第27話 一日目を終えて
第27話 一日目を終えて 天下一学園祭一日目が終わった日の夜。
魔法学園の生徒たちは宿舎の広間に集まっていた。
「えーそれでは、無事一日目を乗り切ったことを祝して! 乾杯!」
「「「「かんぱーい!!」」」」
ユーリの号令に合わせ、生徒たちは手に持ったグラスをぶつけ合う。そして一気にグラスの中に入った液体を流し込むと、みな今日のこと、そして明日からのことを話し始める。
「今日の相手はたいしたことなかったね。こりゃ優勝は僕たちがいただきかな」
「そんなことより俺は試合に出れなかったことが不満だぜメレル。明日こそは大暴れしてやっよ!」
「はいはい。出れるといーね」
「んだと!?」
いつも通りぎゃいぎゃいと楽しそうに騒ぐクラスメイトたち。
そんな彼らを見ながらユーリはゆっくりと味わいながら葡萄酒を口に運んでいた。
「上機嫌だねユーリ」
「ん? ああルイシャか」
ユーリは自分に話しかけてきた人物を確認すると、自分の横に置いてある椅子を引き座るよう促す。
「隣に座るといい。良い酒をたくさん用意してもらってる、一緒にどうだい?」
テーブルの上にはお酒だけでなく料理もたくさん並んでいた。そのどれも安物ではなくちゃんとしたレストランで振る舞わられそうな料理だ。
ルイシャは葡萄酒が注がれたグラスを貰うと、口に含む。するとその瞬間芳醇な香りが鼻の中を駆け巡る。お酒に詳しいわけではないがこれが相当な上物だということは想像がついた。
「これ……すごいね。ここにあるもの学園祭の運営が用意してくれたんでしょ? 気前がいいよね」
「これだけ用意してくれるのは三回戦に進出した学園だけだけどね。とはいえここまでの上物は僕でもそうそう飲めない。どうやらセントリアは相当儲かっているようだ」
ユーリは皮肉を込めながらそう言うと、一気にグラスを乾かす。酒に強いわけではないのでその頬は一気に紅潮する。
「……セントリアは王国よりもずっと上手くやっている。元々国家間のガス抜きが主目的だったこの大会を上手く興行に落とし込みこの国は大きく成長した。少し街並みを見て回ったがここに住む人たちはいい顔をした者が多かった……僕は、僕ァ悔しいよルイシャ!」
そう言ってユーリは机をガン! と強く叩く。
彼の目は焦点が定まっておらず顔は真っ赤っかだ。完全に酔っ払ってしまっている。
しかし口にしてる言葉は本心なのだろうとルイシャは感じた。普段は物分かりの良い王子を演じているがその中身は国を熱く思う熱血漢なのだ。
「ルイシャぁ……僕ぁやるぞぉ……くにを、おおきく……」
酔いが完全に回ってしまったユーリはうわごとのように呟きながら突っ伏してしまう。このまま放っておくと完全に寝てしまいそうだ。
そんな彼の様子に気づいたイブキはその体を無理やり起こす。
「ほら王子なに寝てんすか。明日もあるんだからこんなとこで寝ちゃダメっすよ。いい子だからお部屋に戻りまちょうね〜」
ユーリの意識が朦朧としてることをいいことに、イブキは彼を赤ん坊のようにあやす。
するとユーリは寝ぼけてバランスを崩しイブキの胸元に頭を埋め抱きつく。
「ううん、むにゃむにゃ」
「ちょ、王子何してんすか!?」
突然のことにビックリしたイブキは思わず自らの主君を投げ飛ばし地面に叩きつける。
「きゅう」
かわいい声を上げながらユーリは完全に意識を手放す。
それを見たイブキはやっちまったという感じで兜のてっぺんをポリポリと人差し指で掻く。
「あはは、やっちまったっすね。ルイっち、これは二人の秘密ってことで」
「う、うん」
「恩に切るっす。それじゃ俺っちは王子を連れて部屋に戻るんで後は三人でごゆっくりす〜」
「うんじゃあね……って三人?」
三人と言う言葉に引っ掛かりを覚えるルイシャ。
何のことだろうと考えながら机に向き直り料理に手を伸ばそうとした瞬間自身の両脇に誰かがドサリと勢いよく座り同時に腕を組んでくる。
「ちょっとるい! なんであたしの相手しないのよ!」
「わたしと一緒にのみましょうよるいしゃ様。これ、おいいしいですよぅ」
そう言ってルイシャの右腕をシャロが、左腕をアイリスがガッチリとホールドする。なんとか抜け出せないかと試みるが、物凄い力で掴んでいるためビクともしない。
「ふ、二人とも顔が真っ赤だよ? ちょっと飲み過ぎなんじゃない?」
「うっしゃい、全然こんなののんだ内にはいららいわよ」
そう悪体をつくシャロの呂律は明らかに回っていない。お酒に強い彼女がここまで酔っ払う姿は珍しい、よほど飲んだのだろうとルイシャは推測する。
「ふふふ、シャロはわたしとるいしゃ様のらぶらぶ♡でぇとの話を聞いてムキになってるんです。おとめですよねえ」
「るい! きょーはあたしとアイリスどっちがだいじなのか言うまで帰さらいんだからね!」
二人の話を聞くにアイリスがルイシャとデートした話を聞かされたシャロが怒って飲みすぎたらしい。そしてそれにつられて一緒にたくさん飲んだアイリスも酔っ払ってしまったようだ。
二人ともお酒が強い上にちゃんと限度を弁えているので、普段はこんな風に酔っ払うことは、ない。
しかし話が盛り上がったこと、学園祭という浮かれた空気であること、勝利の余韻、美味しい酒、様々な要素が絡み合いこの地獄のような空気が出来上がってしまった。
「ルイシャ……骨は拾うからね……」
クラスメイトのチシャは離れたところでルイシャを見守る。近くにいたら被害を被りそうなのでチシャだけでなく他のクラスメイトたちも距離を取っている。おかげでルイシャは誰にも助けを求められなくなっていた。
「あの、そろそろ離し……」
「あによ、めいわくだっていうの? アイリスとはでーとしてあたしの酒にはつきあえないっていうのいうの?」
「いやそういうわけじゃ」
頭をギュンギュン回転させてこの場を切り抜ける方法を考えるルイシャ。するとアイリスが「あ」と突然声を上げる。
「そーだ、いい考えがうかびました。口をわらないなら体にききましょう」
「む、アイリスにしてはいいかんがえね。しょーぶなら負けないわよ」
「それはわたしのセリフです。るいしゃ様のおからだはわたしのほうが知りつくしてます」
そう言って二人はバチバチと視線をぶつけ合わせるとルイシャの腕を掴んだまま立ち上がる。そして抵抗するルイシャを容赦なくズリズリと引きずっていく。
「ちょっと落ち着いてよ! ねえってば!」
まだ抵抗するルイシャ。そんな彼を見てシャロは「はあ」とため息をつくと彼の耳元に顔を近づけて、ルイシャにだけ聞こえる声で囁く。
「言っとくけど、私そんなに酔っ払ってないから。
そう言って頬に軽くキスをすると顔を離す。彼女の思いがこもった言葉とそれを言った時のかっこいいキメ顔にルイシャは胸が跳ねるのを感じる。
「どーやら少しはやる気になったみたいね」
そう言って彼女はニカっと笑うと、戸惑うルイシャを引きずり広間を出ていくのだった。
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