全員キャスティングがおかしいシンデレラ 2

「お帰りなさいませ、旦那様、お嬢様」


「うむ、今戻った」

「ふんっ、暇そうにぼーっとしちゃって。随分と楽な仕事のようで羨ましいわね、サラ」



 ……うるさいな。


 楽なのは事実だけど、それを他人に言われるのは何となくしゃくだ。

 それに楽で良いんだよ、こっちはそれが目的でこの仕事をやっているんだからね!





 少しだけ自己紹介をさせてもらうと、私は転生者だ。前世の私はいわゆる社畜で、過労で死んだ。



 貯金もロクに使わずに昇天しちゃって、推しのアイドルにもっと貢げばよかったー!!

 なぁんて思って目覚めれば、まさかの異世界転生。


 しかも、かなり若返った身体で。



 なんでも、新しく用意した身体に不思議な魔法で魂を呼び寄せたらしい。

 おかげで私はピッチピチに若返り、サラという名前の十六歳ぐらいの女の子に生まれ変わった。


 ――聖女という余計なオマケつきで。



『お願いです、聖女様。この世界に蔓延はびこる悪を浄化してくださいませ』



 私を召喚したらしい魔法使いの人は、国中に広がる悪い気のよどみ(瘴気とも言うらしい)を浄化して欲しいと言っていた。


 この世界には魔法があって、特に転生者は聖なる魔法が使えるようになるらしい。


 その浄化の力を目当てにわざわざ死んだ私の魂を呼び寄せたみたいなんだけど……。

 前世でエリートな社畜だった私には、ピーンと来てしまったんだよね。



 ――あ、コレはまたコキ使われてポイ捨てされるパターンのヤツや……!!



 馬以外にマトモな移動手段も無いこの世界で、それなりに広い国を回らなくちゃならないって絶対に過酷だ。


 しかもそれを別の世界から連れて来るって、外部委託の派遣社員を浪費する気満々じゃないの!!



 新しい人生を貰えた恩はあるけれど、二度も過労死なんてやってられるか!!



『い、いやです!! 私、絶対に聖女になんてなりません!!』



 だから私は聖女になるのを断固拒否させてもらった。


 世界とか国の危機なんて知ったことか!!



 やるというまで解放しません、という感じだったので、仕方なく私は強硬手段に出ることにした。

 まるで子どものようにヤダヤダヤダと駄々をね、床を転げまわったのだ。


 その際あまりに全力で暴れ回ったおかげで、口を大きく開けて呆然とする魔法使いさんたち。

 そりゃ聖女なんて肩書きの人間に仕立てようと思った女が、突然そんなことをし始めたら困惑もするよね。


 だけどこっちは文字通りの命懸け。

 私はこの隙を狙って、その場から脱兎のごとく逃げ出した。



 ――まぁ、そのあとは何やかんやありまして。


 行き場の無かった私は偶然とある人に拾われて、この屋敷のステップガールをしているというワケなんだけど。





「サラ、この後は私の婚約者であるジーク殿下がいらっしゃるわ。くれぐれも、粗相そそうのないように頼むわよ?」

「……承知いたしました」



 私がお世話になっているこの家は侯爵家で、かなり上位のお貴族様。


 でも、この御令嬢様は高飛車過ぎて好きになれない。


 まるで元の世界に居たクソ上司みたいで、性格がメチャクチャ悪い。


 嫁になったら間違いなくしゅうとめとケンカするタイプね。



 それにこの子、この国の次期国王になる予定のジーク王子のことをって言っていたけど、それは真っ赤な嘘。本当は数ある候補の中の一人にすぎないのよ。


 なのにこの子は、絶対に自分が将来の王妃になるって信じ切っているみたい。


 まぁ自信満々なのは良いことだし、見た目も良いのは認めるよ。


 だけどねぇ……。



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