、怯まずに答えた。アーノは勇者パーティーの一角として、自分の役割に誇りを持っていた。


「あなた、魔王からお金借りてるでしょ」


 アルエリアが横から言う。


「うん」


 魔王ウッシーアイランドは冥界に侵攻するに当たり、冥界のあらゆる町に金貸し屋を開業し、資金源にしていたのだ。


 金貸し屋は実質的には魔王軍が経営しているが、店員は現地の冥界人が担っているため、外からでは見分けがつき辛かった。


 アーノは勇者パーティーの資金調達のため、魔王系列の金融ギルドから金を借りたのだ。


「『うん』じゃねえよ。お前よりによって魔王の手先から金借りるなんてよぉ……。勇者パーティーの一員として恥ずかしくねえのかよぉ! このクズ野郎がぁ!」


 ザマァがこちらに人差し指を向けて糾弾してくる。


「すいません」


 素直に謝るアーノ。


「あんた、魔王軍に金を流してるのと同じよ。あんな法外な利息払って。裏切り者!」


 ベリーローズが言う。かなり怒っているようだ。


「そりゃあ、月々の返済は払ってたよ。トラブルになってもまずいから。でも魔王さえ倒しちゃえば、その時点での残りの借金は踏み倒せるわけだし」


「その考えが、勇者パーティーのメンバーとして不適格なのよ。見損なったわ」


 ルシャナが呆れたように言った。


「それに、そんなところから金借りるのに、俺達に相談もなかった」


 ザマァが痛い所を突いてきた。


「まあ、それはそうなんだけど、あくまで俺の審査で、俺個人名義で借りて、俺の財布の中で回して返済してるわけだから」


 アーノが苦し紛れの言い訳をする。


「うるせー! お前は俺達のメンバーにいる資格はない! 出ていけ!」


 ザマァが言い放つと、他の三人も揃ってアーノを罵り始めた。


「そう言われると返す言葉もない。分かった。出て行く。……申し訳ありませんでした」


 アーノは四人に対して、頭を下げて謝罪した。


「当たり前だ! 言っとくが、お前が借りた金から使った分は1Gギールド足りとも返さねえからな! こっちは完全に善意の第三者なんだからなぁ!」


 ザマァが顔を真っ赤にして、怒り心頭の様子で怒鳴る。


「もちろん、分かってる」


「お前の存在価値なんて元々金を引っ張ってくるぐらいしかなかったのによ。金を持ってくるから戦闘で何の役にも立たないお前をお情けで栄光あるこの勇者パーティーの一員として置いといてやってたってのによぉ! えぇ!? コラ!」


「はい……、すみません……」


 声がか細くなるアーノ。


「まあ、あなたのスキルは有用だったけどね」


 アルエリアが若干のフォローを挟むが、この張り詰めた空気の中ではほとんど無意味だ。


「ザマァ、本当に追い出しちゃう?」


 ルシャナがアーノとザマァを交互に見る。


「あ゛ぁ!? どういう意味だよ」


 ザマァがアーノに向けていた怒りの表情そのままで、ルシャナに攻撃的な視線を向ける。


「資金調達も確かに助かってたけど、アーノの本領は希少なスキルでしょ?」


 ルシャナは不安げな様子で答えた。


「そんなことねぇよぉ! コイツのスキルなんて必要ねぇ! このパーティーは俺と、お前と、アルエリアとベリーローズの四人でもってたんだ! 唯一、いても意味ないのがこのクズだぜぇ! ヒャハハハハ!」


「いても意味ないってのは言い過ぎだと思うけど、魔王軍と契約を交わした奴を置いとけないわね」


 ベリーローズがそっけなく言った。


「借りるときはあの金融ギルドが魔王の系列だって分からなかったんだ。もし知ってたらあそこからは借りなかった」


 アーノがベリーローズに言うと、彼女は「私に言われても知らないわよ。見抜けなかったアンタが悪いんでしょ」と返した。


「ベリーローズの言う通りだぜぇ! もう俺から言うことは何もねぇ! 目障りだから今すぐ消えろ! ヒャハハハハァ!」


 勇者ザマァが顔を歪めて高笑いした。


「今までお世話になりました」


 こうして、アーノは手持ちの僅かな金を残し、ほとんど全ての持ち物を置いて勇者パーティーを後にした。







 魔王城――。




「偉大なる魔王ウッシーアイランド様、ご報告申し上げます」


 側近のベベットが、玉座に鎮座する魔王の前に跪く。


「申せ。何事か?」


「ハッ、勇者ザマァの一行から、我らの債務者が抜けたようでございます」


「そうか。ならば戦いを仕掛けても、誤って殺して残りの金を取りっぱぐれることはないということか」


「仰せの通りでございます」


「ククク……。このときを待っていたのだ」


 魔王は邪悪な笑みを浮かべた。


 勇者パーティーに魔王軍のフロントギルドから金を借りている者がいると分かってからは、魔王は勇者達に刺客を差し向けることを控えていた。


 万一債務者のアーノを殺してしまえば、貸した金を回収することができなくなるからである。


 しかし、アーノが勇者パーティーから抜けてしまえば、もう遠慮することはない。


「ベベット、『魔王軍七大将軍』達に伝えよ。七人全員同時にかかり、勇者を殺せと。奴らが戦いの中で成長していく前の、低レベルな今の内に潰すのだ」


「ハハーッ!」

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