第11話 布石
鬼ごっこが始まってすぐのこと。
ルイシャは生徒会長をすぐに探すことはせず、生徒会の書記であるユキに近づいて行った。
「すみません、お聞きしたいことがあるのですが」
「なんでしょうか? 残念ですが会長の不利になるような情報は漏らしませんよ」
「嫌だなあ、そんなこと考えてませんよ」
あはは、と笑いながらルイシャはこっそりポケットの中から小さな水晶を取り出す。直径五センチくらいの角張った青い水晶だ。その水晶は透明度がそれほど高くないので品質は低い、この程度の水晶であれば商店で安価に手に入るだろう。
ルイシャはそれをこっそり握りしめ、魔力を流しながらユキに質問を続ける。
「ユキさんが時間の計測をして下さってるんですよね? 制限時間が過ぎたらどうやって会長にそれを伝えるんですか?」
「制限時間を過ぎた時点で私が大声で終了を告げます。『かいちょー! どこですかー! おわりましたよー!』ってね」
「……なるほど」
そう言ってルイシャはニヤリと悪そうな笑みを見せる。
その勝ちを確信したかのような邪悪な笑顔にユキは言いようのない不安感を覚える。
「ありがとうユキさん、あなたのおかげでこの勝負に勝てそうです」
「あなた……一体何をするつもりなのですか……!?」
戦慄するユキに、ルイシャは手に握った水晶を見せる。
そしてその水晶に魔力を流し込んでその
『かいちょー! どこですかー! おわりましたよー!』
その水晶から発せられたのは先ほどのユキの声だった。セリフだけじゃない、発音や声の高さなど本物のユキの声となんら変わらない声が流れてきたのだ。
「な、なななな何ですかこれは……!?」
「これは『録音水晶』、音を記録して流すことの出来る水晶です」
「そ、そんな物があるなんて聞いたことないですよ!?」
ルイシャのいるこの世界にも、蓄音器とレコードはある。しかし魔法技術で音を記録する技術は確立されていなかった。
しかし魔法の大天才、魔王テスタロッサは無限牢獄内でこの技術を片手間に完成させていたのだ。
ルイシャは彼女が発明した魔法の道具、『魔道具』のいくつかの製造法を教わっていた。この録音水晶もその一つで水晶一つあればものの数分で作れてしまう優れものなのだ。
「耳に入ってきた音を魔力に変換して水晶に記録させる。言葉にしたら難しく聞こえるかも知れませんが、魔法を少しでも使える人だったら簡単に使えるようになりますよ。近いうち商店でも売りに出すつもりなので良かったら買って下さいね」
「ぐ、ぐにに……」
頬を膨らまし悔しがるユキ。
彼女はまんまとルイシャに嵌められ声を記録されてしまったのだ。
「し、しかし声を記録しただけで会長を騙せるとは思わないことです! いくら私の声がしたとて私がいなかったら会長は姿を現さないでしょう!」
「もちろん
ルイシャはそう言うとユキの顔をよく見ながら魔法を発動する。
「
魔法を唱えた瞬間、ボフン! と煙がルイシャを包み込む。その煙が晴れると……なんとルイシャの顔はユキそっくりになっていた。
「どうですか? ちゃんと変身出来てます?」
「あ、あわわ……」
あまりのショックにユキは口をパクパクさせて喋ることすらできなかった。
それほどまでにルイシャの使った魔法は珍しいものだった。
そしてユキたち生徒会のメンバーだけでなく、シャロたちも同様に驚いていた。
「その魔法、パルディオのやつじゃない。いつの間に使えるようになってたの?」
「ふふん、中々難しかったけど先週ようやく使えるようになったんだ。まだ顔だけで体型とか声は真似出来ないけどね。まあユキさんと僕の背丈は同じくらいだしバレないでしょ」
ユキの顔をしたルイシャは得意げにそう言うと、水晶を握りしめ歩き始める。残り時間は六分、それほど猶予はない。
「さて、今度はこっちのターンだ!」
そう宣言したルイシャは勢いよく駆け出すのだった。
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