「水の匣」北園陽

@Talkstand_bungeibu

「禁忌の調べ」

「これは決して開けてはいけないよ」

その青い箱からはオルゴールの音色が微かに響いていた。


水滴が樋を叩く音で目を覚ました。

もう三年も雨が降り続いている。

止まない雨は町を飲み込み人々の生活は一変した。

車も電車も使い物にならなくなった。

道路は全て水路になってしまった。

天気予報は伝えることがなくなって廃止された。

未曽有の天変地異の中でも人々は懸命に生きていた。

移動手段を手に入れて建物を高くして適応をしていこうと必死だった。

しかし、人々は次々と倒れていった。

ある者は水に溺れ、ある者は水に流され、ある者は水に飲み込まれていった。

雨が降り続くだけで人口はかつての三分の一になった。

初めは異常気象の原因を突き止めようとあらゆる人々が原因を調査した。

晴れ乞いの儀式を行う人々もいた。

最新鋭のストームライダーで雨雲を消しさろうとする人々もいた。

全てが無駄だった。

雨はもう二度と降り止むことはない。


わたしはベッドから下りてサイドボードに置かれた青い正方形の箱を撫でた。

微かに聞こえるオルゴールの音色は雨の調べをなぞっている。


雨は止まない。


それは、この箱を閉じない限り。

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