第10話 嘘ついてて、ゴメン

 ズクシは、自分には『交渉人』という1つのスキルしかないと周りに言っていた。


 3つのスキルを持つ者は少ない上に『コソ泥』は印象が悪く『観察眼』はあまりに強力すぎた。


 それはベックの指示だった。ベックも普段は自分が『勇者』のスキルを持つ事を黙っていた。


 しかし、ズクシには、もう1つのスキルが生まれていた。


 それが『不死者』のスキルだった。


 死ねない身体になった事に気づいたズクシは、ベックに相談するべきか悩んだ。


 しかし、そのスキルを利用して、ズクシを囮に使うかもしれない。


 そうすれば、ベックの魔物と命がけの戦いが見れなくなってしまう。


 ベックの戦う姿が見たいズクシにはそれが問題だった。


 だから嘘をついた。


 ズクシのスキル『交渉人』を使えば、ベックを言いなりにする事は出来た。


 しかし、それはベックとの約束の「ベックと仲間にはスキルを使わない」に反する事になってしまう。


 ベックに残っているのは、スキルが発覚したあの日。


 ベック以外の村の全員がズクシを殺す事を決めた時。


 ベックがオレの手を引いて、アースドラゴンに襲われる村から逃げた瞬間。


「俺だけは最後まで味方でいてやるよ」


 それが、ベックが誓った言葉だった。


 最初で最後の、ベックにかけた『交渉人』のスキルだった。


 

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