座無垢

エリー.ファー

座無垢

「座無垢ってなんですか」

「知らないよ」

「いや、だからっ。私は座無垢について知りたいんです」

「知らないよ、だから」

「しらばっくれないでください」

「いやいや、本当に知らないんだって」

「そんなことないっ」

「あるっ」

「ないっ」

「ないの反対っ」

「あるの反対っ」

「私は世界のために座無垢を調べているんです。こんなところで足止めを食うわけにはいかないんです」

「だから、知らないって」

「いいですか、座無垢により時空間移動に大きな問題が発生しました。これはクレアル論の序章に過ぎないと言われています。それだけ大きな問題であるということです。確かに、核戦争のようなレベルと比較することはできませんが、これは拡大解釈の行き着く先ではありません。一つの回答として間違いなくこの先に用意されているということなのです。非戦系条例により座無垢自体の価値を下げることは禁じられているため、私たちはこの問題を研究対象として申請することもできません。あえて兵器としての価値について論じることで、想定の範囲外であることの証明、及び戦争に関する条例から憲法への百科からの権利譲渡とすることは可能です。しかし、それでも多くの反対意見が出ることでしょう。余りにも座無垢は強大であり、未知数です。座無垢についてもっと詳しく教えてください」

「ごめん。知らないんだ、本当に。分かってくれ」

「そんなことありません。あなたは知っているはずです。私を認めることができないんですね。私のことをそうやって無視するなんて。最低です。クズです。この世界の式神を名乗るべきではありません」

「いや、別に式神とかではないし」

「嘘を言わないでくださいっ。あなたは式神です。そして、世界を守るために生まれた札なのです」

「式神も知らないし、座無垢も知らないんだ。君、うるさいぞ」

「非常識なのはあなたですっ。私は世界を救うんですっ。座無垢について理解を深めて、暴走する闇の波動を食い止めるために戦うんですっ」

「とにかくうるさい」

「なんてことをっ、恥を知りなさいっ」

「ここ、図書室だよ。君、さっきから普通に叫んでるけど、うるさいよ。皆、君に迷惑をしているんだ。静かにしてくれよ」

「式神を名乗るあなたが、そんなことを気にしているんですか」

「大事だよ。式神とか座無垢とかいうわけのわかんないものより、今日も図書室が静かである方が大切なんだ」

「分からないっ」

「図書室で静かにしなければいけないことを理解できないなら、図書室から出た方がいい」

「嫌ですっ」

「じゃあ、静かにしてくれ頼むから」

「本当に、知らないんですか。座無垢や式神、墾田の行方からなる八十の神への言葉たちを」

「全部、知らない。もう、なんでもいい。私は全部知らない。いいかい、君の知っていることとか、君がこれから知りたいことを、私は全部知らないんだ。もう、そう思ってくれて構わない。いいね、分かったね」

「そんな、私はどうすれば」

「知らないよ。自分で考えたら」

「闇の波動を止めなければ」

「はいはい。頑張ってね」

「そのためには、二十八の柱が必要になるから、ここから南へ飛ばなければ」

「君、独り言が多いね」

「呼んでる。私のことを誰かが呼んでる。神のお告げが聞こえる」

「へえ、耳がいいんだね」

「世界が滅ぶ前にあなたに会えてよかった」

「図書室が静かになるなら、なんでもいいよ」

 そして。

 世界は滅んだ。

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