第10話 回想・努力が報われるのは、今とは限らない(ラウル視点)

 俺たちは、早速計画を立てた。

 学園内では護衛が壁を作っているので、付け入る隙がない。狙うなら下校時だ。アリス様は、普段は馬車だが、たまに街を歩く時がある。賭けるなら、そこだ。

 俺たちは、ギルツ家の御者や街の人、店主などから情報を入手し、彼女のお気に入りの店や、行く日を絞り込んだ。

 決行当日は、複数のチームに別れ、彼女がどこに現れてもいいように張り込む。

 しかし、どういうわけか、彼女は来ない。


(俺たちの行動が、護衛にバレていたのかもしれない)


 それ以降も、護衛の裏をかく作戦を立てたが、さらに裏を行かれた。


(プロにはかなわないのか)


 毎回へこんだが、諦めるものかと奮起した。仲間がいてくれるから、俺は、何度でも立ち上がることができる。


(作戦を変えよう)


 次は、一点突破を目指すことにした。公的に接触する機会を得れば、護衛も手が出せないだろう。

 

「学校行事、委員会、クラブ活動、何でもいい、アリス様と接点を持つんだ。その一人を足掛かりに、全員が友だちになる」


「それなら、護衛も裏工作できないな」


「名付けて、『友だちの友だちは、みんな友だち作戦』だ。頑張るぞ!」


「おーっ!」


 だが、ここまでやっても、ことごとく、うまく行かなかった。『かなともの会』メンバーが、自然な流れで外されるのだ。彼女の希望する事柄を調査して、根回ししてもダメなんて、どうなっているのだ。


 舞踏会さえも、接近は不可能だった。

 女子ならイケると思ったのに、阻止された。全てのメンバーが、煌びやかな男性に声をかけられ、夢のような時間を過ごしているうちに、お開きとなるのだ。

 では、男子メンバーはどうかというと、美しいお姉様が現れて、「私と踊りましょう」と連れ去られる。そして、足腰が立たなくなるまで、踊らされるのだ。なんて恐ろしい。男の扱いが、ひどくないか。

 俺の場合は、「この子が、君と踊りたがっているわ」と、大量の女生徒を紹介された。期待の眼差しで待つ彼女たちを、無碍むげにすることもできず、俺はひたすら踊った。みんなから「嬉しいです」「念願が叶いました」と言われるので、パートナーが見つからなくて、困っていた子たちだったのだろう。俺で役に立てたなら、それでいい。

 本命は、楽しそうにクラスメイトと踊っている。そんな彼女を見られるだけでも、幸せだと思ってしまう自分が、なかなかに切ない。


(難攻不落の城を攻めるのは大変だ。外堀すら越えさせてもらえない)


 それでも、俺は『アリス様の友だち』だということを、心の支えに生きてきた。彼女に相応しい男になれば、会えるチャンスがあるかもしれないと、勉強も、苦手な運動も、マナーやダンスも頑張った。


 しかし、半年後、さらなる試練が訪れる。


 それは、地区長が、我が家を訪れた日だった。

 ろくに説明もなく、他言無用の宣誓書に署名させられた時、おかしいとは思ったのだ。

 でも、まさか、ギルツ家に関する、重大な事実が告げられるとは予想もしていなかった。

 それを知った俺は、絶望する。


(俺に、勝ち目はないじゃないか!)


 彼女が守られていた理由は分かったが、それ以上に、このままでは永遠に手が届かない現実を突きつけられ、打ちのめされた。


 ここで、俺は、大きな選択を迫られる。

 このまま、会の一員として、護衛と終わりなき不毛なゲームを続けるか。それとも、一人の男として、彼女と未来を歩む権利を手に入れるのか。


(……準備期間が、あと二年半しかない。圧倒的に不利だ。……それでも、諦められない!)


 俺は、大急ぎで武術を身に付けることにした。剣を握ったことはないに等しいが、やるしかない。

 師匠から、身体能力、敏捷びんしょう性、耐久性、反応の速さ、精神力など、一通りのチェックを受けた後、宣告された。


「見事に、もやしっ子だな。根性だけでは、強くなれんぞ。二年半で仕上げるのは無茶だ。やったところで、しぬか、再起不能だな。お前はまだ若い。早まるな。やめておけ」


 俺は、命をかけないと、チャンスすらもらえないらしい。


(……彼女へ続く道が、険しすぎる!)


 思わず膝をつきそうになったが、俺は石にかじりついてでも、彼女を追うことを選んだ。


「今はダメでも! 二年半で、スタートラインに立てればいいんです! そこから三年後に向けて、俺は強くなる! どんな犠牲を払っても!」


 必死に懇願する俺を見た師匠は、獲物を見つけた獣のような目をした。


「ふうむ。根性だけでは強くはなれんが、根性がなければ強くはなれん。……いいだろう。お前を二年半で、物にしてやる。その代わり、住み込みで稽古するのが条件だ。とても時間が足りん。親御さんの許可をもらってこい」


「は、はい! ありがとうございます!」


 もうすぐ十五になる俺は、親元を離れることになった。

 朝からハードな練習を済ませて学園に通い、帰ったら夜中まで稽古だ。会の活動はマルセルに託し、俺は鍛錬に集中した。毎日ボロボロだったが、学園で見かける彼女の姿に癒されたし、励まされた。

 あとは、なぜか、差し入れの数も増えた。


 師匠は、約束通り二年半で、年齢以上の強さを与えてくれた。おかげで、何とか最初の試練は通過したが、まだ足りない。貴族として必要な、知識や教養も、満遍まんべんなく身につけなくてはならない。文字通り、血反吐ちへどを吐いて努力した。


(あれ?)


