第8話 商人フォード

 海賊たちを撃退した日の夜。

 ルイシャたちは大きな屋敷に招待されていた。


「さあ! 遠慮せずに食べてくれ! シェフが腕によりをかけて作ったからな!」


 そう言ったのは恰幅の良い男性。

 歳は四十代前半くらいだろうか。首や指には高そうな宝石が付いたアクセサリーをつけており、裕福な人物だということが一目でわかる。


「いいんですかフォードさん? こんなにいいものをご馳走になっちゃって」

「もちろんだとも! 君たちが助けてくれなければ被害額はこんなものじゃ済まなかったからね」


 ルイシャが申し訳なさそうに聞くと、その男性『スタン・Lリー・フォード』は笑顔で答える。

 彼は港で海賊に襲われていた商人の一人で、自分を助けてくれたルイシャたちを屋敷に招きご馳走を振る舞っているのだ。

 テーブルの上に並ぶのは前に王城で出された食事にも劣らない料理の数々。

 本物のルビーのように赤く輝く甲殻を持った『ルビーロブスター』の刺身や、万年亀の甲羅揚げ、珍味スカイフィッシュの姿揚げなど様々だ。

 ルイシャの仲間たちが満足そうに舌鼓を打つ中、ルイシャはその中にあるひとつのスープに目を奪われる。


「これ、すごいいい匂いですね」

「ほう、お目が高いな少年。それは飛竜の尻尾を煮込んで作られた『ワイバーンのテールスープ』だ。内陸では飛龍の肉は焼いて食べることが多いが、ラシスコではスープに使われることが多い。美味しいから食べてみるといい」

「はい、いただきます」


 黄金色に輝くそのスープを口に含んだ瞬間、物凄い旨味の暴力がルイシャの口の中を凌辱する。飛竜の尻尾部分は他の部位と比べて硬いが、その分旨味が含まれている。それが溶け出したスープの旨味は他の料理とは一線を画す。肉のガツンとした旨味とキツめに効かせた香辛料のダブルパンチを受け、ルイシャは驚く。


「――――ぶはっ! す、凄いですねこのスープ」

「そうだろう。おかわりは沢山あるから遠慮しないでたくさん食べてくれ」


 ルイシャたちと商人フォードはしばらく楽しい食事の時間を楽しんだ。

 そんな中ルイシャは気になっていたあることを質問する。


「海賊ってこの街によく来るんですか? 街の人たちはあまり海賊に慣れてない様子でしたが」


 普段から海賊が来てるにしては対策が取れてないとルイシャは感じていた。

 フォードはその質問に深刻そうな表情で答える。


「百年前の大海賊時代とは違い、今は海賊の襲来なんてほとんど無かったんだがな。あのドレイクが来たってことはこれから海賊が多くなるかもしれない。警備を増やした方がいいかもしれないな」


「そのドレイクって人は有名な海賊なんですか?」


「ああ。“人喰いドレイク”といえば船乗りの間では有名な海賊だ。商船を主に狙い、金目の物を根こそぎ盗んでいく大悪党だ。国が絡んでいる商船を襲ったり無闇に命を奪うことを避けてるから、国を味方にして追い詰めることは出来ないんだ。厄介な相手だよ」


「なるほど……」


 国を味方に出来ない以上、商人たちだけで対処しなければならない。しかし全ての商船に凄腕の戦士を乗せていたら破産してしまう。ドレイクは神出鬼没なので中々捕まえることは出来なかった。


「とはいえこっぴどくやられた上に部下もたくさん捕まったんだ。しばらく港を襲ったりはしないだろう。君たちのおかげだよ。他に何か力になって欲しいことがあったら言ってくれ」


「でしたら、船を一隻お借りできますか?」


 そう口を出したのは吸血鬼のヴィニスだった。

 フォードは意外そうに尋ねる。


「船? 行きたいところでもあるのか?」


「はい」


 そう言ってヴィニスは地図を取り出しある地点を指す。

 そこは港町ラシスコから南東のある海域。そこ指したのを見たフォードは、突然顔が曇る。


「そこは……!」


「ここは死海地点『シップ・グレイブヤード』。海賊王が最後に向かったとも言われているこの海域に行く船が欲しい」


 ヴィニスは真面目な顔でそう言い放つのだった。

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