第13話 海の帝王

 ラシスコ沖に生息する超大型のイカ。その名も『帝王イカ』。

 海の化け物として恐れられるそのモンスターは、普段は沖にいて地上近くには来ないのだが、こうして稀に砂浜に現れることがある。

 その理由は彼らが好む、ある物にあった。


『ぶももも!』


 物凄い速さで襲いかかってくる何本もの帝王イカの触手(腕)。

 シャロとアイリスはその場から跳び、回避するが触手たちはすぐさま追尾ししつこく彼女たちを付け狙う。


「もう! なんだっての……よ!」


 剣を持ってないシャロは襲いくる触手を蹴っ飛ばす。しかし柔らかくて表面がぬるぬるしたそれは蹴ってもたいしたダメージを与えることは出来なかった。

 たいした反撃が出来ないと見た触手たちは一斉にシャロの肢体に絡みついていく。


「なによこれ! この! この!」


 必死に抵抗するが、余計に絡みつくだけで触手は一向に離れない。

 徐々に触手の表面を覆っていたぬるぬるした粘液もシャロに絡みつき、彼女の肌をテカテカのぬるぬるにしていってしまう。


「いやあ……気持ち悪い……」


 剣がなくとも魔法という手が残っているのだが、その粘液のあまりの気持ち悪さにシャロは冷静な思考を失ってしまっていた。なんとか粘液を手で落とそうとはするものの、触手が体に絡み付いてるので満足に体を動かすことが出来ずにいた。


 すぐそばにいたアイリスはシャロを救おうとするが、その隙を突かれて彼女も触手に絡め取られてしまう。


「しまっ……!」


 シャロ同様彼女も一瞬で全身を縛り上げられ、全身を粘液で覆われる。持ち前の身体能力で抜け出そうとするが、力を入れた瞬間、縛り上げる力が強さを増してしまう。


「ん……っ! 卑劣な真似を……!」


 アイリスは縛られながら自分の体力が落ちていることに気づく。

 なんと帝王イカは粘液の力で捉えた相手の魔力を奪い取っていたのだ。上質な魔力を吸い取り、帝王イカは上機嫌そうに『ブモ♪』と鳴く。


 そして力を得たことで更に縛り上げる力を増していく。


「ちょ、どこ触って……!」


 触手はどんどん伸び、彼女たちの肢体を舐め回すように這う。

 足から腰、腰から胸、胸から首。若く瑞々しい肌を蹂躙しながら這いずり回る。その刺激の強さに二人とも体がビクビクと震えてしまう。


「ん……!」

「だめ……!」


 そして遂に触手が触れてはならないところに達し……そうになった所で、ルイシャがキレた。


「おい、何やってんだ」


 ふだんの彼から想像できないドスの効いた声。

 呆気に取られて反応に遅れたルイシャ。気づきば大事な二人が辱められてしまった。その怒りは凄まじく口調すら変わってしまっていた。


「その汚らしいモノを……離せ!」


 右手を手刀の形にし、触手に思い切り叩きつける。

 するとシャロたちに巻きついていた触手の根元がズパン! と切れ落ちる。

 触手だけでなくその下の大地を抉るほどの一撃。もちろん帝王イカも驚いたが、その一撃を放ったルイシャもその威力に驚いていた。


「……ん?」


 魔力も気も込めてない力任せの一撃にしては、威力が高すぎる。ただの手刀が本物の剣と同等以上の力が出るとは思わなかった。


「これは……そうか、これが『怒り』の力か……!」


 剣王クロムとの戦いに勝利したルイシャの肉体は前よりもだいぶ成長した。

 しかし優しい性格が災いし、普段はその引き出しを開け切れていなかったが、激しく怒ったことで抑えていた力が解放されていた。


「これを制御できたらもっと強くなる。今は身を任せよう……!」


 解放した力を抑えぬよう、意図的に怒りを溜める。そして湧き出た力をうまく制御しながら攻撃に転じる!


「おらァ!」


 ルイシャは帝王イカの足を掴むと、力任せに引っ張る。

 すると帝王イカの巨体が持ち上がり、宙に浮いてしまう。


『ぶも!?』

「地面に……落ちろ!」


 ルイシャは持ち上げたそれを思い切り砂浜に叩きつける。

 イカに柔軟な体を持っていようと流石に堪えたようでイカは苦しそうに呻く。


『ぶも……!』


 器用に顔を触手で叩き目を覚ますと、こちらに向かってくるルイシャ目掛けて黒い液体、イカ墨を吐きかける。


 帝王イカ特有の強酸性のイカ墨。当たれば骨まで溶ける猛毒だ。

 ルイシャはそのイカ墨を思い切り殴りつける。


「ふん!」


 怒りにより筋力が跳ね上がった彼の拳は、その衝撃波でイカ墨を霧散させてしまう。

 まさかの対処に驚く帝王イカを余所に、ルイシャはイカの頭上にジャンプしその脳天めがけ思い切り拳を叩きつける。


「気功術、攻式一ノ型……隕鉄拳・剛ッ!」


 怒りの力で存分に強化されたその一撃は、砂浜に巨大な陥没穴クレーターを作り出し、帝王イカを見るも無惨なぺったんこな姿に変えてしまうのだった。

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