 学校と師匠の家を往復していたら、いつの間にか、俺は旅立つ日を迎えていた。そういえば、俺は高等部の三年生になっていたのだった。

 

(努力は報われるのではないのか!?)


 呆然としたまま、卒業式が始まった。会場にいるはずの彼女を探すが、涙で前が見えない。マルセルたちも、「最後まで友だちになれなかった」と号泣する。

 それでも、会のメンバー同士でカップルが誕生していたり、会で培った人脈を活かして、就職や進学につなげたりと、夢と現実に折り合いをつけて、皆は羽ばたいて行った。


 だが、俺の試練は、まだ続いている。この年の卒業生で、彼女を諦めていないのは俺だけだった。


*~*~*~*~


 卒業後、俺は騎士団へ入る道を選んだ。学園に配属されれば、毎日彼女に会えると思ったからだ。

 しかし、いまだに夢は叶わない。俺の下心が、見透かされているからだろう。人事も、いい仕事をする。毎日「異動させてくれ」と顔を出しているが、それが逆効果だったか。今度、ジャンさんに相談してみよう。


 俺たちの無念は後輩に受け継がれ、『かなともの会』は存続している。彼女が婚約した時、さすがに解散になるかと思ったが、意外な依頼が飛び込んできた。


「名誉会長だそうだな。会のメンバーに、アリス様の身辺警護を頼めるか?」


 ある時、アリス様の護衛が、騎士団に現れて言った。護衛を減らすのが彼女の望みだが、それは難しい。ならば、『かなともの会』に頼もうという話になったらしい。


「素人集団ですが、いいのですか?」


「あれだけ俺たちを困らせておいて、よく言う。隠密行動、調査能力、視野の広さ、計画性に団結力、巧みな根回し、学生にしておくには惜しいくらいだ。

 アリス様を想う気持ちが強くとも、きちんと統率が取れており、迷惑行為もしない。彼らの節度ある行動は評価している。六年間、見ているからな。

 会を立ち上げられたときは焦ったが、今となっては感謝だな。任務とはいえ、邪魔をして悪かった」


 やはり、彼らが妨害していたのか。一年前なら殴っていたが、今の俺は、そんなことはしない。これが男の余裕ってやつだな。


 俺は、その依頼を受けることにした。会のメンバーに話すと、全員が飛び上がって喜び、今まで頑張ってきてよかったと泣いた。教室以外での護衛という話だったので、早朝、休み時間、放課後に動けるように、現会長レオンがシフトを組んだ。


「普通の友だちのように、そばにいてくれて構わない」


 そう護衛が許可をくれたので、みんな、水を得たうおのように、イキイキと働いてくれた。なぜならば、やっと『お友だち』になれたのだから。

 ただし、彼女が一人になりたそうな時は、距離をとって気付かれないように見守る。そう、彼女は一人で動いている気になっているが、必ず誰かは近くにいるのだ。


 俺は名誉会長として、たまに様子を見に行く。報告によると、友だちが増えた彼女は、味を占めたのか、さらなる友を求めて、あちこちのクラスに顔を出しているらしい。そのおかげで、今までとは違う層のファンが増えているようだ。なんだか、昔を彷彿とさせる。


 そういえば、初期メンバーのほとんどが、俺と同じように、アリス殿から「友だちになりましょう」と言われたらしい。彼女は、今も昔も変わっていないのか。

 文句を言うつもりはないが、無自覚に人を籠絡ろうらくするなど、罪な人だ。相手によっては、勘違いして、暴走するかもしれないだろう。やはり、俺が守らねば。


*~*~*~*~

 

 こうして振り返ってみると、思い通りにならない青春時代を経て、俺は、すっかり悲観的な大人になったものだ。


 それでも、分かったことがある。

 努力は必ず報われるが、それは、いつになるかわからない。数日後かもしれないし、数年後かもしれない。

 だから、目先のことで絶望しなくてもいい。努力し続けた来た日々は、決して、無駄にはならないし、諦めなければ、きっと、道は開ける。願い通りの未来が来なくても、違う形で日の目を見ることもあるだろう。「失敗だった」「力が足りなかった」と、おのれ卑下ひげするのではなく、過去の自分を誇っていいのだ。


 俺には、夢がある。


 いつか、君と出会った時の話をしたい。

 そして、もう一度、あの店へ焼き菓子を買いに行こう。

 だから、無事でいてくれ。


 そう願いながら、俺は学園に向かった。

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