07
『よく分からない』。……まぁ、そうだよな。……実際、奈穂の話を聞いたからって、俺らにはその夢が、本当の事なのかどうかを確認することは出来ねぇ訳だしよ。そもそも、奈穂はただ【夢を見ているだけ】で、【怪我をした】とか【死にかけた】って訳じゃねぇし。単純に【夢が気になっている】だけで、それ以外は何もねぇんだもんなぁ。今んとこ。
……気にしすぎなのかなぁ……やっぱり。
正直、今の状態だと何とも。
だよねー。
……………………。
何かごめんね。変な話しちゃって。……二人を困らせたかったとかそう言うんじゃ無くて、何となく聞いて欲しかっただけっていうか。…………うん。うん。聞いて貰えたから、大分スッキリしたよ。アリガト。
まぁ、何かあったら助けてやっから、取りあえずピエロが出たら教えろよ。
出るかなぁ? ピエロ。
出ねぇ方に千円賭けるけどな!
何よそれ! もうっ…………って、アハハッ。そうだね。本当にピエロが出てきたら康幸、助けてよね。絶対約束だよ?
任せとけって! コイツも居るし、安心しろよな!
うん。ヨロシクね!…………って。あ。飲み物無くなっちゃってるじゃん。何か取ってこようか?
お? そんじゃ頼むわ。
何飲むの?
同じので良いよ。
コーラね、了解〜。君は? 未だ残ってるから大丈夫? そっか。じゃあ行ってくるね。
……………………。
……なぁ……さっきの奈穂の話だけどよぉ…………お前さぁ、あれ聞いて、どう思った? ……俺? 俺は…………まぁ、うん……正直ただの夢だろって思ったんだがよぉ…………。あ? 歯切れが悪いって? …………まぁ……はぁ。
……なぁ。ちょっと良いか? 実はさぁ…………
「俺も、見てんだわ。変な夢をよ」
ん? お前もピエロの夢を見てるのかって? あー…………いや。それはねぇんだけどさぁ。……変な夢っつーか……毎日同じ夢っての? 実は、水曜からずっと見てるんだよな。
いや。うーん……どうなんだろう……彼処、病院……なんかなぁ? いやさ。何か良く分かんねぇんだよ。っていうのもよぉ……俺の見る夢って、殆ど真っ暗でさぁ。場所が良くわかんねぇんだわ。
手元にはさ、懐中電灯が一本だけ有って、それで見える範囲だけしか明るくなんねぇの。まぁさ、うすぼーんやり何となーく物があんだなってのが分かるときもあるんだけど、それがなんなのか見ようとしても中々見えねぇって感じだし。この辺はさぁ、夢だからしょうがないのかもしんねぇけどさ、やっぱ……先が見えない状態ってのは、薄気味悪いっつーかなんつーか……。
え?
なっ、何言ってんだよ!! ぜっ、全然怖くねぇっつーの! だって、夢だしよ! ゆーめっ!
な、何だよ……その疑いの眼差しは……………いや……まぁ、うん。ちょっと位はな、やっぱ……その……怖い……って思ったりした……いや! 何でもねぇ!! そ、そんなの全然思ったりしてねぇんだからな!!
ナニナニ? 何の話してんのー、二人ともー。
べっ、別に何でもねぇよ!
康幸には聞いてませんー。え? 何? ふんふん…………え?
なっ、何だよ。
ねぇ、康幸……その話ってさぁ………………本当……なの……?
あ、いや………ま、まぁ……その……
別にアンタのこと馬鹿にしようとか、そう言うんじゃないよ。私が知りたいのは、アンタも私と同じように、変な夢を見て居るのかってことだよ。
…………ああ。
見てるのね?
見た。見てるよ。……水曜日辺りから、毎日……な。
ねぇ、教えて。康幸はどんな夢を見たの?
……さっき、コイツにも話したんだけどよ……俺が見た夢は真っ暗な夢だよ。
真っ暗?
ああ。……お前が見てる夢みたいにさ、建物が病院だとか、はっきりとピエロの姿が見えるとか、そう言うのは一切ねぇんだ。気が付いたら、いつの間にかそこに居るんだよ。真っ暗闇の中にさぁ、一人っきりで立ってんの。
うん……それで?
始めはぼんやりそこに立ってんだけど、何となくよ、『ああ、動かなきゃ』って思うんだ。そう思った時に始めて、自分の右手に違和感が在ることに気が付くんだよ。で、手を確認してみるとそれは硬いモノだって分かるんだって。指で形をなぞって『ああ、これは懐中電灯だ』って分かったところで、スイッチを入れる。
うん。それで?
電池は切れてないみたいで、懐中電灯は問題なく点くんだけど、そんなに明るく照らしてくれる訳じゃなくてよ。丸くなった円状の光が当たる部分だけ、ぼやー……って感じで景色が見えるんだよ。それ以外は真っ暗な中にノイズががった薄い黒で形だけが何となく見える程度って感じだな。
うん。
でよ。懐中電灯で明るくなった部分を見てると、急に『此処を出ないと』って焦っちまうんだよ。此処が何処なのかわかんねぇのに、兎に角でないといけねぇんだって思うんだ。そうなるとさ、もうすげぇパニックみたいになってきて、無我夢中で走り始めちまうんだって。前が見えねぇんだから足元とか気をつけて進まねぇと危ないって今だったら思うけど、夢の中ではそんなこと気にしてる余裕なんてなくてさぁ。足に何か当たる感触があってもそれを確認することはしねぇで、ひたすら前に走り続けちまうんだよ。
それって、自分で止まったりとか出来ないの?
