高校2年生

星空

始まり

17歳。高校2年生。大人でも子供でもない。大学受験や就職のプレッシャーもなければ、1年生の時のような初々しさもない。微妙な歳である。普通という言葉が似合う私にとって、普通な歳の17歳は、本当につまらない。


「星(せい)ちゃん、おはよ!」

友達の花(はな)の「おはよ」で、私のいつも通りの生活がスタートする。今日は、タイトなポニーテールの花は、綺麗なストレートの前髪に可愛く巻かれた後れ毛が耳から、ちょこっとでている。The女子高生って感じ。女子高生の前髪事情は、本当にシビアだ。ちょっと崩れただけで、トイレに向かう。こんな女子高校生ばかりだから、トイレの前は、ある意味戦場だ。 逆に、なんで、こんなに崩れないの?え?前髪に海苔でも貼ったの?って思う子もいる。私は、諦めて、前髪を伸ばしてセンターで分けている。1番楽な前髪だ。前髪は、女子高校生の命なのだ。自転車に前髪を守りながら、乗っている女子高校生を見て、何してんだろ?そんなの崩れても良くない?って思っていた人!あれは、命を守っているのだ!そんなことを考えながら、花と喋っていた。


あと30秒。登校時刻ギリギリでリュックにキーホルダーと手作りのお守りをジャラジャラつけた女の子が滑り込んできた。

「星、花、おはよ!よっし!間に合ったぁー!」

恋(れん)は、私の前の席にドンッと座った。

「おはよ!本当にギリギリだよねぇ」

「もっと、余裕もって来なよ」

私は、恋に向かって言った。ボブ姿の恋は、バレーボールの推薦でこの高校に入ってきた。天真爛漫という言葉が似合うかわいい女の子である。

「寝坊してまってさー、起きたら8時!15分のバスに乗らないといけないのに、終わったと思ってさー、急いでたら、お母さんが送ってくよって言ってきて!早く言ってよーって感じなんだけどー」

恋は、マシンガンのように話してくる。それが面白いんだけどね。


「でさ、このビジュ最高じゃない?」

花が私と恋にスマホを見せつける。休み時間いつものように3人でご飯を食べていた。花が好きなのは、韓国アイドルグループ。彼女は、3年前からずっと好きで、最近やっと人気が出てきた。毎日のように『やっと努力が実ったぁぁ』と言っている。

「うわ!わかるわー!てかさ、この時の目さ、ウチらのこと落としに来てるよねぇ」

恋も花の影響でこの韓国アイドルグループにハマったらしい。

「それなぁ!星ちゃんもハマっちゃいなよ!」

花が屈託のない笑顔でこちらを見てきた。確かにハマったら、2人と話し合うんだけどなぁ。

「うん。最近、ハマりそうなんだよね〜」

しょうもない嘘をついて、『トイレ行ってくるね』と教室を出た。2人は、推しについて、話が盛り上がっている。


奇数の暴力は怖い。2人だけが盛り上がっていると、少し不安になる。悲しいとか、もっと気を使って欲しいとかそういうのでは無いが、なぜか不安になる。私は、韓国アイドルに興味がない訳では無い。話について行くためには、ある程度知っておかないといけない。大人は、女子高校生なんかなんも考えてないように思うかもしれない。そんなことない。空気は読むし、言葉も選ぶ。女子高校生もいろんなことを考えている。


トイレに行ったあと、少し戻りたくなくて、外に出た。校舎から少し離れたところに昔使われていた部室棟がある。来年取り壊すらしいが、ボロボロすぎて、誰も近寄らない。私も入学してから、初めて来た。

「ボロボロすぎ」

思わず声が出た。1階だてなのだが、屋根はさびていて、そのとなりには、雑草や木が乱雑に生い茂っていてもう森である。でもそれが少し落ち着く。1番端の部室から、ギターの音が聞こえる。ここは、人はいないはずだ。気のせい?幻聴でも聞こえるようになったのか?進んでいくと、男の子がベンチに座ってギターを弾いていた。すると私に気づき、こっちを見て、

「お客さんは、初めてだよ」

と言った。私は、惹き込まれそうになった。その声に、その美しい顔に、その小さな体に。初めての感覚に私は、ただ呆然とした。

そのボロボロの部室につり合わない空気に私は、暖かい布団のように包み込まれたようだった。







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