自由の代償
みりん
第1話
女の賞味期限はクリスマスケーキ、25でギリギリ、26で切れてしまう。
そんなふうに、人生の賞味期限も19で切れるのだそうだ。
私は今齢十九、人生のピークとも言われる今日明日に、人生を楽しめている自覚がない。これが頂点なら私の余生は余程つまらないものになってしまう、もっと楽しまなくちゃ、もっと満たさなくちゃ
何にしたって意味の無い切迫感に襲われている。
なぜなら今は「人生のピーク」だから。
私は今より4つか5つ幼い頃、黒髪を捨てるのがこれ以上ないほど怖かった。
数週間毎に鏡を眺め、「ああまた染めなくちゃ」と、茶髪への切迫感に襲われるのが見え透いていたからである。
自由を手に入れ、謳歌することで、「何もしない」という自由を失ってしまうことを、私はずっと以前から知っていた。知っていて恐れていた。恐れていたのにそんな自分になってしまった。
それに、制服を捨てるのも怖かった。
制服は私がどんな醜い容姿であろうと、私が女であることを証明してくれていた。その証明を手放すのだ、服装の自由と引き換えに。
これから私は酒とタバコを許される自由と引換に、真っ白な肺と真っ赤な肝臓を失うのだろうか。
生きる苦しみから逃れる自由と引換に、棺桶に閉じ込められるのだろうか。
自由を引き換えに自由を手放して生きていくのが正解なのだろうか。
不自由を身にまとって自由を大事に抱えておくのが正解なのだろうか。
私はこの世のすべてを知ったつもりで知っていないのだ。
そもそも知ったつもりさえ出来ていなかった。
生きていくうちにたくさんの穢れを知って身体に取り込むのだ。そして歳をとって穢れでいっぱいになって、穢れで満たされて純粋になって、無垢な気持ちを知って、死んでいくのだ。せめて今はそう信じていたい。私はこの世のすべての穢れと共に死んでいきたい。
そして綺麗になりたいのだ。
自由の代償 みりん @noa_abc72712
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