そこは正直、よく分かんねぇんだ。止まろうと思ったら止まれるのかもしれねぇが、夢の中だとそんなこと思いつきもしねぇからな。
ふぅん。
でもよ。必死に走ってんのに、出口が全然わかんねぇんだよ。ただ、手に持った懐中電灯の光が激しくぶれて動くだけで、外に繋がりそうな扉なんてどこにもねぇんだって。在るのは闇と棚? ……でけぇ棚みたいなもんと、次の部屋に続いているドアくらいかなぁ。
で、どんどんドアを開けて進んでいくんだけど、進む度に何か足元が変な感触になっていくんだよな。何て言うか……ぐにゅうっ感じか? 始めは確かに硬い床の感触なのに、扉が開く度に少しずつそれが柔らかくなっていって、結構進んだところまで来ると、ぶよぶよの感触で足が沈むって言うか……。
ちょ、ちょっとタンマ。
奈穂?
ごめん。ちょっと想像したら気持ち悪くなった。
それ、俺のせいってか?
違うけど……足元がその感触かぁって思うとちょっと…………。
……確かにアレは無茶苦茶気持ち悪いんだけどよ。上手くバランス取れねぇし、油断すると転けそうになるし。足は埋まっていくから急いで別の場所に移動しないと身動き取れなくなりそうな気がして、すっげぇ焦るぜ。
………う、……うん。
でよ。暫くそうやって部屋を移動していくと、突然強い光が返ってくるんだよ。
強い光?
うん。で、その光のせいで一瞬止まるじゃん? 目瞑ってさ、その光に耐えてると、足元の感触がぶよぶよのモノから突然硬くなんだって。
床に戻った的な?
そうそう、それそれ。足元の感触がぶよぶよのモノから硬い床の感触に変わったのが分かって目を開けるんだけどよ、やっぱり前から光が来るのは変わらねぇんだ。何でだろうって思ってみてるとさ気が付くんだよ。『あ。これ、目の前に鏡が在るんだ』って。
鏡?
そう。鏡。
それで? 鏡を見つけたらどうなるの?
ん? ああ。鏡を見つけた時点で夢は終わりだ。
え?
だから言葉通りの意味だって。いつもさ、鏡がそこに在るんだって分かった時点で、強制的に目が覚めちまうんだよ。そっから先は一切ねぇの。夢はそこでお終い。ただ、それだけなんだって。
…………。
正直、奈穂が見たっていう夢に比べたら、全然怖いって感じねぇんだろうけど、自分でその夢を見るってなると結構嫌な気分になるもんだぜ。何処に居るかも分かんねぇ、前も後ろも見えねぇ状態で、懐中電灯一本で移動しなきゃいけないしさぁ。歩いてたら足元変な感触するし、開けても開けても同じような扉しか出て来ねぇし。
感触のせいで視界もぶれるから、歩く度に気持ち悪くなるしよぉ…………無茶苦茶疲れるから……情けねぇけどちょっと泣きたくなったりもするしな。
ただ、鏡を見つければ夢は終わるから、そこから出られなくてもとりあえず、鏡さえ見つけてしまえばクリアってのは変わらねぇみたいだな。
変な夢。
まぁなー。俺だってそう思うわ。変な夢だって。
…………それにしても、何だろうね。
何が?
夢の内容はさ、私と康幸、それぞれ違ってるけど、二人して変な夢を見てるのって……何か気持ち悪くない?
気持ち悪いって?
奇妙じゃん。毎日同じような夢をずっと見続けるのって。普通、そういうことって有り得るのかなぁ?
どういうことだ?
いや。考えてもみてよ。夢って、意図的に見ようとして見れるものだと思う?
うーん……その辺は良く知らねぇなぁ。
私はさぁ、今まで毎日同じような夢を見たり、前の日の夢の続きを連続して見たりした経験って、殆ど無いんだよね。そりゃあ、たまーに前に見た感じがするなっていう夢を見ることはあるけど、それって頻繁に見てる夢って訳じゃないし、何となく見たかな程度の認識しか無いっていうか……。
それにさぁ、結構夢って、起きちゃったら忘れちゃうことも多いよ?
うーん……まぁ、確かに。夢の内容をハッキリ覚えてる事は、あんまり無いかもなぁ。言われてみれば。
でしょ? それなのにさぁ……なんで、こんなにハッキリ覚えてる夢を、水曜日からずーっと見ることが出来てるんだろう? 何回寝ても必ずその夢を見るって……何か、変だよ。ちょっとおかしい。
おかしいって言われてもなぁ。
分かってる。分かってるよ。そんな事言ったってどうしようもないことくらい。でも、何か分かんないけど、妙な気持ち悪さがあるんだもん。…………ただ、それをさ、上手く説明出来ないんだよね。何となく『変だな』って気がするだけで、何が変なのか全然分かんない。
あーっっ、何だろう! 気持ち悪いなぁ! 全然スッキリしない! イライラするーっっ!!
ふむ。
何なんだろう。うーん…………。え? 考えててもスッキリしないなら、一端話題を変えないかな? って?
あっ。それ、良いかもしんねぇぞ。
うーん……そ、う……かな? まぁ、君がそういうなら、違う話をしようか。
おーう! さんせーい! あっ。そういやぁ、奈穂。お前に聞きたい事があったんだけどよぉ。
何? 康幸。
おう。あのよ、お前が呼びたいって言ってた残りのメンバーって、一体どんな感じの奴なんだよ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます