第4話 コンプレッシングの学習環境

 幸いなことに小学3年からの3年半、心春きよはるはお嬢様学校の初等科に通うことができた。

 近年では、私立のおぼっちゃま学校&お嬢様学校の多くは圧縮学習コンプレッシング用AI機器を導入済だ。心春きよはるが通っていたのは、名門のお嬢様学校だったので、AI機器の数は多く、いつでも利用することができた。

 心春きよはるはAIが心春きよはる向けの抽象言語を脳に書き込む際には、軽い吐き気を感じただけだったので、「埋め込まれ感」は辛くはなかった。ただし、圧縮学習コンプレッシングをした後は食欲がなくなってしまい、夕飯を抜くようになってしまった。そのためか、心春きよはるの体重は中3女子の平均を下回る。心春きよはるの痩せ具合を心配した母は、アドバイスに従って、心春きよはるの脳にマイクロマシン埋め込み手術の費用を捻出してくれた。幸い、それ以降、食欲不振はだいぶ改善されている。


 心春きよはるが小学5年生の時、母は事業に失敗し、あぶく銭の全てを失い、破産が見えた。マイクロマシン埋め込み手術を最後の贅沢に、幼少の貧乏暮らしに逆戻りだ。クラスメイトのお嬢様たちに囲まれる気にはなれない心春きよはるは、いっそう圧縮学習コンプレッシングにのめり込んだ。


 当時手当たり次第に履修した科目の中での国際政治経済学概説において、心春きよはる信認署名人トラステッド・サイナー資格の存在を知り、幼少期を過ごした、埼玉は千間春日部市せんげんかすかべべしにある彩の国サイナー英知学院に無償でサイナーを目指せる特別奨学生制度があることを知った。


 心春きよはるは学院の特別奨学生試験の合格を目標と定め、1月の圧縮学習コンプレッシングに取り組み、無事特別奨学生となることができた。合格後にお嬢様学校は中退し、千間台せんげんだいの公立小学校に戻り、特別奨学生試験の合格者に許される範囲内で学院で圧縮学習コンプレッシングを継続しながら、小学校を卒業した。

 学院に入学する頃には、心春きよはる圧縮学習コンプレッシングのスピードは、高速設定ハイスピでは一冊の専門書の内容を三秒で脳に埋め込める程度に達していた。得られた知識には結局は実感が少なかったけれども。

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