第57話 帰宅

 空を切り裂くようにして走る、魔空艇『空の女帝ブルーエンプレス』。

 来る時に乗って来た魔空艇の倍近いスピードが出ており、中にいる生徒たちは楽しそうに窓から外を眺めていた。


「にしてもお前が魔空艇を操縦できるのなんてな。意外だぜ」


「ま、まだまだ素人に毛が生えた程度っすけどね〜。小さい時から車の運転や馬術を習っていたんでその経験を生かしてるだけっすよ」


 ヴォルフの言葉にそう答えたのは、ユーリのお付きであるイブキであった。

 手慣れた様子で操舵輪を握り、空の女帝ブルーエンプレスで雲の中を気持ちよく突っ切っていた。


「なあ、後で操縦を教えてくれよ。俺も操縦出来るようになって大将の役に立ちてえんだ」


「もちいいっすよ。この船はルイっちのものっすから身近に操縦できる人がいた方がいいっすからね」


「よっしゃ! サンキューなイブキ、恩に着るぜ」


 操縦の約束を取り付けたヴォルフはイブキの操縦技術をしっかりと観察し始める。

 しばらくそうしていると、二人の元にユーリが近づいてくる。


「やあ、どうだい操作感は。見たところ快適そうだけど」


「これ凄いっすよ王子。上下左右自由自在に動き回れてスピードもケタ違い。これと比べたら王国がこっそり所有している型落ち品なんかオモチャみたいなものっすよ」


「さっきエンジン部を見てきたが、造りが根本から違っていたよ。やはり帝国の技術は数十手先を行っているね」


 魔空艇の技術を見る目的もあった今回の大会。現物を手に入れることができたのは王国にとってかなりプラスの出来事なのだが、そのあまりの技術格差にユーリはショックを受けていた。


「あんま思い詰めない方がいいっすよ王子。皇帝と剣王を見た感じ、今すぐ戦争を起こそうって感じじゃなかったじゃないっすか」


「……そうだな、焦っても仕方ないか。今やれることを一つ一つ頑張ろう」


 そう気を取り直したユーリは、ある人物がいないことに気づく。


「ん? そう言えばルイシャはどうした? あいつだったら魔空艇の操縦にも興味がありそうなもんだが……」


「あー、そのことなんだが……」


 しばしの沈黙のあと、ヴォルフは言いづらそうに口を開く。


「大将はお仕置き部屋だ……」


「oh……」


 色々と察したユーリは顔を手で覆うのだった。



 ◇


 空の女帝ブルーエンプレス内のとある個室。

 一人用のに作られたその部屋はあまり広くはない。一人で過ごす分には十分なスペースだが、二人も入れば結構狭く感じてしまうだろう。


 そんな部屋に今、三人の人物がいた。


「さて、どういうことか説明して貰おうかしら」


「は、はは……」


 苦笑いを浮かべるルイシャ。

 今彼はシャロとアイリスに両方に壁ドンをされている・・・・・形になっている。


 二人から体を押し付けられ身動きを取ることもできない。二人のやわらかいそれがぎゅむりと当たり、幸せな感触がするのだが明らかに怒っている二人の顔が近くにあるので素直に喜べない状態だった。


「言い訳があるなら聞くわ、本当に納得させてくれるならね」


「ルイシャ様、私は非常に残念です。本当はこのようなことはしたくないのですがしょうがないですよね? キチンと反省して頂かないとまた何処ぞの馬の骨を手込めにしてしまうのでしょうから」


 圧。強い圧を間近に感じルイシャは冷や汗をだらだら流す。

 その間も二人の甘くていい匂いが鼻腔をくすぐり、脳が勝手に興奮してしまう。しかし今二人に手を出すわけにもいかない。

 ルイシャは必死に理性で本能を抑え込む。


「ご、ごめん二人とも。もうしないから一旦離れて貰えないかな……?」


 ルイシャは必死に懇願するが、二人は離れるどころか更に体を密着させてくる。

 二人の大きな胸がルイシャの体に当たり、その形を変える。そのあまりにも気持ちいい感触にルイシャは理性の糸がチリチリと音を立てて焼き切れていくのを感じる。


「ちょ、はなれ……」


「嫌よ。だってまた離れたらどっかで誰かを引っ掛けてくるんでしょ? アイリスの事は……まぁもう許したけど、これ以上増えたらたまったもんじゃないわ。だから話し合って決めたの、これ以上悪い虫をくっつけて帰ってこない方法をね。ね、アイリス」


「はい。私は考えました。なぜルイシャ様は私たちがいるにも関わらず他の女性に目移りしてしまうのかを。考え抜いた末、私は一つの答えに辿り着きました。……それは私たちがルイシャ様を満足させてあげられていないから、です」


「いやそれは」


 違う、と言おうとするがアイリスはその言葉を遮るかのように話し出す。


「ルイシャ様の獣欲を鎮められていないのは私たちの責任です。……なのでこれからは徹底的に絞らせて頂くことに致しました。他の女性に目が向かないよう、徹底的に」


 そう語るアイリスの目は真剣マジだった。

 使命感すら感じるその眼差しにルイシャはひるむ。


「いやだから僕は大丈夫だって……」


「それが信用ならないって言ってんのよ。あんたにその気がなくてもまた流されるかもしれないでしょ。だからそんなことが起きないように精も根も尽き果てさせてあげる。ついでに私たちの匂いも付けておけば悪いむしも寄ってこないでしょ」


 そう言ってシャロは自分の匂いを移すようにその体をルイシャにこすりつける。それと同時にアイリスも体を押しつけルイシャの劣情を誘う。


「ちょ、二人とももう限界だからやめ……」


 残る理性を総動員させ耐えようとするルイシャだが、二人の怒涛の攻めに理性のダムは決壊寸前だった。

 しかし必死の説得虚しく、二人の攻めはどんどん過剰になっていく。


「安心しなさい、あんたがもう頑張って耐えなくてもいいようにしっかり調教してあげるから……♡」

「はい。申し訳ありませんがしばらく寝れるとは思わないで下さいね……♡」


「ひっ、ゆるし……」


「「だめ(です)♪」」


 結局王都に着く次の日の夕方までルイシャの姿は船内で見られず、下船する時に何人かがカサカサのミイラみたいになった彼の姿が目撃しただけだった。

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