彼を待っていたのは、また地獄だった
「なに!?」
「え!?」
炎に焼かれたはずだった。
確かに自分の体が燃え尽きていくのを感じていた。
しかし確かに戦場で死んだはずのボタンゼルドが次に目を覚ました時。彼の視線は
「むむっ!? 俺の名はボタンゼルド・ラティスレーダー! 地球統合宇宙軍所属! 階級は大尉! 君は誰だ!?」
「ぼ、僕ですかっ? 僕はティオ・アルバートルス。この
「うむ? 確かに俺の名はボタンゼルドだが、そこまで驚くことか? しかしまさかあの状況から救助が間に合うとは……君には感謝しなくては!」
「いやいやいや! よくわかりませんけど、多分それすっごくボタン違いだと思いますよ!?」
「ボタン違い?」
あまりにも突然の事に驚く両者。
ティオと名乗った少年のその言葉に、ボタンゼルドは僅かに首を傾げる。
よく見れば、確かに視界に映る全ての物体の縮尺がおかしい。
まるで自分が途轍もなく小さくなったような。そして――――
「な、なんだこれは!? これが俺の体か!?」
「そうですよ! 自分でも知らなかったんですか!? いきなり目の前が光って、そこから貴方が飛び出してきたんです!」
目の前に掲げた両手は黄色い金属ともプラスチックともつかない材質となり、そこから
両足も腕と同じような有様で、ティオが装備するゴーグルの青いレンズ部分に映るボタンゼルドのその姿は、手の平サイズの黄色い正円のボタンにキリリとしたボタンゼルドの顔が浮かび上がり、そこからオモチャの手足が生えている小型のロボットといった珍妙な有様となっていたのだ。
「グワーーーーッ!? あの後の俺に一体何があったあああああ!?」
「だ、大丈夫ですか……? あの、その…………心中お察ししますっ!」
あまりにも受け入れがたいその事実に、困惑の叫びを上げるボタンゼルド。
しかしその時、二人が押し込められた狭く薄暗い空間が激しく上下に揺れ、各所に設置されたランプが明滅する。
ティオの周囲の空間にいくつかのホログラム画像が浮かび上がり、そこには巨大な人型と、赤く点滅する被弾箇所の情報が映し出されていた。
「うわあああああっ!? シールドがもたない!?」
「くっ!? この衝撃――――まさか、まだ戦闘は継続しているのか!?」
それはボタンゼルドにとってあまりにも日常的な光景だった。
戦場――――そして機体種別は不明だが、どこか懐かしさを感じるコックピット。
全てを悟ったボタンゼルドはすぐさま目の前に座るティオの肩へと飛び乗ると、ティオと同じ目線となってコックピット全体をぐるりと見回す。
そこにはティオが今もその両手で握り締める二つのレバー。
そして足下には三つのフットペダル。
操縦席の前方を半円状に囲む細長い円盤の上には誤動作を防ぐためだろう、タッチセンサーではなく上下トグル式を採用した無数のスイッチが備えられていた。
それらはどれもボタンゼルドの慣れ親しんだ機器とは微妙に異なっていたが、それでも人が乗って操縦する以上、その操作方法は容易に想像することが出来た。そしてなにより――――
「これは……っ!? 見えるぞ……俺にもこの機体の周囲の光景が見えるっ!」
「ボタンさんにも見えるんですかっ!? この機体はパイロットの思考とリンクして、機体の回りを直接見渡せるようになってて…………」
「そういうことか……! ならば俺にも出来ることはある! 色々と聞きたいことはあるが、今はまずこの戦いを生きて乗り切るぞ、ティオ!」
「え!? は、はい――――! ボタンさんっ!」
ティオの肩に乗り、不敵な笑みを浮かべて力強く頷くボタンゼルド。
ティオもまた小さく頷いて応じると、その意識を機体の操作へと集中させる。
ボタンゼルドとティオの意識が機体各部に備えられたセンサーとリンクし、まるで自分自身が機体そのものとなったかのような、超広域の視野角が脳内に投影される。
そして開けた視界の中央。たった今ボタンゼルドとティオが乗り込んでいる巨大な人型機動兵器――――
魔術師が身に纏うような暗褐色のローブを模した装甲板が頭部から全身をすっぽりと覆い、本来二本の脚部があるべき場所には、足の代わりに円筒形の巨大な塔のようなスラスターが一基設置されている。
上半身ではローブ状の装甲板を押し上げるようにして細長い両腕が前方へと突き出され、その両手の先には鋭く伸びたかぎ爪が装備されていた。
その異形の姿はまるで、おとぎ話に出てくる恐ろしい魔女をそのままロボットにしたかのような造形だった。しかし何よりもボタンゼルドを驚かせたのは、機体そのものの巨大さだ。
「随分と大きいな!? 君はこんな大きなロボットに乗っていたのか!?」
「そ、そうでしょうか!? バーバヤーガは確か300mくらいで、TWの中ではそこまで大きいっていうわけでもないと思うんですけど……」
「そういうものなのか!? むうう……ますます俺がどうなったのか訳がわからなくなってきた!」
「それに――――っ! 僕達の敵だって大きいですからっ!」
瞬間、宇宙の闇を飛翔するバーバヤーガの周囲に無数の閃光の華が咲いた。
そしてその閃光を突き抜けて現れる無数の影。
宇宙の黒に溶け込むような暗い緑色に塗られた100mから300m程の人型機動兵器が、バーバヤーガの巨体めがけて数十機――――いや、数百機の群れを成して襲いかかってきていたのだ。
「なんだあれは!? とんでもない数だぞ!?」
「オークです! 僕達、ここ数日ずっとあのオークの艦隊に追いかけられてるんですっ! いつもなら他の皆と一緒に戦うんですけど、今日は運悪く僕だけで――――!」
「来るぞティオ! 後方左斜め下だ!」
「えっ!?」
ボタンゼルドの声が響く。
だがティオはその指示に反応しきれない。操縦が遅れる。
「うわあああああああああ――――っ!?」
次の瞬間、バーバヤーガの左側面で直径数百メートルにも達する爆炎が炸裂し、強烈な振動と共に推力の低下を告げるアラートが二度三度とコックピット内部に流れる。
「止まるな! 正面右上方! 次は後方右側面! 左側面水平方向からも来るぞ!」
「うわわ!? うわわわ!?」
次々と発せられるボタンゼルドの指示。
ティオは恐怖と焦りに染まった必死の形相で左右のレバーとフットべダルを操作し、四方八方から襲いかかる敵の攻撃を見事に躱し続けていく。
「す、凄い――――っ! 凄いですよボタンさんっ! どうして事前に攻撃が来る方向がわかるんですか!?」
「簡単なことだ! 背中にも目をつければ良い!」
「何言ってるのこの人!?」
「さあ――――次は俺たちの番だっ!」
無数の星の光が瞬く漆黒の
追いすがる無数の爆炎の中を縫うようにして飛翔するバーバヤーガ。
禍々しい機械仕掛けの魔女はその内部に一人の少年と一個のボタンを乗せ、弧を描くようにして敵軍の渦中へと飛び込んでいくのであった――――。
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