第25話 第二回戦

 セントリア第一闘技場に足を踏み入れるユーリ。その後ろにはイブキとシャロがついてきている。

 観客席には相変わらず観客がすし詰めに押し寄せており、その熱気は一回戦の時より増していた。


『さあ! 二回戦第一試合は圧倒的な実力で一回戦を勝ち抜いたフロイ魔法学園と、これまた一回戦を難なく突破したグランディル貴族学園だァ! いったいどちらが二回戦を勝ち抜き、三回戦に進むのか!? 目が離せないぜッ!』


 実況のペッツォがそう煽ると観客席は更に盛り上がり、歓声と熱気が闘技場を包み込む。

 人前に出ることに慣れているユーリもこれほどの歓声を浴びるのは初めて。クールな彼もその熱量に少し圧倒されてしまう。


「ふふ、これはヘタな戦いをするわけにはいかないね。僕が無様に負ければ王国の評判が悪くなる」


 真剣な面持ちでそう呟くユーリ。そんな彼にイブキとシャロは茶々を入れる。


「心配しなくても大丈夫っすよ。王子が下手こいても俺とシャロっちがちゃんとフォローしてあげるっすよ」


「イブキの言う通りよ。だから安心して恥かいて来なさい。腹抱えて笑ってあげる♪」


「……こんな状況でもいつも通りの君たちを尊敬するよ」


 げんなりした様子で答えるユーリだが、気づけば先ほどまでの緊張は収まっていた。

 二人のおかげで覚悟の決まったユーリは視線の先にいる三人の男子学生に注目する。いかにも貴族らしいギラギラした装飾の目立つ学生服に身を包んだ彼らはユーリをニヤニヤしながら見ていた。


「……どうやら余程いいことがあったみたいですね。しかし真剣勝負の前にそんな緩み切った情けない顔を見せるものではない。貴族とは市民の模範になるべき存在なのですから」


 ユーリにそう話しかけられ貴族学園の生徒は驚いた顔を一瞬浮かべるが、すぐにまた下卑た笑みを浮かべる。


「これはこれは申し訳ありません殿下。まさかしがない一貴族でしかない私たちが貴方様と手を合わせられるとは思わず嬉しさを抑えきれませんでした。お手柔らかにお願いしますね」


 貼り付けたような笑みを浮かべながら生徒は言う。

 もちろん今彼が言ったのは本心ではない。貴族学園に行ってる生徒のほとんどは貴族を贔屓しない魔法学園の存在を疎ましく思っている。フロイ国王は貴族が強い権力を持つのを禁止し、以前は横行していた賄賂で悪行を見逃す行為も厳しく取り締まるようになったため多くの貴族達は国王を恨んでいる。

 そんな悪徳貴族に育てられた子ども達が王子を疎ましく思うのも当然の結果であり、彼らはどのようにしてユーリを痛めつけ民衆にその醜態を晒すかで頭がいっぱいだった。


(楽しみですよ殿下。その整った顔が恥辱に染まる様を見るのがね……♪)


 彼らは湧き上がる愉悦を顔に出さぬよう努めながら杖を構える。一方ユーリは腰に差した杖を引き抜かず腕を組み仁王立ちをしていた。


「……なんのつもりですか殿下?」


「初手は君たちに譲ってあげようと思ってね。余裕を見せるのも上に立つ者の務めだからね」


「それはそれは立派な心意気ですね……では、思う存分甘えさせていただきましょうかッ!!」


 額に青筋を立てながら生徒は吼える。

 ここまでコケにされたのは初めての経験だった。怒りが魔力となり彼の体を包み込む。


『おおっとォ! 始まる前から盛り上がってる様子だッ! それじゃそろそろ始めるとするぜッ!』


 一触即発の空気を感じ取った解説のペッツォは予定より少し早めだが開始のコールを始めることにする。


『天下一学園祭二回戦第一試合、開始スタートッ!』


 その宣言と共に貴族学園の三人は魔法を発動する。

 狙いはもちろんユーリ。他の二人には目もくれなかった。


中位電撃ミド・サンダー!」

火炎魔刃フラム・エッジ!」

広範囲岩石ラジロック!」


 三者三様の魔法が発射され、ユーリに激突し激しい音と砂煙が巻き起こる。避けたり防御魔法を使ったようには見えなかった。観客達は早くも一人脱落したか……と思ったが、砂煙が晴れるとその中から仁王立ちしたままのユーリが姿を表す。

 あれだけの魔法が直撃したにもかかわらず衣服が少し汚れいるだけで傷を負ってはいなかった。


「ば、ばかな……!?」


 口をパクパクと動かし絶句する貴族学園の生徒たち。

 ユーリはそんな彼らのリアクションを見て満足そうに笑みを浮かべ、こう宣言した。


「さて、次は僕の番だね」

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