~超能力探偵レア・ホームズは第三王子にロックオンされる~身分違い過ぎて周りの反応があれなので勘弁して欲しいんですけども?
まんじ
第1話 太陽の王子
私の名はレア・ホームズ(16才乙女座)
国の南端に領を持つ、ちんけな男爵令嬢だ。
私には生まれながらに特殊な能力が備わっており、それを生かして数々の事件を解決して来た。
そんな私を、人は皆こう呼ぶ。
名探偵ホームズと。
名探偵の私の腕に掛かれば失せ物から
それが私のライフワーク。
「ホームズさん、ありがとうございます!」
ハンカチを受け取ると、彼女は腰を折って大きく頭を下げた。どうやらこのハンカチは祖母の代から子爵家に伝わる名品だそうだ。彼女のこれ以上ない笑顔を見て思う。
こんな事ならもっと吹っ掛ければよかったと。
え?金に汚いって?
ほっとけ。
男爵家は貴族とはいえ所詮端くれでしかない。特に家は平民よりましというだけで、決して裕福と言える生活水準には達していなかった。その為仕送りも少なく、私の家計は何時も火の車。小遣い稼ぎでもしないととてもやっていけないのである。
「さて。部屋に帰る時間もないし、そのまま学院に向かうとしましょう」
王立貴族魔法学院の授業は自由選択制だった。自分の学びたい科目を履修し、必要単位数を取得できれば卒業できるようになっている。履修できる科目も多く。薬学関係や騎士関係の授業も多数用意されており、どんな組み合わせでも必要単位数さえ取れば卒業できるようになっていた。
とは言え。それはとりあえず
当然資格を手に入れるのは、ただ卒業するだけよりも遥かに難易度が高い。難しい資格になると、卒業の単位<資格の為の必要な単位数になる事もざらであるため、朝から晩までみっちり勉強している生徒も多かった。
まあ私の場合は比較的簡単な資格狙いだから、かなり自由が多いんだけどね。
周りに人影がいない事を確認し、私は"魔法学院へと瞬間移動"する。何を隠そう、私には超能力なる力が備わっていた。子供の頃はその力の意味も良く考えず、人目も憚らずよく力を使ったものだ。
だが分別の付く大人になってくると、流石に色々と分かって来る。人にない力を持つというのは、諸刃の刃であるという事に。両親からも王都に出る際、緊急時以外絶対に使うなと強く言われている。
え?
ちょっとした移動のどこが緊急かだって?
学院まで遠いから、歩いて足に豆が出来たら大変じゃない?
ごつごつした硬い脚の裏は、正に乙女の一大事だ。
中庭の茂みから辺りを伺い。周りに人がいない事を確認して外に出る。まあ転移する瞬間さえ見られていなければ問題無いのだが、茂みから乙女が出て来るシーンというのはショッキングな物だ。誰かに見られて変な噂になっても困るので、注意して行動する。
「おやおや、見目麗しい女性がこんな茂みから出て来るなんて。探し物か何かでもあったのかい?」
声を掛けられ、思わず心臓が飛び出しそうになる。恐る恐る振り返るとそこには
――王子様がいた。
これは比喩表現ではない。正真正銘王子様だ。カルオン王国第三王子、ケリン・カルオンその人が、私の目の前に立っていたのだ。
「ケリン王子!?」
「おや、僕の事を知っているのかい?君のような美しい女性に知っていて貰えるなんて、光栄だね」
この学院に通う女子で、第三王子の事を知らない者はいない。何せ裏女子アンケート、3年連続抱かれたい男性2位に君臨しているプリンスだ。
まあ私はくだらないアンケートに参加してはいないのだが、それでも王子の事は知っている。それくらい彼は有名だった。
それにしても、写真以上ね……
王子は太陽のプリンスと言われる超イケメン。魔導写真で見た事があるが、実物はそれよりも遥かに優美で美しい。流石3年連続第2位にランクインするだけはある。
思わず見とれてしまいそうになるが、男爵家の令嬢如きが王子の傍に佇むなど恐れ多い事だ。周りに見られ、身の程知らずだなんて噂されても敵わない。
「い、急いでますので!失礼いたします!」
失礼だとは分かっていたが、テンパっていた私は王子を置いてその場を逃亡する。願わくば変な奴と流される事を祈るばかりだ。
後で無礼だったとか、そんな理由で難癖付けられません様に!
私はそのままの勢いで魔術塔を全力疾走して駆けあがり、教室の前に辿り着く。息が苦しくて、今にも心臓が破裂しそうだ。慌てていたとはいえ、昇降機を使わず10階まで駆け上がって来た己の愚かさが恨めしい。兎に角私は呼吸を整え、教室へと入る。
教室は教団を中心に扇状に広がる形をしており、席も段で区切られ扇状に並んでいる。収容人数は100人弱。もっとも全席が埋まるなんて事はまずなく、人気の講義でも50人も行けばいい方だろう。
まだ授業まで少し時間がある為、人は殆ど来ていない。席はガラガラだ。
これだけ空いて居れば席は選び放題に見えるが、実はそうでもなかった。基本的に最前列は
私は最前列を避け、真ん中あたりの列に鞄を置いて椅子に腰掛ける。ここはまあ、一応勉強はするけど最前列に行くほどではない微妙層が腰を下ろす席だ。私は超能力を除けば可もなく不可もなくを地で良く女。此処こそが私に相応しいと場所と言える。
因みに、最後尾辺りは高位貴族の子女が出席取りの為に陣取る場所となっている。同じ授業でも単位は2種類用意されており、出席だけで取れる物と、テストで合格点を取らなければいけない物が存在する。前者は卒業の為だけの単位であり、後者は資格取得に必要な単位だ。当然彼らは出席単位狙いなので、真面に勉強する気は0だった。
「ねっむ……まだ20分以上時間があるし、ひと眠りしようかしら」
今日は失せ物探しで朝早く起きていた。それに10階まで全力疾走して、疲れてしまったのもある。睡魔に襲われた私は机に顔を突っ伏して、軽く仮眠をとる事にした。正直貴族がする様な真似ではないのだが、眠いのだからしょうがない。
目を瞑ると、5秒で意識が飛んでいく。
即寝は私の特技の一つだ。
・
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何だろう?
周りが騒がしい気がする。
「ふぁ~あ」
欠伸をしながら顔を上げ、時計を見る。授業まではまだ5分あった。なぜこんなに騒がしいのだろう?そう思い目を凝らして驚く。普段は3分の1も埋まる事のない教室の席が、全て埋まっていたからだ。それどころか、壁際に人が大量に立っている始末。
いったい何が?
ていうか、皆こっち見てない?
そう怪訝に思っていると、すぐ横から「やあ、おはよう」と爽やかな声が掛けられた。この授業に私の知り合いはいない。でもどこかで聞いた事のある声だと思いながら振り返ると、そこには――
太陽の王子が微笑んでいた。
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