視線
毎日、視線を感じる。
授業中、家の帰り道、風呂に入る時も視線を感じる。
誰かに見られているようで凄く怖い。
でも、俺は何とか気にせず日々を過ごしている。
そんなある日、俺は寝落ちしてしまった。
ハッと目覚めた時には、視線を感じていた。
起き上がろうとしても、体が動かない。
もしかして、金縛り?
すると、俺の首が誰かに締め付けられているように苦しかった。
「グッ……!」
俺が苦しんでいると、着信音が鳴った。
その瞬間、首が楽になり、体も楽になった。
急いで起き上がり、スマホを手に取ると、『非通知』という文字が書かれていた。
「もしもし?」
「………」
「誰ですか?」
「………」
プーップーッ
突然、電話が切られた。
何だったんだ?
次の日、俺はいつも通りに登校した。
その日も、視線を感じながら学校生活を過ごしていた。
「隆志に相談があるんだが……」
「何だ?」
俺は、霊感がある隆志に相談する事に。
「最近、視線を感じていて、気味が悪いんだ」
「視線?」
隆志は、俺をまじまじと見つめ、こう言った。
「薄いけど、少し取り憑いている感じがする」
「マジ?」
「うん。取り憑いている人間は、近くに幽霊がいる。お前には何故か薄いんだよな」
「薄いと何か悪い事が起こるのか?」
「普通濃い方が危険だからお前の場合薄いしまぁ、大丈夫だろ」
そう言われ、視線をあまり気にしないようにした。
ある日の事。
俺は学校から帰ってきて、スマホゲームをやっている時に事件が起きた。
パリンッ
どこからか、割れた音が聞こえてきた。
俺は、スマホゲームを止めて、音の正体を探る事に。
すると……
部屋に飾っていた妹の詩織の写真が落ちていて、詩織の顔に亀裂が入っていた。
何か嫌な予感がする。
俺が戸惑っていると、着信音が鳴った。
恐る恐るスマホを手に取ると、『母さん』という名前が書かれていた。
これは……まさか……。
「もしもし、母さん?」
「あ、哲哉! 落ち着いて聞いて」
この流れは……。
「突然詩織の心臓が悪化して、寿命があと……。って、それは詩織から聞くとして今すぐ病院に来て」
「分かった。今すぐ行く!」
電話を切って、俺はすぐさま病院に駆け付けた。
ナースに案内され、詩織がいる病室へ行く。
「詩織!!」
「お兄ちゃん……」
そこには、ベッドで寝ている詩織の姿が。
「悪化したって、大丈夫か!?」
「全然大丈夫だよ」
「平気か!?」
「平気だよ。お兄ちゃん、心配しすぎ」
「そりゃ心配するだろ!!」
詩織は病弱で、昔から心臓が悪かった。
病院通いをしていて、学校には行っていない。
そんな妹が今、ヤバい状況だ。
俺がそわそわと心配していると、詩織から衝撃的な事実が聞かされる。
「お医者さんから、もう寿命はあと一週間しかないって言われた…」
「え……」
「最近は、心臓が痛くて痛くて仕方がなかった」
「嘘……だろ……」
「一週間しかないなんて、私ダメかも……」
俺は、膝から倒れ込み、
「詩織がいなくなるなんて……俺は、絶対に嫌だ……!」
と、悲しみながら言った。
「お兄ちゃん……私は、いつもお兄ちゃんを陰から見守っていたよ」
「え……?」
「授業中、家の帰り道、風呂の時もお兄ちゃんを見ていた」
じゃあ、あの視線って……詩織?
「お兄ちゃんのそばにいたいと思っていたら、いつもお兄ちゃんを見ていて……お医者さんから『それは、多分生き霊だよ』って言われた」
「生き霊……」
「その強い思いにより、魂が外に出て、お兄ちゃんを見守っていたって」
まさか……詩織が俺の事を見ていたなんて……。
「すごい楽しそうに生活していて、私もお兄ちゃんみたいに生きたいなぁと思った……でも、そんな願い、叶えられなかった……」
「………」
「私は、あと一週間で死ぬんだ。まだ高校生になっていないのに。私の夢が叶えられず、死んでいく……」
「いや……俺がその願い、叶えてやる」
「……!! お兄ちゃんが?」
「あぁ。俺が毎日お見舞いに来て、詩織と一緒に楽しい話してやる」
「お兄ちゃん……」
詩織が泣き出した。
「良かった……お兄ちゃんを助けて……」
「助けて? どういう事だ?」
「お兄ちゃんが首を締められそうになった時、私の生き霊が電話をして、お兄ちゃんを助けたの」
あの電話……詩織の生き霊が……。
そう思ったら、俺も涙が止まらなかった。
「そっか……。詩織が助けてくれたんだ……」
俺は、詩織の頭を撫でた。
「偉いぞ。流石俺の自慢の妹だ」
「えへへ」
詩織の笑顔を見て、俺は一安心した。
だが……あと一週間か……。
俺は、詩織が死ぬまであと一週間、ずっとお見舞いに来て、詩織に面白い話をした。
「あはは!」と笑う詩織の顔を見て、俺も笑う。
とても楽しかった。
そして、残酷にもあっという間に六日が経った。
明日で死ぬんだと思うだけで心が痛くなる。
心臓がギュッと締め付けられるような感じになる。
俺は、ずっと話し続けた。
悲しい顔を隠して、笑顔を見せた。
その詩織の顔は切なそうに笑っていた。
深夜、詩織の病態が悪化した。
心臓が痛い……痛い……と泣き叫ぶ詩織の顔を俺はただ見ているだけだった。
「大丈夫だ」
と、俺は優しく詩織の手を握る。
そして、七日目。
詩織はゆっくりと目を瞑る。
「お兄ちゃん……いつも楽しい話……してくれて……ありがとう」
詩織は、最後に俺に向かって最高の笑顔を見せた。
そして、心臓が……止まった。
命を引き取った。
「ゆっくりおやすみ。詩織」
俺は泣くのを我慢して言った。
俺は、詩織が最後に見せた笑顔を忘れない。
脳裏に焼き付いて離れない。
その笑顔を思い出すだけで、泣けてくる。
「詩織……詩織……」
俺は、何度も名前を呼び続けた。
それから大学生になった俺は、家を引っ越し、新しい生活を過ごしていた。
バイト三昧で大変な時、詩織の笑顔を思い出し、頑張ろうという気持ちが湧いてくる。
一歩前進だ。
後から聞いた話なんだが……
高校生の時、住んでいた家は事故物件となっていて、よく詩織の幽霊が現れ、イタズラをしてくる。
ただ意地悪なイタズラではなく、人に害を与えないイタズラをしているという。
楽しそうで良かった……。
俺は、そう思い、生き生きとした生活を過ごしていた。
そして、俺はふと疑問に思う。
あの時、首を締め付けて殺そうとした幽霊は、一体何だったんだろうと……。
詩織ではないと願うばかりだ。
もし……詩織だとしたら……。
「お兄ちゃん……お兄ちゃん……」
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