第15話

 右からアビル、アダチ、アラキの順に座って、左から両膝に両肘をついている者、腕と脚を組んでいる者、肘掛を使って礼儀正しく座っている者。三者三様別々の格好だけれど、衣装は同じ黒のピンヒールに編みタイツ、腰のクビレが眺められるほど引き上げられた一枚の艶のある布は胸の辺りまで隠すだけで両肩を露出させて衣類として役割を果たしているようにみえない。頭部の兎の耳の模造品まで黒一色で白いのは首につけた赤いリボンを支える紐と両手首に手錠のように巻いてある絹、臀部に付けられた丸い尻尾の飾りだけだった。細かく説明したバニィ衣装は、ただただ、エロかった。


 ホクトに指摘されたとおり肌が露出した格好が好みだったとしても、よもや夢にまで出現させるほど困窮していたとは思わなかった。三人から逃げてしまったのは俺であって自業自得だというのにホクトの肌露出成分ではどうやら満足しきれていなかったのがここに露見してしまった。とはいえ、行きずりで出会った女性たちに露出度が一番高い衣装を妄想で着せるのはなんとも失礼極まりない。


「なんだよ。じろじろみて結構魅了的だろ?」


 誰も見ないとは言っていないので注視してしまうのだけれど、妄想というのは少しだけの教訓を加えることでリアリティに近づけるのだろう。数時間程度一緒にいただけでアダチという女性を知り尽くしてはいないとはいえ、彼女が俺に対してそんな社交的な発言をするとは思えない。やっぱり、これは夢のようだ。


「ほら選べよ旅人。どれからでも準備はできてる」


 橙色の室内。三人の女性が優しく手招きをしてくる。扉は閉められて誰にも行いがバレなさそうだ。張りのある女性の肌があってたった一枚を剥がしてしまえば面積が広くなるだろう。しなやかな指と艶美な唇が誘惑を散布する。温かい空気が香って気持ちを高揚させた。ベッドから下りて三人を品定めするように見下ろす。三人は視線が交わると口を開けて舌を器用に動かした。ああ、親はこの娘たちの行いを知ってるのだろうか? 俺はベッドを見て鞄を持って扉から逃げようとした。


「ちょっと、待て、コラァ!」


 鞄を掴まれて扉から引き戻された。まだ本調子ではなかった体は揺らめいてベッドに倒れこむ。起き上がってみれば、似つかわしくない鬼の形相でアラヤが鞄を掴んだままこっちを見ていた。その隣のアダチは恥ずかしそうに顔を両手で隠していてそんな彼女の頭をアビルが撫でていた。


 何、この状況は?

「据え膳食わねば男の恥と云うだろう? あん?」


 胸ぐらを掴まれて体を揺さぶられる。アラヤさんはこんな暴力的な人でした? そもそも俺の妄想だからどうなのだろう。実は彼女の本性を見抜いていたとかそんなオチだったりして。バニィさんに胸ぐらを掴まれたまま数十秒だったころにアビルは撫でるのを止めてこっちを観た。


「アラヤ、焦っては駄目ですよ。ここから旅人さんに説明したほうが良かったのかもしれません。経験不足でした。男性は狼ですから目の前に美味しそうな兎がいればしゃぶり尽くして食べてくれると思ったのですが」

 人をなんだと思っているんですか?

「熟した果実を成らしていても口に運ばない男性もいるのですね。そこがレベル0である所以なのかもしれませんよ」


 そこまでアビルが話すとアラヤは胸ぐらから手を話して寄った皺を戻すとぺこりと頭を下げて椅子に戻った。三人は椅子に座っている。こっちを見ている者、下を向いている者、横を向いている者。視線を違ってもバニィ姿は同じで椅子に座っている。一時待って三人が同じようにこっちを向くと代表なのかアビルが真剣な面持ちで云った。


「旅人さんの子種が欲しくて強行に至りました」

 …………。


 身の危険を感じた。これ夢じゃないんですね。

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