第33話 スモーキン
「ぐ、ぐぐ……」
ルイシャの魔法を受けて倒れ。痛みに呻く二十人ほどの魔族たち。
身体の至る所に火傷が目立つが命に別状はない程度だ。もし本気でルイシャが魔法を放っていれば魔族の頑丈な肉体といえど耐え切れず燃えカスとなっていただろう。
なのでこれは脅しなのだ。
『次はない、大人しく投降しろ』とルイシャは言葉でなく行動で言っているのだ。
「まだやりますか?」
その言葉にビクッと魔族たちの体は震える。
彼らは魔族の中でも血の気の多い戦闘狂たちだ。幾度も戦場を駆け抜け奪った命は数知れない。
そんな彼らが自分よりもずっと年下の少年に恐れを抱いていた。頭はやり返せと叫んでいるが身体がそれを拒否してしまっていた。
しかしそんな魔族の中にもまだ牙を抜かれていない者がいた。
「全くだらしないのである! 貴様らはそれでも本当に誇り高き魔族の一員であるか?」
そう言いながらルイシャの前に現れたのは、彼ら魔族の中でも腕利きの傭兵であるルッソであった。
深いシワと立派な白いカイゼル髭が特徴的な老齢の魔族だ。しかし魔族は少しくらい歳を取っても肉体が衰えることはない。なのでいくら年寄りに見えても舐めてかかってはいけない。
むしろ歳を取った分だけ経験が積み上がり厄介な相手となるだろう。
ルッソは鋭い眼光でルイシャを睨みつけながら近づく。その立ち振る舞いは他の魔族たちとは全く違い、ブレず真っ直ぐとしたものだった。
「人間の小僧、確かに貴様は強い。しかしそれだけだ。その年でそれだけの力を持つとはおそらく強大な才能を持って生まれたのだろう。ゆえに貴様には経験というモノが抜け落ちている」
ルイシャはその言葉を聞いて「才能、ね……」と小さく呟く。
しかしその言葉はルッソには届いていなかった。
「単なる力比べであれば貴様に勝つのは難しいだろう。だがこれならどうだ?」
ルッソはそう言ってニヤリと笑うと、懐より一本の葉巻を取り出し口に加え魔法で火を付ける。
突然の一服。いったい何事かと呆気にとられるルイシャ。しかし次の瞬間彼の狙いが明らかになる。
「
ルッソがそう魔法を唱えると、葉巻から出た煙は見る見るうちに膨れ上がりやがてルッソそっくりの人型になる。上半身は細かく再現されているが、足は幽霊のように消えて無くなっている。しかし煙なのでプカプカ浮いているため足がなくても不便はしてなさそうだ。
それを見たルイシャは「へえ」と感心する。
「煙魔法ですか、珍しい魔法を使えるんですね」
「余裕でいられるのも今のうちだぞ小僧。この魔法は貴様のような思いあがった新兵を何人も屠ってきた技だ」
そういうとルッソは煙で出来た分身を追加で二体作り出す。その手には煙で出来た剣が握られている。
「行けっ! 我が分身たちっ! 奴を切り刻めぇ!」
ルッソの合図で猛スピードでルイシャ目掛けて飛び掛かる三体の分身。分身たちは右手に携えた剣でルイシャに斬りかかる。
ルイシャはその攻撃を避けたが、剣はルイシャの髪を僅かに切った。煙で出来ているのにどうやらちゃんと切れるらしい。
ならばとルイシャは煙の分身を殴ってみるのだが、相手は煙。するりとすり抜けまるで効果が無い。
「くく、くくくくく! 無駄だ、貴様では私の魔法を打ち破ることはできない!」
勝ちを確信し高笑いをするルッソ。確かに彼の煙魔法は厄介な魔法だ。
こちらの攻撃は当たらず、相手の攻撃は当たる。単なる力自慢ではこの魔法を打ち破ることはできないだろう。
事実ルッソは才能の上に胡座をかいてきた魔力自慢や腕力自慢を数多くこの魔法で屠ってきた。
……しかしルイシャは彼らとは違う。
「なるほど、身体部分は普通の煙で出来てて、剣の部分は魔力を圧縮させて刃を作ってるんだ。よく考えてるなあ」
まるでステップでも踏むように煙分身たちの攻撃を避けながら、ルイシャは冷静に魔法を分析していた。
ただ倒すだけでは勿体無い。ルイシャは相手の魔法を分析し、自らの糧とする戦い方を好んでいた。
「ふむふむ、よし大体分かったかな。それじゃ時間もないし終わらせるよ」
ルイシャはそう言うや右手の人差し指を煙分身の体に突き刺し「えい」と力を込める。
すると煙分身は突然動きをピタリと止めると、急に『ぼん!!』と爆発して霧散してしまう。
「な、なにごと……!?」
それを見たルッソは信じられないといった感じで目をひん剥き驚く。長年戦場を生きてきたがこんなことは初めてだ。
「い、いったい何をした!?」
「物理的に壊すのは難しそうだったので、申し訳ないですが『魔力無効化』を使わせてもらいました」
「ま、魔力無効化だと……!? 馬鹿なっ!!」
ルッソが驚くのも無理はない。
魔力無効化とは他者の魔法に反対の波長の魔力を流し込み強制的にその魔法を消してしまう超高等技だ。
この技を使うには魔法への深い知識と理解力、そして魔法の腕と膨大な経験値がないと不可能だ。
熟練した戦士であるルッソでもこの技を使うことは出来ないといえばその難易度が分かるだろう。
「魔王テスタロッサにしか使えないと言われた魔族の秘技をこんな子供が……!? ありえぬ! いったいどこでこの技を学んだ!?」
「えーと、その魔王様に教わったんだけど……ま、いいかややこしくなるし。ひとまず眠っててよ」
説明に困ったルイシャはルッソに猛スピードで接近し、目にも止まらぬ速度で首へ手刀を放つ。その一撃をマトモにくらったルッソは意識を失い地面に崩れ去るのだった。
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