第7話 スモウ
「それでは一つ目の勝負だが……」
「いやだからやらないんですってば!」
人の話を聞かず話を進めようとする生徒会長をルイシャが呼び止める。
すると生徒会長は心底意外そうな顔で「へ?」と声を出す。
「なんで? 生徒会長になりたくないのか?」
「だからそう言ってるじゃないですか。僕は別に生徒会長になりたくないです!」
生徒会長になれば就職に有利になることはルイシャも知っている。しかし元々彼にそのような欲は無い。生徒の上に立って何かを成し遂げたいという気持ちも無いので彼の提案はルイシャにとって魅力的なものではなかった。
「ぐぬぬ、生徒会に入れば食堂で生徒会割引が使えるぞ?」
「いや、大丈夫です」
「生徒から尊敬されるぞ! モテモテにだってなれる!」
「それも大丈夫です」
「そうだ! 天下一学園祭の出場メンバーも決めれるぞ!」
「だから別に……って、今なんて言いました?」
生徒会長の発した『天下一学園祭』という言葉。
ルイシャはその言葉に引っかかる。
「ん? その言葉の通りだ。もう直ぐ開催される『天下一学園祭』は君も知っての通り大陸中の学生が集まり最強の学生を決めるお祭りだ。生徒会長はその出場メンバーを決める権利があるんだ。もし君が勝てばこの権利をあげようじゃないか」
その言葉にルイシャは息を飲む。
なぜなら彼はなんとかしてその『天下一学園祭』の出場メンバーを決められないかと考えていたからだ。
ルイシャがそこまで固執する理由はその学園祭の優勝商品にある。それさえあれば勇者の遺品集めに大きく一歩近づけるのだ。なんとしても手に入れておきたい。
「……分かりました。その勝負、お引き受けいたします」
生徒会に入る気などさらさら無いが、その権利だけ欲しいルイシャは覚悟を決めてそう宣言する。
まさかその権利を欲しがると思っていなかった生徒会長は最初こそキョトンとしていたがすぐにニヤリと笑みを浮かべる。
「ふふふ、勝負をうけてくれて嬉しいよ。じゃあ早速一戦目を始めようじゃ無いか」
そう言って生徒会長が指を鳴らすと、先ほどまで『生徒会三番勝負』と書かれた板を持っていた生徒がルイシャの前まで出てくる。
「魔法学園二年Aクラス、生徒会庶務のマイト・ツェッペリンだ。初戦は俺が務めさせてもらう」
身長二メートルはある大柄の生徒が拳を鳴らしながらそうルイシャに宣言する。
全身が岩のようにゴツゴツとした筋肉に覆われている彼は見るからにただ者ではない。
「俺との勝負は単純、地面に描いた円の中に入ってそこから相手を押し出すか足以外を地面につけさせたら勝ちだ」
「なるほど『スモウ』と呼ばれる競技ですね。分かりました」
その競技は異世界から伝わった戦闘方法の一つだ。
あまり有名ではないが、ルイシャは世界各地の戦闘技術を勉強しているので知っていた。
「ほう、よく知ってるじゃないか。だったらこの競技が体が大きいやつが有利なのも知ってるな?」
「ええ。だけどそれだけで勝負が決まるわけじゃないことも知ってますよ」
「……なるほど、面白い!」
マイトが地面に描いた直径五メートルほどの円の中に二人は入る。
その体格差は歴然。身長百六十センチちょいのルイシャに対し、マイトの身長は二メートル。これでは大人と子供だ。
しかしルイシャの表情から不安は見えない。
彼は信じているのだ。自分を鍛え上げた師匠のこと、そしてその修行についてきてくれた自分の体のことを。
「それじゃあ始めるぞ、準備はいいな?」
「はい、いつでもどうぞ」
二人は円の中で腰を低くし……そしてお互い示し合わせたかのように同時に突進する。
「はっき……よいっ!!」
叫びながらマイトはルイシャの頭目掛け思い切り頭突きをかます。体重百キロを超える巨漢から繰り出す超速度の頭突きだ。並みの人間ならば頭が潰れてしまうだろう。
しかし今回の相手は並ではなかった。
「むん……っ!!」
ルイシャは逃げずその頭突きを真正面から頭突きで反撃をした。
お互いの頭は綺麗にぶつかり、周囲にゴンッッ!! とまるで鉄の塊同士がぶつかったような音を撒き散らす。
そしてその数秒後……倒れたのは巨漢のマイトの方だった。
「ば、ばか……な」
そう捨て台詞を残した彼は鼻から血を垂らしながら地面に伏す。頭部には巨大なタンコブが残っており衝撃の凄まじさを物語っている。
一方ケロっとした様子のルイシャは残り二人の生徒会メンバーに目を向ける。
「さて、次はどちらですか」
この瞬間、生徒会は自らがとんでもない人物に喧嘩を売ったのだと理解したのだった。
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