第45話 デジタルネイティブ

 イトコたちが勢ぞろいで声を掛けてきた。


 右から小五男、小三女、小二男。


 兄妹のいない俺にとって、たまに会えるこの三人のイトコたちは、年の離れた疑似的な弟妹のような感じだった。


 まあ、可愛いよな。


「よっしゃ、何して遊ぶ?」


「ゲームしよ、ゲーム」


 小五と小三の二人は兄妹で、この二人は元々ゲーム機を買い与えられており、会った時には一番下の子も含めて、一緒にゲームをすることが多かった。


 今回も彼らはゲーム機を持ってきていたようだ。


 二人が持っているゲーム機は俺が普段使っているもので、据え置き型だが持ち運びプレイも可能である。


 俺もゲームすることになるだろうなと想像はついていたので、持ってきておいた。


 ちなみに一番下の子は持っていないので、俺のゲーム機を貸してやって交代で遊ぶことにする。彼はゲームのプレイ画面が見たいのか、俺の胡坐あぐらを座椅子代わりにして座った。愛くるしいな。


「二人は、今なんのゲームにハマってるんだ?」


「パピロンだよ!」「パピロン」


 やはりか。絶賛人気爆発中だし、その可能性は高いと思っていた。だが、二人と俺のハマっているゲームが被ることは珍しい。


 小学生と大学生の趣味が一致すること自体、なかなか無いからな。


 それだけパピロンは幅広い世代に愛されているというわけだ。


 スタンダードマッチを三人で回そうという話になった。二人のプロフィールを見てランクを確認する。妹ちゃんの方がBランク、高いな。お兄ちゃんの方は──


「Sランク!?」


「すげー、りょうすけ兄ちゃんランカーだ!」


「本当だ、すごい!」


 パピロンはSランク以降、勝ち負けに応じてランキングが出るようになっている。一万位以内から順位が表示され、今の俺は二千五百位くらいだった。


 ランカーというにはしょぼい。


 それよりもだ。


「すごいな。もうSランクか。二人ともパピロン2をやってなかっただろ」


 2がでた頃の二人は小学校低学年生と幼稚園児だったはずだ。3から始めたとして、発売一か月程度で到達できるのは素直にすごい。


「これくらいなら余裕だよ。動画サイトを観てたら、勝つ方法や練習方法がたくさん載ってるもん」


 すげーな、デジタルネイティブ世代。俺もそれに分類されるはずなんだけど、スマホを手にしたのは高校進学時で、それまでネットに触れる機会は少なかった。


 彼らのように、小さな頃から簡単に色んな情報にアクセスできるというのは、デメリットも多いだろうが、物事を上達させたいという場合にはメリットが大きいだろうな。


 彼らくらいの年頃は学習能力が異常に高いし。


 スタンダートマッチを一戦プレイしてみる。


 妹ちゃんのキャラは可愛いコスチュームと装飾品でお洒落に彩られている。それに対してお兄ちゃんのキャラのコスチュームは統一感の無いバラバラだった。


 男の子と女の子の差が如実に出ていて、ちょっと笑った。


 ゲームがスタートする。五人チーム中、俺たち三人以外の野良の二人は初心者だったようだ。


 だが、敵チームは全員そこそこ動ける。終盤まで、常に押し負けする苦しい展開が続いた。


 残り二十秒のタイミングで、お兄ちゃんの方が三連続キルを奪った。


「いや、上手いっ」


 思わず声が出る。相手が三人欠けたタイミングで無理やり相手陣地に押し入って、勝利した。


 リザルト画面でスコアを確認すると、俺とお兄ちゃんがほぼ一緒の貢献度だった。


 若さからくる反射神経の良さで、相手の攻撃をめちゃくちゃかわす。


 綿岡や琴美さんよりも全然上手い。最近の小学生はすごいな。


「りょうすけ兄ちゃん、上手~」


「いやいや」


 膝の上に座っている一番下の子からの賞賛に「そんなことないよ」と返す。


 本当は三人の前で圧巻のプレイを披露して、どうだお兄ちゃんはすごいだろうと言いたかったのだけど、そうは問屋が卸してくれなかった。


 予想よりも二人とも上手だった。これでは威張れない。


 多分、俺の方が長時間やっているからランキング上位にいるだけで、同じ時間プレイしていたら、彼の方が上にいるんじゃないかな。そんな気がした。


「やばいね、りょうすけ兄ちゃん! 俺友達の中だったら一番上手いのに!」


 どうやら仲間うちでは一番上手らしい。だろうな、こんな小学生が何人もいたら困る。


「今度一緒にランクマッチしよ!」


「あぁ、しようか」


 一番下の子にゲーム機を譲って、俺はそれを軽く抱きながら三人のプレイを見守る。


 しばらく交代を続けながらゲームをしていると、母とおばさんたちの視線が厳しくなってきたので、「そろそろゲームをやめて、外で遊ぶか」と提案した。


 嫌そうな顔をする男の子二人、「いいよ」と快諾する真ん中の妹ちゃん。


 俺も数年前までは嫌な顔をする側だったのだけど、もう成人なのでその立場にはいられない。


 気持ちはわかるぞ。ゲームしていたいよな。


 けど、俺が毎日してるようなプレイ時間を小学生にさせたら、絶対教育に良くない。


 ゲームは一日一時間……いや、二時間程度にしておけ。今はな。

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