神社のかくれんぼ

ばんがい

神社のかくれんぼ

怖い体験?うん、あるよ。




 小学生の頃なんだけどね。


 夏休みに友達何人かでかくれんぼをしたんだ。


 子供のころ、あんたもしたでしょ?


 当時、かくれんぼにメチャクチャハマっててさ。毎日毎日やってたんだ。学校とか、公園とか。友達んちでやった時なんか、鬼より先に親に見つかっちゃってさ。そんなところに隠れてるなんて思ってもないもんだから、うわぁっ!ってめちゃくちゃ驚かれて……。


 まぁとにかく、オレ達は色んな場所でかくれんぼをやってたってわけ。でさ、その日は普段行かない遠くの公園でやろうってことになったんだ。




 俺は隠れる側でね。鬼の「もーいーかい」って大声を聞きながら一生懸命に隠れる場所を探したよ。あそこじゃ見つかるし、ここじゃ鬼から近すぎるしってウロウロしてたんだ。そんな風にしてたらさ、絶好の隠れ場所を見つけたんだ。


 そこの公園って神社が管理してる敷地の中にあるんだよね。だからかな、公園の入口にでっかい狛犬が置いてあるんだ。その置いてある狛犬の台座。そこに扉がついてたんだ。


 普通なら南京錠とか付けて施錠してあるのかもしれないけど、その時は付いて無かった。


 試しに扉を引っ張ってみると、何の抵抗もなくスッと開いたんだ。俺は恐る恐る中を覗いたんだよ。


 ――残念ながら、そこにはバケツとかホウキとか、そういったのがあるだけだった。普段から物置みたいに使ってるんだなって思ったよ。なんかちょっとだけガッカリしちゃった。


 でもさ、ここに隠れたら凄いぞ、絶対見つからないぞって思った。だから置いてあるバケツとかを端っこにどけて、俺はその中で隠れることにしたんだ。


 こうドアをちょっとだけ開けて、隙間からじっと外の様子を見ていてね。風の通りが悪いからめちゃくちゃ暑くてさ、顔からぼたぼた落ちる汗で足下に黒いシミがいっぱい出来てった。


 そんな風にして、鬼が探しに来るのをじっと待ってたんだ。それなのに――




「もーいーかい」




 不思議な事にいつまでたっても始まらないんだよ。うちらのルールでは隠れ終わったやつは鬼に返事をしなくていいことになってるんだ。じゃないと、声の方向で隠れ場所がばれちゃうからね。


 だから鬼は、みんなの声が聞こえなくなったら勝手に探し始める事になってるんだ。


 だけどさ、始まらないんだよ。聞こえるのは鬼の声だけ。一緒に隠れた奴らの声だってもう全然しないのに。


 しかもさ――




「もーいーかい」




 なぜか声が移動してるんだ。ありえないだろ?いつもなら笑いながら出て行ったかもね「おい!ズルすんなっ!」って。


 でもその日はそんなことする気にならなかった。


 なんかね、その声が変なんだよ。声色は間違いなく一緒に遊んでた友達のなんだ。だけど何人かで同時に喋ってるような、トンネルの中で反響してるような、そんな風に聞こえるんだよ。


 直感的に感じたんだ。あ、これやばいやつだなってね。


 かくれんぼなんかやめて、すぐここから逃げなきゃって思ったよ。でも俺ビビっちゃってさ、扉を握る手は力が入ってはがれないし、足はガタガタ震えて自分のもんじゃないみたいだった。自分の身体なのに自分で動かせる場所が一つもないんだ。マジで目玉一つ動かせなかった。金縛りみたいだったよ。なった事ある?しかもね、なぜか周りの音とか気配で扉の向こうの様子が普段よりはっきりわかったんだ。




「もーいーかい」




 声しか聞こえないのにね、どの辺にいるのか正確にわかるんだ。あ、今ベンチのとこだな、今はシーソーの近くだなって。だからこいつがだんだん自分の所に近づいて来てるってのもわかった。




「もーいーかい」




 もしかしたら全部俺の勘違いなんじゃないかな、そうだったら良いなって思いながら震えてた。そうしていたのはどれくらいだろう?1分だった気もするし、1時間だった気もする。とにかく俺は震えてる事しかできなかった。そして、ついに声が目の前まで来たんだ。


 さっきまでかいてた汗とは違う。べたっとした汗が身体を這ってメチャクチャ気持ち悪かった。心臓がバクバクして、息も荒くなって、もしかしたらその音で見つかるんじゃないかって心のどっかが考えてた。そしてついに俺は、そいつの姿を見たんだ。




 そこにいたのは友達なんかじゃなかった。俺なんだよ、隙間から見えたそいつの姿は俺だった。


 俺が喋ってるんだ。友達の声で「もーいーかい」って。


 しかもそいつの表情がね、笑ってるんだよ。ニコーって。


 目じりが下がって、奥歯が見えそうなくらい口角を上げて、写真を撮る前に全力で笑顔を作りましたみたいな顔だった。その顔が一切変わらないんだ。まるで表情が貼り付けてあるみたいだった。




「もーいーかい」




 あ、俺だ。俺を探してるんだ。そいつの声を聞いてるうちに何故かそう思ったよ。怖くて怖くて、でも目が離せなくて。そいつが、俺の近くをうろうろしてるのをずぅっと見てた。そしてついにそいつと目が合ったんだ。




「もーいーかい」




 叫んだね。小便も漏らしてたと思うよ。肺の中の空気を全部一度に使ったくらいの声を一気に出した。そしたら意識が遠くなってったんだ。






 そのあと?そのあとは、わかんない。だって、気付いたら病院だったんだもん。


 一緒に遊んでた友達が倒れてるオレを見つけてね、近くの大人に助けを呼んでくれたんだって。


 ……うん、そう。親とか医者からは「熱射病にかかったんだ。幻覚を見たんだ」って言われたよ。


 でもね、あれはなんかおっかないものだったと思うんだよね。見つかったら、いや、もし返事を返しだけでも何か取り返しのつかないことになってた。そういうもんだったんじゃないかと思うんだ。


 ……信じられないでしょ?


 まぁ、この話をしたの、あんたが初めてじゃあないんだ。みんな信じてくれないんだよ。だから気にしないで。






 ……実はその声ね。今でも聞こえるんだ。






「もーいーかい」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

神社のかくれんぼ ばんがい @denims

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