第10章 少年と夏休みと海賊王の秘宝
第1話 夏休み
「これで今日の授業は終了とする。みんな、休みだからといってハメを外し過ぎるなよ!」
ルイシャの所属するZクラスの担任、レーガスがそう言うと、クラスメイトたちは解き放たれかのように大声で「はーいっ!!」と返事をし、教室の窓とレーガスの鼓膜を割れんばかりに揺らした。
もちろん毎日彼らがこんなに騒がしいわけではない、今日は特別な日なのだ。
「ようやく待ちに待った夏休みだぜ! おいルイシャ、お前はどっか行く予定あるのか?」
バーンが口にした通り、明日から魔法学園は約一ヶ月半の夏休みに突入する。みんな学園生活を楽しんでいるとはいえ、やはり夏休みは嬉しい。みな明日から何をするかという話に花を咲かせていた。
「僕は明日から早速出かける予定だよ。バーンは何か予定あるの?」
「俺も明日から出かける予定だぜ、もちろんメレルとドカベを連れてな。王都の東の方におっきな森があるだろ? あっちを探検してみるつもりだ。まだあの地域はあまり開拓されてないみたいだから今から楽しみだぜ」
「へえ、面白そうだね。お土産話楽しみにしてるよ」
「任せな、楽しみにしとけ!」
魔法学園には他国出身の者も多くいるので、夏休みは帰郷する者が多いのだがZクラスの生徒には帰郷するものはほとんどいなかった。落ちこぼれだったから、奇妙な力を持っているから、何か事件を起こしたから。理由は様々だが帰る故郷を失った者がここには多くいる。今や王都は彼らにとって帰るべき故郷となりつつあった。
「じゃ、帰ってきたら連絡してね。僕の方が遅く帰ってくるかもしれないけど」
「おう、ルイシャの話も楽しみにしてるぜ」
バーンはそういうとルイシャの元を去っていく。すると彼と入れ違うようににアイリスがルイシャの元にやってくる。
「いよいよ明日出発ですね、法国領土は入ったことがないので少し緊張します」
「まあ僕たちの行くところは神都じゃないからそんなに気構えなくても大丈夫でしょ」
ルイシャたちの目的地、港町ラシスコは法国アルテミシアの領土内にある。法国アルテミシアは創世教を信仰する宗教国家。その神都である『アダ=イブム』は創世教の総本山であり、住民の九割以上が創世教を信仰してると言われている。
ルイシャは以前無限牢獄の管理人桜華に『創世教に気をつけて下さい』と言われている。なのでなるべく関わらないように生活していたのだが、創世教はキタリカ大陸で最も広く普及している宗教であり完全に関わらないというのも不可能な話である。
とはいえ創世教は表向きにはヤバい宗教ではない。その深部である神都に行くのは躊躇われるが、港町ラシスコは神都から大分離れており創世教の熱心な信徒はそこまで多くない。なのでルイシャは大丈夫だと判断したのだった。
「あまりこういうこと言っちゃいけないけどワクワクしちゃうね。海賊王キャプテン・バットの伝説は僕の村でも聞いたことがあるからね。その伝説の海賊王が残したお宝を探すなんて胸ときめかない男はいないよ」
「お宝ですか。本当に見つかれば良い活動資金になりそうですね」
「アイリスは現実的で頼もしい限りだよ……」
天下一学園祭を優勝したルイシャたちは、国境を越え旅行する権利を得た。それを使い夏休み中に海賊王が持っていったと言われる勇者の遺産を探しに行くことになったのだ。
海賊王バットは100年前に活躍した大海賊。凄まじいカリスマと戦闘能力を持っていたと記録に残っており、当時の海賊たちは誰も歯が立たなかったと言われている。
「でも不思議だよね、彼ほどの海賊ならたくさんお宝を持っていたはずなのに何も見つかってないんでしょ?」
「そうですね。彼の活躍は文献に相当数残っているのですが、その最期は意外なことに詳しくはわかっていません。『宝島の場所が分かった』、そう言い残して彼はラシスコを出た所を見られたのを最後にその姿を見たものはいないそうです。なかまの裏切りにあった、海の怪物に襲われた
、宝島で天寿を全うした……などなどいろんな説がありますが、そのどれも裏付けする証拠はありません」
「つまりその謎も解かないとお宝には辿り着けないってことだよね。夏休みの間に出来るのかなそれ……」
「すでに私の仲間がある程度は情報を集めてくれているはずです。細かいことは行ってから考えても遅くはないでしょう」
「……そうだね。ここで悩んでもしょうがないよね」
そう割り切ろうとするルイシャだがその顔にはまだ不安が残っていた。それを感じ取ったアイリスは彼に近づくと、耳元に口を寄せ彼だけに聞こえるように囁く。
「ルイシャ様の好きそうな水着、用意したので楽しみにしてて下さいね……♡」
「――――っ!?」
驚き距離をとったルイシャはアイリスの顔を見る。彼女は頬を僅かに赤らめ、小さく笑みを浮かべている。
「あ、アイリス!? 何言ってんの!?」
「ふふ、元気が出たようで何よりです。その調子でサクッとお宝を見つけてバカンスを楽しみましょうね」
してやったり顔を浮かべるアイリス。そんな彼女を見てルイシャは敵わないなあ、と思うのだった。
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