第23話 家政婦は見たというのはこんな感じ
あれからホテルに戻り、茶梅からお茶を出され談笑している間に日は暮れていた。
談笑と言っても茶梅と武田の会話が殆どである。
真糸と白山菊理・茶梅の二人がどういう関係かに始まり、どんな仕事をしてるのかと。
真糸や武田の仕事は流石に伝わっていたけれど、二人の白山氏が花屋だというのは武田は今日が初耳である。
根掘り葉掘りとまではいかないが、あの絡み事件の事も含めて話せる範囲で話していた。
「それにしても、あれより前から知り合いだったなんて。そりゃわが社のプリンセス・八洲さんがどんなに誘っても靡かないわけだ。」
「へぇ、そのプリンセスって称号も気になるねぇ。」
茶梅はどう見ても絡んでいる。
それもそのはず、この女既に少し酒を入れていた。
飲んだという事実で、この日はもう帰らないという事が菊理にはわかっていた。
「入社時からそういうのには興味ないと言っていたと思うが?」
真糸は異性関係もだが、飲み会そのものも積極的に参加していない。
それは武田も理解しているが、この場合はそういう事情はどうでも良かった。
「そうだけどな。それでもあの時は珍しく参加したわけじゃん。参加してなかったらあの場には遭遇しなかったわけでさ。」
「それってもう……運命じゃないか?」
「ブフォッ」
珍しく真糸が小さくではあるが吹いていた。
その横では菊理も軽く詰まらせていた。
「運命……素敵だねぇ。もうこれは一緒になっちゃうしかないねぇ。」
茶梅は絡み酒だった。日本酒とエイヒレとネギでどうしてここまで酔っ払いになれるのか。
茶梅は酒は強い方だというのは菊理は知っている。
だからこれは酔った振りをして爆弾発言をしているのでは?という考えが過ぎっている。
「そう思いますよね。咲真がそんなにも花屋に通ってたなんてのも意外だけど、こういう事なら納得だわ。」
武田の中では既に、真糸と菊理をくっつける計画がされていた。
二人がくっつくためであれば、八洲を敵に回しても良いとさえ思っていた。
「結局もう一泊するという流れですね。」
幸いにしてと言って良いのか、平日は予約客が少ない。
真糸と武田がもう一泊するゆとりはあった。
一度解散し、部屋に荷物を置きに行く。
19時に食堂で夕飯という事でそれまで自由時間となる。
「相変わらずでけぇな。」
武田は昨日は入れなかった混浴風呂に入り、真糸と隣通し並んで身体を洗っている。
武田は真糸の方を見ると、注視した部分を見て声に出した。
「宝の持ち腐れだ。排泄以外に使う予定はない。」
「またまたぁ。あの子と進展したら使うかも知れないじゃん。」
頭と身体を洗うと二人は露天の中へと進んで行く。
武田は河川敷へ向かって全裸をひけらかして仁王立ちをする。
「大自然だと大解放って感じだな~こんな事が出来るのも温泉宿の露天風呂だからだな。」
「俺に同意を求めるな。それにお前だってそれなりに立派じゃねぇか。」
「でもお前には負けるんだよ。」
女子が胸の話で盛り上がるように、男子はイチモツの話で盛り上がるものである。
尤も真糸にそのつもりがあるわけではなく、武田が持ち出すから仕方なく返しているだけではある。
「まぁそれはともかく、最近話をするようになったとは思うよ。」
「そうか。確かに言われてみればそうかもしれない。」
同期に対しては敬語ではなくタメ口を使う。
それ以外には敬語か丁寧語を使う。
その癖だけは未だに解けないけどなと武田は言う。
「あれ?そう言えば、あの子に対しては少しだけ敬語じゃなかった気がするが?」
「気のせいだろ。」
そうかなぁ?と武田は首を傾げるが、はっきりと思い出せるわけでもなかった。
武田も首まで浸かって温泉を堪能する。
「それで、実際咲真はどう思ってるんだ?」
「……尋問だな。否定するのも悪い事だとは思ってるが……」
「過去の事は別に考えるなよ。今の咲真自身はどう思ってるかだ。」
40度前後の温泉が冷えた身体を熱くしていく。
そろそろ浸かっている限界がきそうな肌の赤さである。
「お前、中々に残酷だな。俺がダブってなければ一発殴ってるぞ。」
「だが、俺達は同期だ。生まれた時とか場所とかは関係ねぇよ。」
「そうだな。お前は本当に良い同期だよ。」
真糸は両手で温泉を掬うと顔に掛ける。
あまり褒められた行動ではないが、武田は気にせず流している。
「荒んだ人生に差す一輪の華……だよ。花屋だけにな。」
それで充分だろと一概に言っている。
「なぁ、最後のは親父ギャグか?いや、気持ちは何となくわかったけどよ。」
「それじゃぁ、気を引くために通ってるのか……中学生みたいだな。でも、なんか咲真らしいわ。ある意味ではカッコイイ。」
「ここだけの話だからな。白山さん達にはもちろん、会社の人達にも。」
「わかってるよ。お前が一人の異性に夢中だって話したら所謂咲真ロスが起きてしまう。」
「なんだそれ、〇〇ロスなんてもはや死語だろう。チョベリバぐらい死後だろう。」
武田は立ち上がり湯船から出ようとする。
ちょうど位置的に真糸の顔の高さというのが問題であるが。
こっちに向けるなと言いたい真糸ではあったが、幸い顔の反対を向いて湯船から上がったので口を噤んだ。
しかし、綺麗に割れた尻は横目に入ってしまう。
「まぁ、俺に本当に人を好きになる資格なんてないんだけどな。」
その声は武田には届いていないのか、返答はなかった。
武田に続いて真糸も湯船から上がる。
19時には食堂にいかなければならない。
長居しすぎると、一服する時間もままならないのである。
二人が浸かっていたところよりも離れた岩陰。
昨晩真糸が浸かっていた所よりも更に奥に二つの人影があった。
「へぇ。昨日はそこまで見えなかったけど、そんなに御立派なんだ。咲真さんてやっぱりきくりん目当てじゃん。それなのにあれだけ花に詳しくなるなんて凄いねぇ。」
最初に来店した時は然程詳しくなかったのを知っている。
それが色々購入していくうちに詳しくなっていっていたのも知っている。
それは茶梅も菊理も認識していた。それどころかバイトの子ですら知っている。
「私達に聞かれてる事は知らないからノーカンではあるけど、きくりんが前に進まないなら私が立候補しちゃおうかな。」
ぶくぶくぶく……鼻下まで潜っている菊理がお湯でぶくぶくと泡立てていた。
恥ずかしくて聞いていられないという事だろう。
露天風呂の奥の奥に二つの女性の影。
しかし終始それに真糸達が気付く事はなかった。
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