2章

第11話 終わりの始まり

 あの日、ギルド『パラダイム』は解散した。


 キュリーはズクシを恐れるあまり、冒険者として限界が近づいていた。


 それを少しでも楽にする為には、新しい環境に身をおく事が大事だと、サラが提案した。


 ベックも反対はしなかった。


 見るからに落ち込み、やつれてしまったキュリーが少しでも良くなって欲しい。


 それはベックも思っていた事だったからだ。


 キュリーの事はサラに任せ、ベックは1人になった。


「•••考えてみれば、1人の旅は初めてだな」


 キュリーが仲間になったのも、半年ほど前の事だ。


 当時、森の奥深くにあるキュリーの故郷が密猟者たちに襲われていた。


 助けを求める為、勇者のスキルを持つ旅人を探して森から出てきたキュリーをズクシが見つけ、密猟者を倒した後、キュリーが仲間になった。


 それまでずっと、隣にはズクシしかいなかった。


 その事を考えると、ベックの中に抑えきれない衝動が生まれる。


「アイツのせいで、オレの人生は狂ったんだ」


 そして今も、あの男にベックの人生は操られている。


 早く見つけて殺す。それだけが今のベックの目標だった。


 しかし、今は無理だ。


 街の情報屋は当てにならない上、いつ襲われるかわからない。


「オレは街を出る」


 そう提案したのはベックだった。


 ベックが街を出れば、ズクシはきっと追いかけてくる。そうしなければ、いつキュリーとサラが襲われるかわからない。


「もし、この問題が解決したら、また3人でパーティを組もう」


 申し訳なさそうに謝る2人に、ベックはそう言って別れた。


 それから2日が経った。


 ベックはひたすら馬車を乗り継ぎ、南に向かっていた。


 身体中が痛く、尻の肉が取れる夢を見るほどだった。


 それでも、1つの場所に留まることが怖かった。


 サラたちをズクシから守る為に囮になったが、ちゃんと付いてきているのか確認する術は無い。


 後ろを見てもズクシを見かける事は無かった。


「アンタ、誰かから逃げてるのかい?」


 後ろを警戒するベックに、馬車に乗り合わせていた他の冒険者が尋ねた。


 馬車にはベックを含め、合計で4人が乗っていた。

 

 話しかけてきた若い男と、その隣に座る大柄な男。


 その反対側に座る女は帽子を被って隠しているが獣人族の様だ。


 ズクシとは、関係ない事を祈る。


「•••そうだな。この辺りで誰か見かけなかったか?」


「いや、見てねぇな。それよりもアンタ、何やらかしたんだ?」


「•••仲間割れ、いや、アイツはもう仲間じゃねえ。ただの逆恨みだ」


「ははっ、アンタも苦労してるんだな。じゃあ、どこに行くか予定はあるのか?」


「•••いや、ない」


「だったらよ、オレの仕事を手伝ってくれねぇか?」


「お前の?どうしてだ?」


「アンタ、この先に何があるか知らねぇんだろ?」


「•••確か、ワズラの村があった筈だろ」


「あの村はもう滅びたよ。ついこの間、魔王軍の襲撃にあってな」


「そうか、魔王軍もここまで来ていたのか•••」


 ズクシのせいでそれどころでは無かった。


「で、ワズラの村に残っている魔物を倒すためにオレたちが向かってるって訳よ」


 若い男はそう言って、腰に刺した剣を撫でた。


 その余裕のある表情は自分の腕を信じているのだろう。


「なぁアンタ、勇者のベックだろ?良かったら力を貸してくれないか?」


「そこまで知っているなら、オレたちのパーティがどうなったのかも知ってるだろ」


「わかってる。でも、ワズラの村はオレの故郷なんだ。なんとしてでも仇をとりたい」


「そうか。まぁいいよ、丁度オレも身体を動かしたかった所だ」



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『クズの最底辺』と呼ばれたオレは久々にスキル「交渉人」「コソ泥」「観察眼」を使って本気を出す 鹿角 望月 @kazunomotizuki

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