第12話 照らす夏日のその下で
「っしゃあ! 遊ぶぞーっ!!」
「おー!」
「母なる海に還るのもまた一興。今は一度この安寧に身を委ねるとするか……」
水着姿のヴォルフが叫びながら海に突っ込み、続いてルイシャとヴィニスも海に飛び込む。
王都近くにも海はあるが、ここの浜辺ほど綺麗ではないのであまり遊んだことはなかった。ヴィニスも同年代の友人はいなかったのでハメを外して遊ぶと言う経験はなかった。
なので三人とも初めての海での遊びを存分に楽しむ。
「はしゃいじゃって、ルイも子どもね」
二人の様子を見たシャロはそう言って肩をすくめながらパラソルをビーチにさす。
ルイシャたち五人はビーチに遊びに来ていた。しかも商人フォードの好意で他に人のいないプライベートビーチだ。
死海地点を航海するのは明日。今日は休む……という話だったのだが、みんなまだ子ども、ジッとなんてしてられなかった。
それは呆れた風にしているシャロも同じで、
「シャロも遊びたそうじゃないですか。いいんですよ一緒にはしゃいで来て」
「……考えとくわ」
ウズウズする体を抑え、シャロは我慢する。
彼女も本当はアクティブな人間なので広く大きな海を見て体が疼いていた。
「よし、こんなもんかしらね」
パラソルとシートを設置し、荷物をそこに置いたシャロは、アイリスと共にルイシャたちのもとに駆け寄る。
「ちょっとルイ! こっち来なさい!」
「へ? う、うん」
どうしたんだろうと、ルイシャは一人でシャロとアイリスのもとに駆け寄る。
すると二人は突然服を脱ぎだす。
「わ! 急にどうしたの!?」
突然の奇行に驚くルイシャ。
裸にでもなる……のかと思ったが、彼女たちの服の下から現れたのは水着だった。
「ふふ、びっくりした?」
シャロはピンク色のかわいらしい水着だった。
鍛えられた体は引き締まっていながらも胸とお尻は大きく主張しており、男性を惹きつける見た目をしていた。
「ちょっと……恥ずかしいですね」
一方アイリスは黒いセクシーな水着を着用していた。
恥ずかしいと言いながらもその水着の表面積は少なく、かなり際どい。シャロ以上に大きな胸を腕で隠そうとするが、全く隠れきれていなかった。
普段は見ることの出来ない、二人の水着姿。
ルイシャはその姿に見惚れてしまい、二人の体をジッと凝視してしまう。
「……見過ぎじゃない? えっち」
「あ! ご、ごめん!」
恥ずかしそうに顔を赤らめるシャロ。慌ててルイシャは謝るがシャロは頬を膨らませたままだった。
「……他に言うことはないの?」
「え、えーと……すごい、似合ってるよ」
「ふーん、他には?」
「と、とってもかわいいよ!」
「そーお?」
褒められていく内にシャロはどんどん機嫌が良くなっていく。
今度はそれを見たアイリスが頬を膨らませ、「えい」とルイシャの右腕に抱きつき、その豊満な胸の谷間でルイシャの腕を挟む。
「私は褒めてくださらないのですか……?」
「も、もちろんアイリスも似合ってるよ!」
ルイシャは言葉を並べ立ててアイリスのご機嫌を取る。
二人のその様子を見たシャロは不思議そうに首を傾げる。
「なーんかあの二人、前より仲良くなった気がするのよね。気のせいかしら」
前まであった二人の間にあったぎこちなさが消えているのをシャロは敏感に感じ取っていた。
それがまさか昨日の夜にあった出来事によるものだとはシャロは思わなかった。
「ま、いっか。それよりいつまでも二人の世界にはさせないわよ!」
深くは考えず、シャロは空いているルイシャの左腕に飛びつく。
「うわ! ちょっと動けないって!」
「うっさいわね!黙って受けとめなさい!」
「ちょっとシャロ! 危ないですよ!」
熱い日差しを浴びながら楽しそうにはしゃぐ三人。
そんな三人の様子を遠巻きに見ながらヴォルフは呟く。
「まったく、今日も平和だぜ」
「……あれがいつも通りなのかヴォルフ?」
とてつもないイチャつき具合を目の当たりにしたヴィニスは慣れ切った様子のヴォルフに問いかける。
「まあな。お前も早く慣れといた方がいいぞ」
「そうなのか……それにしてもあのアイリス姉をあそこまで手込めにするとは。さすがだぜ……」
ヴィニスの中のアイリス像は、誰にも媚びない孤高の存在だった。
そんな姉があんなにも幸せそうにしているのは、嬉しくもあり寂しくもあった。
「寂しいが……俺は安心したぜ。幸せになってく……ん?」
ヴィニスは突然右足首をぎゅっと握られる。
近くにいるのはヴォルフのみ。いったいどうして急に……と自分の足を見てみると、なんと白い触手のような物が自分の腕に巻きついていた。
「…………なんだこりゃあ!」
次の瞬間、海の中から巨大な生き物が姿を表す。
一言で形容するなら巨大なイカ。十本以上の足を持つ十メートル以上の大きさの規格外のイカだった。
「うおおっ!? 何するんだ貴様冥府の闇に叩きおとこら揺らすな気持ち悪おろろ」
巨大イカに足を持ち上げられ、吊るされたヴィニスはその体勢のまま振り回され、気持ち悪くなる。
イカはヴィニスで遊びながら大きな目で辺りを見渡すと、その視線をシャロとアイリスの所で止める。
「げ」
「嫌な予感がしますね……」
『ブモモモモッ!!』
気持ち悪い雄叫びがビーチに響く。
そして何十本もの白い触手が二人めがけて放たれた。
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