第17話 琴線に触れるわけ

「以前、何度かテレビのCMを観て気になっていたの。面白そうだしやってみたいなって」


「いいじゃん」


 即答した。


「一緒にやろうぜ」


「うん、やろうやろう。やり方とか教えてよ」


「もちろん、もうゲーム機は買ったのか?」


 前にうちに来たとき、一緒にしてくれるなら買うと言っていたが。


「まだだよ。仕事も会ったし、なかなか出掛けられなかったから」


「それなら、パピロンを購入するときに一緒に買えばいい。ちなみに俺は発売日に買いに行く」


「ガチ勢だね」


 本当のガチ勢なら、事前にダウンロード版を購入してインストールを済ませ、日付が変わった瞬間にプレイを始める。


 俺もそうしたいが、ゲームはソフトで持っておきたいので、ダウンロード版は購入しない。


「でも土曜日だもんね。わたしも買いに行けるかも。硲くんはどこで購入するの?」


「俺はすぐ近くのショッピングモールで買うかな」


「あの映画館が中に入ってるとこ?」


「そうそこ。家電量販店があるからそこで」


「それなら、一緒に行ってもいい?」


 そんな経緯があって、今に至る。一緒に行っていいかと問われて断る理由なんてないからな。


 ショッピングモールに二人で行くのは、高校二年生の時、ゲームセンターに行って以来か。


 あの時、彼女の腕に抱かれていたアニメのぬいぐるみはどうなっただろうか。


 フリマサイトで売り飛ばされたり捨てられていたら悲しいから、本人に真相は訊ねない。


 ショッピングモールまでの道のりは徒歩十分。


 自転車で行こうかと訊ねると、彼女が最近運動不足だから徒歩で行きたいというので、それに合わせることにした。


「硲くんは運動してる? 昔からインドアの印象あるけど」


「運動はしてない……いや、してるか。毎朝山に登ってる」


「山?」


「大学のキャンパスが山の上にあるんだよ、徒歩で通学してるから強制的にな」


「うわぁ、それはやだね」


「そういう綿岡はどうなんだ?」


「運動? さっきも言ったけど全然してないよ」


「じゃなくて通勤手段」


「そっちか、自転車だよ。二十分くらいで職場かな」


「運動してるじゃん」


「自転車は運動に入らないでしょ」


 並んで歩く彼女に歩幅を合わせて足を進めながら、隣を一瞥いちべつする。白のワンピースの上から濃いデニムのジャケットを羽織っている。


 足元はスニーカーだった。元から歩くことを想定していたのだろう。


 何を着ていても似合うわこいつ。


 彼女の格好、全てが俺の琴線に触れている気がする。一々グッとくるんだが。


 なんでこうも刺さるんだと考えたとき、自分の好みが彼女を元に形成されていることに気が付いた。


 俺の好きなタイプ。


 髪が短い子が好き→高校時代の綿岡。


 雰囲気は清楚系が好き→綿岡。


 細身が好き→綿岡。


 胸は無くていい→綿岡は多分小さい。


 笑顔が素敵な子がいい→綿岡。


 愛嬌がある子がいい→綿岡。


 昔はここまで明確に好きなタイプが決まっていなかった。


 それならいつのタイミングで好みが決定したか、なぜこうも綿岡に当てはまっているのかと考えたら、やはり彼女の存在が大きく寄与しているのだろう。


 おそらく高校二年生から俺の好みは継続している。


 余談だが、最近ミディアムヘアもいいなと感じるようになった。綿岡の影響を受けすぎだ。


「……」


「どうしたの、意味ありげな視線をこっちに向けて」


「なんでもない」


 何か言ってやりたかったが、言葉が出てこなかった。残念。








       #







「めちゃめちゃゲーム置いてるね」


「そりゃショップだからな」


 ショッピングモールにやってきた俺たちは、真っすぐに家電量販店を訪れた。


 ゲームコーナーにやってくると、目的のパピロンを探さずコーナーをうろつく綿岡。


 それに後ろから付いていき、ツッコミを入れる。


 彼女は興味津々なようで、瞳を輝かせながらソフトのケースを手に取り、パッケージを眺めては戻しを繰り返している。


 据え置き型のゲームをやらない人間がこういったところにくると、物珍しく感じるか。


 なんだか、デジャヴだな。そうか、昔ゲームセンターに行ったときもこうやって後ろから彼女を眺めていたんだっけ。


 あの頃は、彼女にベタ惚れだったな。


「硲くん、パピロン探さないの?」


「え、綿岡がゲーム見てるから、待ってたんだけど」


「嘘、ごめんね」


 彼女が探すとは言ったものの、場所は大体わかっている。こういったビッグタイトルが新発売するときは、目立つ場所に特設コーナーが作られているから。


 レジの近くを歩いているとそれを見つけた。


「すっごいね、いっぱい置いてある」


 パピロン3はこの特設コーナーだけで百本は置かれているのではなかろうか。


 真ん中のディスプレイにはPVが流され、周辺にはキャラクターたちのイラストやぬいぐるみで飾り付けが施されている。


 俺たちはソフトのケースを一つずつ手に取った。


「これ、中身入っていないみたいだよ。レジで購入時に交換してくれるって」


「あぁ、昔からある万引き対策だな」


 大量に置かれていたソフトケースはハリボテだった。


「なるほど、ゲームソフト結構高いもん。お店側もこれを万引きされたらすごく痛手だよね」

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