私の前世

 私は前世の記憶を持っている。前世といっても、私は病院にいた記憶しかない。病院の白い部屋、窓から外を眺めたときに見える流れる白い雲、時々気ままに窓の外を歩いている白猫。私は白色が好きだった。自分の気持ちが暗くなってきたときに明るくしてくれる色だから。


 特に白猫を見つけた時は、心なしか元気になっていたような気がする。最初にあの猫を見つけたのは、たまたまだった。窓から外を眺めていると、綺麗な白猫が見えた。首輪もしているようには見えなかったので、たぶん野良猫なのだろう。だけど、それにしては異常なほどに綺麗な猫だった。時々見るその猫は私を見ているような気がした。そんな訳ないのにね。


 逆に嫌いというより、苦手な色は黒色だった。黒は全てを塗りつぶすから。目を瞑り、暗くなるのは恐ろしく怖かった。だって、もう目覚めないかもしれないから。それに、私に会いに来る人も黒色だから。

 

 前世の家族との仲はそんなに良くなかった。私が小さい頃から入院していたことが原因なのはわかっているけど。親戚からも、親からも金食い虫と直接言われたことがある。それからは誰とも会っていない。だから私は孤独だった。

 死ぬ時も孤独だった。誰も私の所には来なかった。でも、感謝はしている。お金は払ってくれていたから。


 気がついた時には、私は真っ暗な空間にいた。たぶん、死んだんだろうな。そう思いながら、その空間を彷徨っていると、何者かの声が聞こえた。


「あなたにもう一度人生を。私はあなたを見守っているわ」


 聞き間違いなのかもしれない。だって、私は死んだはずなのだから。けれども、私は赤ん坊として、ローズ伯爵の娘であるフィーアとして、この世界に生まれた。


 あの声はやっぱり、神様の声だったのだろう。そうでなければ、こんな現象はありえない。私は生まれながらにして、この世界に神様がいることを知った。


 だけど、そんなことを知ったところで、私に何かできるのかと言われれば、何もできはしないだろう。だから、私はフィーアとして、普通に暮らしていた。


 フィーアとしての生活は楽しかった。私が好きな色の髪、優しい家族、部外者が何を言ってこようが何も気にならなかった。私にはそれだけでよかったのに。


 部外者が私のことを悪く言うにつれて、私の家族も段々変わってしまった。私のことを不幸だと、思い込み始めてしまった。何度否定しても、私が無理をしているという認識は変わらなかった。

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