第43話 魔将

 アイリスの攻撃を受け吹き飛ぶウラカン。

 しかし自らの主人がやられたというのに部下の二人は顔色一つ変えずにその場に立っていた。


「ずいぶん余裕ですね、自分の主人が心配ではないのですか?」


 不思議に思ったアイリスがそう尋ねると、ウルスは「はあ」と嘆息する。


「心配? 俺がボスを? それはありえねえな」


「……随分薄情なのですね。その程度の忠誠心ということですか」


「くく、小娘。お前はウチのボスのことをちっとも分かってねえ」


 そう言ってウルスは顎をクイ、とウラカンの方に動かしそっちを見るように促す。

 アイリスは警戒しながらもそちらを見ると、なんと渾身の魔法が直撃したはずのウラカンがゆっくりと立ち上がっていた。魔法が当たった場所の服は破けているものの、体には外傷はない。足取りもしっかりいていてピンピンしていた。


「なっ……!」


 絶句するアイリス。

 倒すまではいかなくとも痛手くらいは与えられると思っていた。想像以上の実力差にアイリスは絶望感を覚える。


「ふふふ、いい顔だね。実にそそる」


 恍惚とした表情で舌なめずりするウラカン。その気持ち悪さにアイリスはゾッとし鳥肌が立つ。


「君の攻撃が私に届くことはない。なぜなら君と私には埋められない壁・・・・・・・があるからね」


 そう言ってウラカンは自分の胸の真ん中を親指で指差す。

 そこにあったのは銀色に光り輝く紋章。書かれている文字の意味は『魔将』だ。


 その紋章を見たアイリスは顔を曇らせる。


「それは将紋……!」


「ふふ、理解できたかな? 君と私の力の差が」


 将紋を持つ者と持たない者ではその実力に雲泥の差がある。

 古くからある言葉『将の数で戦争の勝敗が決まり、王がいるかで戦争が起きるかが決まる』からもわかるようにその力は国家間の戦争の勝敗すら決めるほどなのだ。


 それを理解していたアイリスはその場に膝をつき放心してしまう。

 同族を簡単に屠った実力者二人に将紋保持者、とてもじゃないが逆立ちしたって勝てる相手ではない。


 ウラカンはそんな戦意を喪失したアイリスを見て心を躍らせる。


「人の心が折れる瞬間はいつ見ても気持ちがいい……! さて、逃げられても面倒だし足の腱ぐらいは切らせといて貰おうか。なに後で綺麗に治してあげるから安心したまえ」


 ウラカンがそう言うと部下のスパイドがゆっくりとアイリスに近づいていく。

 右手にしっかりと曲大剣を握りしめ、スパイドはアイリスの横に立つ。


「ケケ、なあに痛いのは一瞬だ嬢ちゃん」


 そう言って無情にも振り下ろされる剣。抵抗心を失っているアイリスはぎゅっと目をつぶり痛みに備える……が、いくら待ってもそれは訪れなかった。


「……?」


 不思議に思いゆっくりと目を開けると、なんとスパイドの剣は突如現れた人物の剣によって止められていた。後ろ姿なのでよくわからないがその人物の背は低く大人には見えない。自分を救ってくれるそんな人物は一人しかいない。


「ルイシャ……様……?」


 思わずそう口にするアイリス。

 しかし返ってきたのは意外な言葉だった。


「残念だったわね……ルイ・・じゃなくて!!」


 そう言って目の前の人物は手にした剣でスパイドの剣をはじき、腹部に蹴りを打ち込む。思わぬ反撃を受けたスパイドは腹部を押さえながら一旦距離を取る。


「貴様……一体何者だ?」


 突然の乱入者に苛立ちながら質問するスパイド。その言葉に乱入者は桃色の剣を構え声高々にこう名乗りを上げるのだった。


「私の名前はシャルロッテ・ユーデリア! 誇り高き勇者の末裔にしてあんたらみたいな不届き者を成敗する者、よ!!」


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